第8話 俺と異世界初めての夜
寝室。
俺と龍也くんが同室で、ユリアは別室となった。
まあ、ユリアは女の子だし仕方が無いだろう。
「それにしても、大変なことに巻き込まれちゃったね!」
龍也くんの言葉に、俺はうなづく。
「本当に。俺ってただの大学生なんだがなぁ……」
「小学生の僕から言わせてもらうと、お兄ちゃんってただの大学生って感じじゃないと思うけど」
「そうか?」
「うん、自衛隊とかにいそうな感じ」
「自衛隊かぁ。俺も就職先としては考えていたんだよなぁ。ただ、警察の方が身近な感じがしてさ」
自衛隊も、確かに人を救うための仕事だと思う。ただ、救う対象が主に日本国という国なのだ。
俺としては、もっと身近な人を守りたいと思った。だから、警察なのだ。
大学生なのもそこから入った方がキャリアを積みやすいためである。
無私のヒーローなんて、今の日本ではなれはしないのだ。そもそも、自分がある程度ちゃんとしていないと俺は他人を助けることはできないと思う。
だからこそ、キャリアをしっかりと詰める大学生を経て警察になるつもりだった。
まあ、それも、別の星、別の世界に来るまでの話だ。
「そうなんだね。お兄ちゃんの器なら、もっと多くの人を助けられそうな気がするよ」
「そうか? まあ、ありがとな」
今は内緒話なので日本語で会話をしている。
というか、こっちの言葉で話すよりも日本語で会話したほうが楽なのだ。
そう考えると、ユリアは孤独だろう。同じ世界の人間が居ない上に、帰れるかもわからないのだから。まあ、それを言ったら俺たちもだが。
『いいかしら?』
ノックがして、ユリアが部屋に入ってくる。
ユリアはこっちの言葉を使っているので、俺らもそっちに合わせる。
「ああ」
ユリアは宇宙服を脱いで、貸してもらった寝間着を身に着けているように見える。
「あれ、宇宙服は?」
「ああ、別に脱いでないわよ。ただ、見えないようにしているだけ。というか、正直なところお風呂以外で脱ぐ必要ないのよね、あれ。温度調節機能とかもあるし、バイタルチェックもできるし、そもそも宇宙で長期間来てても耐えれるように設計されているから」
「なるほど」
「バッテリーも通常稼働で長期間持つし、救難信号だってこの宇宙服から発しているから、むしろ脱ぐのはリスクなのよね」
ユリアの言葉は、この世界にない言葉も交じってはいるがうまく組み合わせて表現してくれている。
よくもそんな芸当できるな……。
「ん? ああ、自動翻訳機能の一部を使って、それっぽい言葉に変換しているのよ。ニュアンスとか正しく伝わってるかしら?」
「ああ、それはまあ」
「よかった」
どうやら、ユリアは俺の顔色を見て答えてくれたみたいだった。
「で、今後の方針はどうする?」
ユリアが話したい内容はそれだった。
俺たちも、そのことについてはユリアが来てから話すつもりだった。
「そうだな、まあ、実際に救うことはできないと思っている。何より範囲が広すぎるし、そもそも3人とも学生なんだ。できないことの方が多すぎる」
「まあ、そうよね」
「それに、魔物が出るってんなら戦う必要がある。俺は『剣道』が2段あるが、お前らはどうなんだ?」
剣道は該当する言葉が無かったので、日本語で言う。
「ケンドー……? ああ、『剣道』ね。まあ、ヨシヒロが剣を扱えるならいいんじゃない? 私は普通の女子高生だから、何もできないわよ?」
「僕も、お兄ちゃんみたいに戦えるかって言うと、そうでもないからなぁ」
「まあ、そうだよなぁ」
それに、俺の剣術だって剣道の域を出ない。殺人剣を学んだつもりもないから、剣を握って戦えるのかというと、それは違うだろう。
戦闘においては足手まといしかいない状態で、旅に出るなんて無謀にもほどがある。
