第16話 俺と情報共有の大切さ
俺が息を整えている間、非戦闘要員の龍也くんが小屋の中を調べていた。
小屋は木造建築。炭鉱なだけあり、その辺にショベルやつるはし、鉄製のネコもある。
あ、ネコってのは一輪車の手押し車のことだ。工事現場のバイトをやった時に『ネコ』と呼ぶことを知った。
さすがに、石炭は残っていないが、そういう道具は放置されている。
「しかし、石炭は必要なんだな」
「製鉄に使いますからね。【ノーヴェルン村】には製鉄所がありますし、この炭鉱は使われてないですが、別の場所に炭鉱があるはずです」
俺は剣を見る。
確かに、鉄よりも堅いスチールにするならば必要なのだろう。
剣と魔法のファンタジー世界であるこの星では、鉄の消費量は非常に多そうである。
「あ!」
と、龍也くんが何かを発見したようだ。
声の方を見ると、龍也くんが手招きをしている。
「来て下さい!」
龍也くんが居た場所には、誰かがいた痕跡が残っていた。
要するに、焚火跡だ。
坑道内では何か食料になるものは手に入らないので、持ち込んでいたのだろう、その痕跡があった。
「焚火跡ね」
「触った感じだと熱は冷めている感じですが、他の焚火跡から見ると最近使った感じがしますね」
「龍也くん、よくわかるなぁ」
「これでも、お父さんとお母さんの趣味がキャンプだったので、こういうのはわかるんですよ」
確かにそうだろう。平日なのに登山をしている家族連れなのだ。回数やっていれば子供でもそういうことはわかるのだろう。
「火おこしは最近お父さんに教えてもらって、一人でもできるようになったんです。お母さんは反対していたんですけど、僕がやってみたいって言ったら、火おこしは任せてもらえたんですよ」
日本の普通で考えれば、よくもまあ挑戦させたなという感想が出てくる。
下手すれば火傷をするかもしれないからだ。だがまあ、龍也くんの様子を見ている限りは大丈夫な気もする。聡いからね。
「すごいわね、タツヤ」
「ああ、ご両親に感謝だな……」
エルメは頭の上で「?」を浮かべていたが、現代日本人的な感覚でいえば、一人で親から任せられるというのはすごいことなのだ。
とはいえ、既に亡くなられたご両親を引き合いに出すのは、少しためらわれたが、龍也くんが立派なのはご両親の教育のたまものである。
「うん、まあね」
龍也くんも少しだけ悲しげな表情を浮かべながらそう答えた。
「とにかく、この小屋を拠点として活動されている方がいることは確認できました。周辺にいるかもしれないので、この小屋を拠点に探すと良いかもしれないですね」
「確かに、それが安全策ですね」
龍也くんの案にエルメが同意する。
しかし、俺は腑に落ちない点があった。
冒険者というのは基本的に自己責任の仕事だと思っている。異世界ものだと冒険者っていうのに憧れている人が多いが、俺はそんなことはないと思うんだよね。
ハイリスクでローリターンな自由業ってのが本質だろう。確かに勇者のように派手な活躍をする冒険者はよく物語で描かれているから、日本人が憧れるのはわかるが、現地の人として考えるならば、そんな自由業はどういう評判になるのかを考えれば、言わずもがなだろう。
そんな自称冒険者が行方を数日くらませただけで、捜索願が出るだろうか?
それに、今回の冒険者がなぜ冒険者をやっているのか、そして危険を冒してまでダンジョン探索をやっているのか、気になるところである。
「なあ、ユリア、エルメさん。情報収集している中で、件の冒険者について何らかの情報ってなかったか?」
「あれ、話してなかったっけ?」
「村にいるときははぐらかしてただろ」
「そうだっけ?」
ユリアが俺にヒーローを求めているのはわかっているが、情報の出し渋りはやめてほしいものである。
「えっと、名前は【アルマリレア=セラ=ターネトリアル】。貴族の三男坊で、二刀流の使い手ね」
「貴族」
ああ、なるほどね。納得がいった。
そして、何となくユリアが話そうとしなかった理由も想像がついた。
「まあ、武者修行の旅とか言って、旅をしてるらしいんだけど、名前を隠してないのよね」
「そりゃ確かに、簡単に足が付くよなぁ」
「ターネトリアル家はこの国の伯爵に該当する貴族様らしいです」
「なんというか、抜けているというか……」
こういうお貴族様のお忍びってのは、普通は名前を隠したりするイメージではあるが、どうやらそういうことはしない人らしい。
「あれ、ていうことは見張りなり仲間と書いて監視者みたいなのが居たりしないのか?」
「私が聞いた話によると、どうやら手紙だけおいて撒いて行ったらしいです。普段起きていないはずの夜中に、まるで逃げるように出て行ったと」
あれ、引き受けるって言ったの俺だったよなぁ。
まあ、依頼書だけ見て受けることを決めてたしなぁ。
昔の猪突猛進な悪癖が出てる気がする……。
「はぁ……。そういう重要な情報は、昨日の時点で話してもらえると助かるんだが」
「……まあ、黙ってて悪かったけれども、ヨシヒロも自分で調べたらよかったじゃないの」
「そこについてはごめん。俺も今後気を付けるよ」
今後は自分も人任せにしないように最低限は情報収集を使用と思う。
「ま、貴族様だろうが何だろうが、やることは一つだ。ピンチなら助けるし、無事ならいつ戻るかを聞き出す」
全員うなづく。
そこは共通認識で安心する。
個人的にはまだお互いにパーティとしてのバディシップが組めてない状態なんだなと感じ、信頼関係を紡いでいかないとなと感じだ一幕だった。
なんていうか、全員が俺に勇者ムーブを期待している感じがするんだよね。
残念ながら言うほど打算的な自覚はあるし、そういう高すぎる期待に対して妥協点を見つけてもらう必要があるのかななんて感じたのだった。
まあ、期待に応えるのが一番信頼を得られるわけだが、ハードルが高すぎる場合ってあるからな。
いずれにしても、俺たちは一蓮托生なのだ。仲間として信頼してもらえるように俺も努力をする必要があるなと思ったのだった。
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