第10話 俺と異世界の簡単な依頼

 ユリアと龍也はエルメから別の場所に案内された。

 実際、良大とは違って、ユリアたちは戦闘能力が無い。

 だから、手伝えることと言えば、家事やその他の手伝いぐらいだった。


「ごめんね、無理言っちゃって!」

「大丈夫ですよ。とはいっても、ヨシヒロさんと一緒に旅をするならば、ある程度自衛の手段は身につけておいた方がいいかもしれませんね」


 エルメの指摘の通りではあるものの、ユリアは本当にただの女子高生だ。

 研究者である両親に甘やかされて育ち、特に危険に近づくことも無く学校に通わせてもらっていたユリアが何かをできるわけがない。

 良大ができないことは、ほとんど今手元にある機械だよりでしかない。それも、別に仕組みがわかっているわけでもなく単純に扱えるだけである。

 だからこそ、ユリアはなぜ自分があんな恐ろしい異星人に狙われているのか理解できなかった。

 そもそも、には魔法が使えない。

 それでも銀河連邦の中心都市になったのは、圧倒的な科学力のおかげだ。魔法も地球では魔術式と呼ばれるものを解析して、通電することによってある程度再現することができている。本当に魔法を扱える種族に監修をしてもらい科学によって再現された魔法なのだ。

 しかし、魔術式によるエネルギー変換効率は最大80%が限界とされている。そのため、習いはするがユリアにとってはあまり関係のないことであった。

 実際はこの魔術式の魔法によりワープ航法が発展したりしているため、ユリアは学校で魔術式を習ってはいた。


「私も、こういうことになるんだったらまじめに魔術式の勉強をしておけばよかったわ」

「ユリアお姉さんは魔法が使えるんですか?」


 龍也にそう聞かれて、ユリアは首を横に振る。


「いや、私は使えないわよ」

「うーん、ユリアさんは使えないと思い込んでいるだけな気がします」


 そこに、エルメがそう指摘してくる。


「え?」

「ユリアさんは気づいてないみたいですけれども、魔術の素養はあるように見えます。まあ、私も多少使えるぐらいで、魔術使いってほどではありませんけど」

「そうなの?」

「いや、そこで僕を見ても、どう反応したらいいかわからないよ」


 ユリアは現代地球人だ。もちろん、良大や龍也の出身惑星である地球とは異なるが、科学文明で発展し、魔法が実際に運用された始めたのもここ400年以内である。

 そんな科学世界に生きる自分が魔法を習得できるとは思えなかったが、確かにこのままでは良大のおんぶにだっこのままなのも事実であった。


「……そうね、やってみる価値はあるかもしれないわね」

「では、ユリアさんは魔術の勉強を、タツヤくんはお手伝いをする形にしましょうか!」


 というわけで、ユリアは魔術の勉強をすることになった。

 エルメがなぜ、ユリアも魔術を使えるのか判別できたのかというと、この世界の人間はもともと魔術の素養が高く、ほとんどの人間が魔術を覚えることができる。

 そのため、魔力のあるなしを見ることができるのだ。

 そして、エルメから見ても、ユリアには強大な魔力が宿っているように見えた。だからこそ、エルメはユリアに魔術の勉強を勧めたのだ。

 逆に、良大や龍也にはそこまで魔力は宿っておらず、確かに才能は無いように感じたが、無ではないので、少なくとも龍也は伸びしろがあるようにエルメには見えた。

 魔力は幼子の方が伸びる。今はまだ魔術が使えなくても、生活魔術を覚えて使ううちに(この世界の)一般レベルまでは伸びるだろうとエルメは考えていた。


「ほんと、ユリアさんって不思議な人ですよね。青い髪なんて、この世界にもいませんよ」

「そうかしら? まあ、私の生まれ故郷じゃ珍しかったけれど。お父さんもお母さんも茶色だったし」


 確かに青っぽい髪はいるが、ここまで透き通るようなきれいな青い髪はエルメはユリア以外に見たことが無かった。

 この世界でも色付きの髪はいるが、それは自身の魔力属性によって色素の薄い髪が属性に染まっている状態になる。例えば、赤い髪の人でも魔力が尽きれば薄い茶髪だったり、金髪になったりする。

 ユリアの場合はそもそも魔術すら使ったことが無いという話なので、魔力に属性が宿っているとは思えなかった。

 だからこそ、ユリアは不思議な人間だった。


「で、魔術って言っても何すればいいのよ。私、魔術式なんてそんなに覚えてないんだけど」

「それでは、水の魔術から勉強しましょう! ユリアさんならコツを掴めばすぐにできるようになると思いますよ!」

「ほんとに? たった3日なんだけど」

「大丈夫です! まあ、私もそこまで魔術は使えませんが、初級程度だったら私でも教えることができると思いますし」



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 俺は森の中を『キュアリーフ』を探して探索をしていた。

 何度か魔物と遭遇したが、小動物を掛け合わせたような奴だったし、対処はむつかしくなかった。

 むしろ、殺してしまうことに罪悪感も感じてしまうが、襲ってくる以上は仕方が無いだろう。

 倒せば霧散して、小さな魔石を残すので、一応拾って集めておいた。


「一応、村の中なんだけどなぁ」


 実際、柵は超えていない。

 柵らしきものは見つけたし、柵の向こう側に漂う気配に少し寒気がしたのもある。

 ……森の主でもいるのだろうか?

 ともあれ、柵内とはいっても森の中であることは間違いないので、そこで魔物と遭遇するわけである。

 それにしても、俺たちが転送された地点は柵の外だったので、無事に村までたどり着けて幸運だったなと改めて感じた。


「お、ようやく見つけた!」


 俺はふと、『キュアリーフ』を発見する。

 ある程度群生しているみたいで、やっぱり雑草のようにしか見えないが、葉の先が白いので間違いないだろう。


「結構あるな。なら、それなりに取っていくか」


 俺はさっそく採取を始める。根を摘まなければまた生えてくるだろうと思い、俺は薬草を採取した。

 それから、特に何か大きなイベントが起こるでもなく俺は掲示板のところに戻り、『キュアリーフ』を納品した。


「……初日にしてはなかなかやるじゃないか」

「どうもっす!」


 ダイオドーさんに意外な顔をされたが、俺は警察官を目指していた。だからというわけでもないが、俺は探し物は得意だった。

 そして、この直剣についてもなんだかんだで戦ったおかげか戦いの感覚はつかめてきた。

 これも剣道を頑張ったおかげだな、なんて思いながら、振り回したせいで筋肉痛になっている腕をいたわりながら、俺はこの世界で初めて稼いだお金を手に、ユリアたちの待つ村長の家に戻るのだった。

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