第11話 俺と異世界の旅のはじまり

 気が付けば、もう3日が経っていた。

 そして、ユリアと龍也くんが簡単ではあるが魔術を操れるようになっていた。


「ヨシヒロ、面白いものを見せてあげるわ!」


 ユリアがそう言って見せてくれたのは、いわゆる『攻撃魔法』だった。

 いや、正確に言うならば魔術らしいけれどね。

【魔法】ってのは結果に対して原因が魔力以外存在しないもので、【魔術】は結果と原因を結びつけるものが魔力であるということらしい。

 よくわからない。


「いくわよ! 【ファイヤ】!」


 エルメからもらったらしい杖を使って魔術を発動させると、空間に魔術式という名前の魔法陣が浮かび上がり、中心から火の弾が飛び出して的に命中した。


「どうかしら? これで私も戦えるわよ!」


 ドヤ顔でそういうユリアだけれども、ユリアは俺よりも進んだ文明に住む人間であることを考えると、なんだかおもしろかった。


「ああ、助かるよ」


 一方、龍也くんの方は生活魔術というのを覚えており、『攻撃魔法』とは異なる一般人が生活で利用しているような魔術を使えるようになっていた。

 どちらも、単に守られるだけの関係性にはなりたくなかったようである。

 俺としても、一人ではできないことが多いので別にそういう風には考えていなかったが、手伝ってくれるなら助かるというものである。


「で、ヨシヒロのほうはどうだったの?」

「ん、まあ、片手剣を借りれたからある程度は戦えるようになったよ」


 実際剣道の刀の使い方と、西洋剣の直刀では戦い方が異なっている。

 剣道の剣の使い方では、西洋剣では戦い方が合っていないことを実感した。

 ともあれ、剣の振り方は剣道とは異なるものの、片手剣ぐらいの長さならばやはり、真っすぐに振り下ろした方が切れ味が高いのはその通りだろう。

 その基礎の部分は共通していると感じた俺は、3日間でなんとか戦えるようにした。

 ……なんだか、RPGのレベルアップってこういうことなのかなと感じる。最初のころは成長が早いと感じるのは、確かにその通りなのだろう。


「……歴戦の片手剣って感じね。新しいのを買った方がいいんじゃないかしら?」

「ああ、そのつもりだよ」


 俺たちが談笑をしていると、村長が村人何人かにいろいろ持たせて現れた。


「ヨシヒロ様、ユリア様、タツヤ様、ご出発に際してこちらからいろいろと準備をさせていただきました。お受け取りください」

「えぇ? それを準備していたんですか?!」

「はい。何かと異世界の勇者様と縁がある村ですので、その際は支援をするしきたりになっているのです。それに、異世界から来られた方は何も持っていないことが多いと伝わっています」


 村長の話から、どうやらこの星に流れ着く異世界勇者が稀に発生するようである。


「はぁ、【赤い月】の起こす厄災ってやつですか?」

「はい。もちろん、【赤い月】の厄災以外の時に現れる方もいますがね」

「ユリア?」

「私は知らないわよ、そんなこと。このお母さんが渡してくれたネックレスだって転移装置だなんて知らなかったしね」


 とはいえ、好意で渡してくれるならば俺としては受け取ることにやぶさかでない。

 3日間一緒に過ごして、この村の人が善良であることはよくわかっていた。


「とにかく、ありがとうございます」

「いえいえ、それと、ヨシヒロ様にはこの剣をお渡しします。村の鍛冶師が丹精を込めて打った剣です。大事に使ってやってください」

「ありがとうございます」


 それは、片手剣であったが質の良さをうかがえる。

 個人的にはやはり日本刀がいい気もするが、西洋っぽい文化であるし、仕方が無いだろう。


「ユリア様はこの度魔術を扱えるようになったとか。ですので、こちらの魔術の杖をご用意させていただきました」


 ユリアが受け取った魔術の杖は中心にサファイアが据えられたよさげなものだった。

 練習用で使っていたものよりもいいものである感じがする。


「わぁ! ありがとうございます!」


 ユリアもその杖を受け取り、喜ぶ。


「あれか、やっぱり魔術を使うのにも魔法の杖が必要なんだな」

「私もよく理論は知らないけど、学校で習った感じだと魔術式を描く代替の触媒として、魔術杖を使うことがあるみたいね。芯となるものが魔法生物の一部または宝石が望ましいとか。私もよくわかんないんだけれどね!」

「はえ~」

「なんか、ハリーポッターみたいな杖を予想してたんだけれど、この世界だと違うみたい」


 龍也くんもそういう感想を抱いていたようだ。

 ただ、例示した作品のように持ち主を杖の方が選ぶということはないようである。

 それならそれで、より優秀な装備が手に入ったら装備を変更するということができそうである。


「タツヤ様にも同様に魔術の杖を贈らせていただきます」

「ありがとうございます!」


 龍也くんは喜んで杖を受け取る。こっちの杖はユリアのものとは違い短かった。


「あとは、こちらでこの世界で旅をするのに適した装備を用意させていただきました。丸い耳はともかくとして服装はこちらのものに合わせた方がいいでしょうからね」


 村長がそう言うと、服と防具のセットを手渡される。

 甲冑ではなく、ポイントカードという感じで、最低限急所を保護する防具という感じだ。

 要するに、軽装備で長旅を前提とするならばありがたい装備だ。


 装備と服を受け取った俺たちは、早速着替える。

 俺の格好は言うまでも無く冒険者という感じだ。

 現地の服装に、各種ポイントガードで防御を固めている。左腕にはバックラーを装備しており、ぱっと見その辺にいそうな冒険者という感じにまとまっている。

 異なる点を挙げるならば、ズボンはジーパンの方が動きやすかったのでそっちに変更、ブーツも山歩き用に卸したてのブーツを着用したところだ。

 まあ、この3日間ブーツは履いていたが、オフロードならこっちのブーツが動きやすい。


 龍也くんの格好は、俺と似たようなものだった。

 ただ、防具の類は装備していない。まさに子供が長旅をする装備という感じだ。


 ユリアの方は、イメージとしては黒魔法使いの旅装備という印象を受ける格好だ。

 魔法使いのローブを着たおてんば娘という感じのイメージで、やはり青い髪が目立つ。


「ユリアちゃん、基本的に人前で使う魔術は水属性の魔術を使うんだよ」

「わかってるわよ!」


 エルメからそう忠告を受けるユリア。

 魔力の属性と髪の毛の色の関係性の話だろうか?


「ユリアさんは複数の属性の魔法が使えるんだっけか」

「ヨシヒロ、ユリアでいいわよ。そういうことね。私ってばどうやら魔術の才能があったみたいで、全部の属性の魔術が使えちゃうみたいなのよね~」


 ご機嫌なユリア。

 実際、この世界では全属性というのは珍しいのだろう。

 俺からしてみれば、そもそも魔法とか魔術とか使える時点で驚きしかないわけだが。


「村長、何から何までありがとうございました」


 俺が礼をすると、村長は謙遜する。


「いえいえ、異世界人であるあなた方の旅に我々はこれ以上何をすることもできません。せめてもの餞別と思ってください」


 期待を込めた目で俺を見る村長。

 この恩に報いるだけの働きができたらいいな、なんて思うのだった。

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