そして、一番のネックはユリアの出している救難信号をいつ拾ってもらえるかもわからない点だった。
「なあ、ユリアさんが出している救難信号ってどの範囲まで届くんだ?」
「知らないわよ。この星自体もどこにあるかわからないんだし、最悪、銀河連邦の領域外だったら……」
つまり、いつまで滞在することになるかも不明ということである。
「ま、俺たちに戦うすべはないから断るという話になりそうだな」
「ただ、断ったところで私たちはこの世界で生きていく必要はあるわよ」
「……そうなんだよなぁ」
異世界人で勇者でも何でもない人間を、このまま村にとどめておくのか。
最初の半年ぐらいはまだ我慢してくれるだろうが、いずれにしてもちゃんとした収入を得る必要があるだろう。
「……街に出るか」
少なくとも、村に滞在するよりは仕事があるだろうし、自立した生活をするならば、都会に行くのが最適だと俺は考えた。
人が多ければその分仕事があるはずだしね。
「そうね。私もその方がいいと思うわ。勇者として変に期待され続けるような環境よりもマシだろうし」
「お兄ちゃんはそれでいいの?」
「龍也くん?」
「お兄ちゃんほどのヒーローなら、僕はこの星を救うことだってできると思うんだよ。まあ、確かに僕たちは足手まといだと思うけれどね」
龍也くんが何を言い出すのかと思い、ドキリとしてしまった。
ただ、残念ながら俺はそんな器ではない。
「いや、龍也くん……」
「お兄ちゃんならできるよ! だって、人を救うために命を賭けれるんだもん! 戦うときのお兄ちゃんの姿はとってもかっこよかったしね。ね、ユリアお姉さん」
「い、いやまあ、ヨシヒロがかっこいいのはその通りだけどさ……」
褒められて悪い気はしない。
龍也くんの期待にも応えてあげたい。
だが、こればかりは優先順位の問題だ。半分大人の俺が、判断しないといけないだろう。
「いや、まずは二人の安全が最優先だ。余裕が出てきたら、調査ぐらいはしてもいいかしれないが、あの【赤い月】に元凶がいるってんならどうしようもないだろう?」
「……でも、RPG的にはきっと、魔物が支配したとされる地域の中心部に月に行くための転送装置があると思うよ?」
「うぐ」
龍也くんの指摘はもっともだった。
というか、考えつかない理由が無い。根拠がないだけで、こういうファンタジーな世界観ならば、攻略するためのルートがあると考えるのが一般的だろう。
「ゲームの話かしら? 私、その話は疎いからおいてかれるのよね」
「うん、あんまりゲームやらないんだ?」
「ファンタジー物はやらないのよね~。友達と遊んでることの方が多いし」
「ユリアさんは俺たちのチキュウのニホンの女子学生みたいだな」
「そう? まあ、ある程度文明が成熟するとそうなのかもね」
実際に流行ってのはある一定の周期があるとも聞くし、そんなものなのかもしれない。
「私はどっちにしても、ヨシヒロについていくわよ」
「僕も!」
つまりは、結局俺が決めろということのようであった。
ただ、どちらの結論を取るにしても、やることなんてそう変わらない。
ならば、目的がはっきりとしている方が、待っている間漫然としているよりも良いだろう。
それに、サメ異星人が襲撃してくる可能性も0じゃない。
俺自身も、サメ野郎に対抗できるように力をつける必要があるし、居場所を特定されないために旅をするというのも悪くない選択肢ではあった。
最初の考えからすると矛盾しているが、旅といっても危険地帯を通り抜けたりしなければいいだけである。本当に危険な場所ならば、安全なところに一度待機してもらえばいい。
「……わかった。まあ、漫然と待つよりは有意義だろうしな」
勇者ごっこ。やってやろうじゃないの!
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