第15話 俺とダンジョン探索

「で、ここがその、冒険者が行方不明になったっていう洞窟ね」


 ユリアが洞窟の入り口を見まわしながらそういう。

 村の南方、平原側にある森に少し入ったところにある洞窟だった。

 結局、俺が冒険者の捜索をしたいと伝えたところ、全員で向かうことになったのだ。


「洞窟って言っても、元々は炭鉱だったらしい。その奥で自然の洞窟と接続してしまって、凶悪な魔物が住み着いていることがわかり、放棄されたんだとか」


 事前に洞窟……旧炭鉱に向かう上で村人から情報を集めてきた。

 ユリアたちの方でも冒険者が行方不明になった話はどうやら聞いていたらしい。

 洞窟には特有の魔物が生息しているらしく、それが坑道にあふれかえっている状態のようだ。


「なるほどな。じゃあ、俺たちが探索するのは、坑道の部分だけにした方がいいな」

「どうして?」

「洞窟まで探索するとなると、もっと大掛かりな人数が必要だからだ。とはいっても、痕跡が残っているならば確認はするつもりだ」


 洞窟がどれほどの規模の広さがあるかはわからない。

 マインクラフトでもあるまいし、下手に手を出すならば戻ってこれないことを覚悟しなければならないだろう。

 そんな場所に、俺たちのような洞窟探検の未経験者集団が向かっても、迷子になるだけだ。

 人命救助をするならば、まずは自分の命が助かることを前提に動く必要がある。

 なので、まずは人工の坑道から探索するべきだろう。


「……まあ、自分たちが遭難したら元も子もないわよね」

「そういうことだ」


 あんまり納得していない様子のユリアだが、今の俺はそこまで無鉄砲にはなれない。

 すでに、ユリアや龍也くん、エルメの命を預かっている状態なので、そこに責任を持つ必要があるからだ。

 俺が17、無鉄砲に突っ込んでいったかもしれないけれども、20歳を超えた大人なのだ。


「坑道はどうやら真っ暗みたいですね」


 坑道の入り口を覗き込んだ龍也くんがそうつぶやく通り、ここから見える範囲だけが明るい様子だった。


「一応、ランプは買ってますが、ピンチの時は光源魔術をお願いしますね、タツヤくん」

「うん、任せてよ!」


 ランプを持つエルメに、龍也くんはうなづいた。


「じゃあ、行こうか」


 俺たちは、坑道に侵入した。


 基本的には、隊列は次の通りだ。


 俺、龍也、エルメ、ユリア


 ユリアは中に宇宙服を着こんでいるし、魔術が使える。だから、殿をお願いした。

 先頭はもちろん俺だ。すぐに守れるように龍也くんを後ろに、ランプと回復魔術が使えるらしいエルメをユリアの前に置いた。

 坑道の中は暗く、野生の蝙蝠が住み着いている。エルメ曰く、襲ってこなければ野生動物らしい。

 ただ、その中でも厄介な魔物がいた。血吸い蝙蝠だ。

 気が付いたのは俺が嚙まれたからだ。


「ぐぁ?!」


 俺が慌てて振り払うと、他の蝙蝠とは明らかに違うサイズの蝙蝠が飛んでいた。


「血吸い蝙蝠!」

!」

「はい!」


 俺は剣を握りしめる。

 こういう小型で飛び回る敵は当然ながら、攻撃がなかなか当たるものではない。

 俺は息を吐いて集中する。吐き切った後、俺は剣を振り血吸い蝙蝠に攻撃を仕掛ける。

 もちろん、元居た場所に剣を振っても意味がない。相手の位置を予測して攻撃をするのだ。

 すると、手に剣が何か柔らかいものに命中した感覚が伝わる。切った感覚ではなく、殴った感覚だ。


「避けられたか?!」

「当たってはいるみたいです!」


 どうやら、蝙蝠の素早い動きで身をよじって回避したのだろう。すぐに嚙みついてくる。


「ちっ!」


 思わず舌打ちをしてしまう。


「回復魔術!【キュア】!」


 と、エルメが俺に回復魔術を使ってくれたらしく、嚙まれた跡が回復する。


「【ウォーター】!」


 同時に、ユリアの放った魔術が血吸い蝙蝠を水で包み込み溺れさせる。


「そこだ!」


 さすがに、水に包み込まれた水玉を切るのは容易だった。

 今度こそ叩き切った感覚が剣を通して手に伝わる。

 切り伏せた蝙蝠は地面に落ちると、そのまま霞のように消えてしまい、後には魔石が残った。


「ふぅ、思ったよりも苦戦してしまったな」

「そうね。まあ、魔術はかならず当たるみたいだし、ああいう敵は私に任せてよね!」


 ユリアの言う通り、小柄で空を飛ぶ敵は任せた方がよさそうだった。


「エルメさんも、回復ありがとう」

「いえ、そこは任せてください」


 俺は噛まれた場所を見ると、血の跡は残ってはいるものの傷跡はなかった。

 回復魔法を使われる感覚なんて、戦闘中だったためによくわからなかったが、すごいことなのではないかと俺は感じたのだった。


 その後も何匹か魔物と遭遇する。

 スライムとは違い、鉱物を摂取しているからか黒く濁ってしまっている『タールゼリー』、なぜか生息している『ガルム』、かなりの頻度で遭遇する『血吸い蝙蝠』。

 タールゼリーに関してはユリアの炎の魔法で瞬殺でき、ガルムも戦いなれているため問題はなかった。やはり、血吸い蝙蝠はなかなかの強敵で、集団で出てくる場合がほとんどであり、何とか対処できている状態だった。

 それも、戦いに慣れてくれば、俺でも切り捨てれるようになってきたのは短いスパンで繰り返し戦ったからだろう。


「はぁ、はぁ、敵、多くない?」


 さすがに休憩を取る必要がある程度には戦い続きだった。

 坑道と言っても、基本的に一本道で迷いようがない。

 入り口は狭かったが、奥に進めばそれなりに広い空間だ。それでも敵が多いというのはなかなかにつらいものがある。


「そうだね。お兄さんが倒した魔物の魔石を回収しているけど、もう26個まで溜まったよ」


 龍也くんの指摘に、ちょっとげんなりする。

 まあ、正確には俺が切り伏せた魔物の数だと半分も行かないが、それでもである。


「私もさすがに、魔術を連発したせいで疲れちゃったわ」

「ちょうどあそこに小屋がありますから、そこまで頑張りましょう!」


 エルメに促され、俺たちは坑道内にある作業小屋にお邪魔させてもらう。


「あ、【魔物避け】ありますね」


 エルメが小屋に入るなり、不思議な形をした装置を見つけてそう言った。


「【魔物避け】?」

「はい。魔石を入れることによって一時的に魔物を寄せ付けない結界を張れる魔術装置ですね。基本的に大型になってしまうので、簡単に移設ができないのが欠点なんですが、使えば1時間は休憩できるので、村や町以外の小屋に設置されていることがあるんですよ」

「そうなんだ」

「さっそく、魔石を1コ使いますね」


 エルメは龍也くんから魔石を受け取ると、装置に魔石を入れる。すると、稼働し始めたのか、ほんのりと文様が浮かんできた。


「これで、1時間は休憩することができますね」

「助かる!」


 というわけで、俺たちは1時間ほど休憩を取ることにしたのだった。

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