第17話 俺とダンジョンボス

 1時間の休憩が終わり、体力も回復した俺たちは再び坑道内を探索する。

 休憩に使った小屋を拠点に探索をしているならば、こっちも探索をすればそのうち遭遇するだろうという魂胆だった。


「……しっかし、【アルマリレア】さんが探索しているんだろ? まだあちこちに魔物がいるのはどうしてなんだ?」

「こちらが明かりを持っているというのと、魔物は不思議とんですよね。理由はいまだによくわかってません」

「無限湧きするわけなんですね。ゲームだったら狩りをするんですけど……」

「いや、リアルでそれはきついだけだ。そもそも、レベルアップも経験値も現実の俺たちには関係ないだろ?」

「そうですね。ゲームのようにステータスを閲覧なんてできませんしね」

「お遊びでステータス?」


 エルメにだけは伝わっていないようである。

 それもまあ、仕方が無いだろう。そもそもゲーム的要素はゲームをやったことが無い人には伝わらないだろうからね。

 とはいえ、話に置いてけぼりにするのも悪いので、俺はテーブルトークRPGの話題を出してみることにした。


「ああ、そうだな。エルメさんに言って伝わるかはわからないけれども、ロールプレイングゲームって言ってわかるか?」

「ロールプレイングならまあ、わかりますけれども、それを使った遊びですか?」

「あ、ロープレは伝わるんだ。そうだな、例えるならば、勇者パーティーになり切って魔王を倒すみたいな物語があったとして、その勇者パーティーになり切って魔王を倒すまでの筋道を遊んでいくみたいなゲームかな。その時に、戦闘になるんだけれども、ステータス、攻撃力とかそういうものを設定して、戦う感じかな」

「なんでTRPGの説明を始めているのよ」

「いや、だって、イメージの共有するなら、TRPGが手っ取り早いじゃん? 最低限、紙とペンとダイスがあればできるし。まあ、ルールや物語も必要だが」


 そんな雑談をしていると、不意に剣戟の音が聞こえてきた。

 かなり激しい剣戟の音が響いている。誰かが戦っている音だし、こんな場所にいる人物なんて俺たちが探している人物以外にいないだろう。


「キマイラ?!」


 エルメの驚く声と、光に映し出された魔物の姿に、俺たちは恐怖を感じた。

 確かに、これまでの魔物も何かの動物のキメラみたいな感じだったが、これはキマイラ以外に言い表せない魔物だった。

 それぞれの動物の三つ首、筋骨隆々の肉体。あれは……。


「な、なんていうか、ゲームで見たことのある姿のキマイラですね」


 恐怖に震えながらも、龍也くんは的確な指摘をしてくれる。

 そんなキマイラと一人で戦っているのが、まるで王子様のような金髪の男性だった。

 巧みに双剣を操り、キマイラと対等に戦っている。二刀流で戦う姿は、まさに熟練の戦士だった。


「エルメさん、あの人がアルマリレアさん?」

「たぶん?」


 エルメが首をかしげると、男性が返事をしてくれた。


「私に何か用かね? あいにくと強敵と戦っている最中でね、手が離せないのだが!」


 キマイラとアルマリレア氏の戦いは、一進一退という感じだ。

 アルマリレア氏の素早い動きで敵を翻弄しているが、キマイラの魔法やブレス、爪による攻撃の苛烈さに一進一退が続いている状況だった。


「あなたを探してほしいという依頼を受けて、ここまで来たんだ」

「ほう! よくもまあこんな危険な洞窟に女子供を連れてやってこれたものだね!」

「むぅ……」

「ああ、すまない、ほめているのだよ! 私の仲間はこの洞窟を潜るにはちと実力不足だったからね!」


 というか、アルマリレア氏の実力が飛びぬけすぎていて付いてこれなかっただけであるし、俺たちがここまでこれたのは協力してきたからである。

 俺単独でここまで来れたかというと怪しいものだ。


 片手間で会話をしながら、息もつかせぬ攻防を続けるアルマリレア氏の実力はすさまじいように感じる。


「ねぇ、あの人を私たちが助ける必要があるの?」


 ユリアのもっともな疑問に、アルマリレア氏が答える。


「すまない、手伝ってもらえると嬉しい」


 割と正直な感想だった。

 だから、俺たちはアルマリレア氏を手伝うことにした。


「エルメさん」

「任せてください!」


 エルメがそう言うと、俺にバフの魔術をかけてくれる。


「【レジストアイス】!」


 ブレスに氷属性でもあったのかな?

 どちらにしても助かる。

 俺は剣を抜き、構える。アルマリレア氏のサポートをするつもりで立ち回るべきだろう。


「行くよ!」


 アルマリレア氏の呼びかけと同時に、俺はキマイラと相対する。

 改めて対峙すると、恐ろしい相手だ。俺は剣道を通して習得した呼吸法を実践する。

 二刀流を駆使して鋭い攻撃を捌くアルマリレア氏。素早い動きと手数で翻弄している。

 まるで、水が流れるように、キマイラの爪を受け流しブレスを回避している。俺の剣術とは明らかに異なる。


「フッ」


 確かに、俺も剣で攻撃を受け流したり、小手で受け流すことがあるが、アルマリレア氏の剣は流れる水のように受け流すのだ。

 なんで倒しあぐねているのかは、手数の問題だろう。キマイラの物理攻撃はまさに、熊の一撃だ。

 一発もろに喰らえば、即死の可能性がある。というか、剣で受けたが受け流さなければ吹き飛ばされるほどのパワーを感じた。

 そこに、別の頭が魔法を放ってくる。雷の魔法は上空からどこからともなく雷が落ちてくる。これも直撃すればやばい。

 そして極めつけは氷属性のブレスだ。レジスト魔術を受けているおかげで効かないが、直撃したら不味いのはわかる。

 なるほど強敵だなと感じる。


 だが、こちらも、俺たちが加わったことにより手数が増えたのだ。


「シッ!」


 アルマリレア氏のおかげでできた隙を狙い、俺は間合いを詰めて剣を振り下ろす。

 ダメージが通ったのか、血がブシュっと噴き出る。


「ガウッ!」


 すぐさま俺に振りかぶり攻撃が飛んでくる。これを剣で受け流す。

 衝撃が手に伝わり、一瞬痺れるが伝わってくる力の方向に転がり、距離を取る。


「ナイス!」


 ユリアの声が聞こえる。

 と同時に、ユリアが魔術を行使する。


「【ウォーター・カッター】!」


 ユリアの杖から魔力で生成された水が、強烈な勢いで放射される。

 高水圧によってカットする水圧カッターを噴射する魔術だった。

 さすがに、その勢いは不味いと感づいたのかキマイラはそれを回避するが、右足に命中してしまい、蹄の部分がカットされてしまった。


「ユリアさん、何ですかその魔術は?!」

「こう、水で強い攻撃って言ったら、水圧カッターじゃない? イメージしたらできたわ!」


 なんだか無茶苦茶なことを言っている気がするが、おかげでキマイラはバランスをうまく取れなくなっている。

 今が攻め時だった。


「どぉぉぉぅッ!」


 俺は剣を振りぬき、胴を切る。多少毛皮に邪魔されるものの、キマイラの脇腹が切り裂かれる。


「今だ! ピアッシングソーズ!」


 一瞬、アルマリレア氏の剣が瞬き、キマイラの心臓部当たりを鋭い突きが襲う。

 2本の剣による二段突きで、キマイラの胸部に穴が開き、どす黒い血が噴出する。

 そして、そのまま膝をつくと、他の魔物と同様に黒い霧となって消えていったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る