第4話 俺と異世界ファンタジーの第一話
『悲鳴?!』
「ああ、助けに行くぞ!」
俺は銃を構える。
そして、悲鳴が聞こえた方向に向かう。
そこには、ゴリラとライオンが悪魔合体したような猿が少女に襲い掛かるところだった!
「ユリアさん、龍也くんは任せた!」
『うぇ?! う、うん!』
「お兄ちゃん、頑張って!」
俺は少しユリア達から離れると、足元に落ちていた石を投げつける。
「来い! 化け物! 俺が相手だ!」
俺はレーザー銃を構える。
猿は石をぶつけた俺の方に向き直ると、襲い掛かってくる。
残弾6
残弾5
俺は胴体を狙って銃を撃つ。2発撃ちこみ、1発は命中する。
だが、致命的ではなかったためか、まだ俺をにらみつけて襲い掛かってくる。
足の速さでは、俺に分が無い。だが、銃撃ならば!
残弾4
運よく右前足に命中する。手首部分にちゃんと命中し、盛大にすっころぶ。
俺は冷静に、この謎の生物を撃ち殺すことを考えて、トリガーを引く。
残弾3
俺は隙だらけになった脳天に光線銃を打ち込み、無力化に成功した。
「……ふぅ!」
俺は勝利に安堵して、ため息をついた。
残り残弾数は3となってしまったが、仕方が無いだろう。人命には代えられない。
すくなくとも、俺たちと同じ見た目をしている異星人の少女を見捨てることなんて、俺にはできない。
『すごいわ! ヨシヒロ! あんな怪物に勝っちゃうなんて!』
「うん、すごいよ、まるでゲームの主人公みたいだ!」
二人にそういわれて、悪い気はしない。
ただ、腰を抜かしてへたり込んでいる少女に俺は声をかけた。
「おい、きみ! 大丈夫か?」
「ደፋር ሰው……?」
案の定、彼女のつぶやきは俺にはわからない言葉だった。
「ምናልባት አንተ ጀግና ነህ?」
「ユリアさん、悪いけど通訳頼めない?」
『あー、そうよね。なかなか面白いことになっているけど、そのまま伝えるわね』
俺がユリアに通訳を頼むと、面白い話を聞いたかのような様子を見せながら、翻訳してくれた。
『えーっとね、「もしかして、あなたは勇者様ですか?」ですって。まあ、確かにヨシヒロは勇敢だからわからないでもないけど、大きく出たわね』
「はぁ?」
「おお! なんか、すごくゲームにありそうな展開だね! お兄ちゃん!」
確かに、こういう展開は王道RPG的な展開ではある。
俺だって、ゲームでやったりするし、そういうお話は嫌いではない。だが、いきなり勇者様は違うだろ、とは思う。
「えーっと、事情の説明はユリアさんに任せてもいいか? 言葉はさっぱりなんだ」
『まあ、構わないわ。うまく泊めてもらえるように交渉するわね』
「ん、頼んだ」
俺はユリアに了承の意を示す。
始めて来た土地で、言語もままならないならば、どうしようもないだろう。
Google翻訳にすら乗っていない言語を、Googleのサーバーにつなげない状態でどうやって翻訳するのか。
と思ったところで、俺はスマホを取り出した。案の定圏外だったが。
「ん~~~……まあそうだよなぁ~~~……」
「どうしたの? お兄ちゃん」
「ああ、携帯の電波、入ってないかと思ってな」
これで、ますます俺たちがいる場所が地球ではないことの証明になってしまった。
そのことに、俺はがっくりと肩を落とした。まあ、仕方がない。あそこで殺されるよりはマシなのだ。
『おおい、ヨシヒロ、タツヤ』
と、ユリアに声を掛けられる。
「ユリアさん、どうだった?」
『あの子、エルメって子なんだけど、村まで案内してくれるって』
「村があったのか。それは良かった」
どうやら、【エルメ】という少女は俺たちを村に案内してくれるようだった。
栗色のウェーブのかかった髪に栗色の目をしており、全体的に柔らかい印象を与える。
服装は、いうなれば貧乏な村の村娘のイメージそのままの服装だ。
俺たちとの容姿の違いは、耳が少し尖っている点だろうか。
ただまあ、正直なところ、ファンタジーの村娘って綺麗なんだなと、現実はこんなものなんだなとちょっと残念に思ってしまったのは口に出さないでおく。
「そういえば、倒した動物の死体は?」
「あん?」
龍也くんに言われて、さっきのゴリラとライオンを悪魔合体した生物の遺体の場所を見ると、赤黒い小さな石だけが落ちていた。
「あれ、さっきの奴は……?」
『さっきの怪物、魔物のマウントライオンっていうらしいんだけど、魔物を倒すと魔石になって死体は残らないそうよ』
「何そのファンタジー」
『私だってわかんないわよ。地球の生き物殺してちっちゃい石みたいになるとか、聞いたことないし』
「まるで、ゲームだな。まあ、後処理しなくて済むと考えれば、便利っちゃ便利なのか」
『そうかもね。なんか、動物と魔物は違うものって話よ』
そう言われても、というのは実際のところである。
まあ、宇宙には解明されていない謎物質や謎現象なんかがわんさかあるみたいだし、そういう話も無きにしもあらずかもしれない。
俺からしてみれば、動物と魔物の違いなんて判別できるわけでもないんだからね。
「ま、なんにしても戦利品としてもらっておくかな。せっかく倒した記念だし」
俺はそう言って、魔石をポケットに仕舞う。
正直、血の結晶という感じがするが、どこかにでも売ればそれなりの値段はつくだろう。
「悪い、待たせちまったな。それじゃあ行こうぜ」
さすがに、ユリアが通訳しなくても俺の態度で伝わったらしい。うなづいて俺たちを村へと案内してくれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「しかし、エルメさんはなんであんな危険な場所にいたんだ?」
俺の質問に対してユリアを仲介して答えてくれる。
『なんか、エルメの村は木材が主な産業らしくって、木こりの村なんだってさ。お父さんと一緒に入ったらしいけど、あそこの近くに祭壇みたいなのがあって、そこの掃除をした帰りに襲われたんだってさ』
「祭壇ねぇ、一体何の祭壇なんだ?」
『……どうやら、勇者の祭壇っていうのがあるみたいね。昔、この世界を滅ぼそうとした魔王を打倒した勇者が眠る祭壇なんだそうで』
「何それファンタジー!」
「あれだよね、ドラクエっぽい感じの世界なんだね!」
「龍也くんドラクエやってるんだ?」
「うん、この間最新作のやつを買ってもらったんだよ。まあ、まだ遊べてないけどね」
「なら、早く帰らないとな!」
しかし、勇者の祭壇がある森とか意味深である。
それだったら確かに、ピンチを助けてくれた人を『勇者』だと勘違いすることもあるかもしれない。
しかし、『勇者』ねぇ……。
こってこての異世界ファンタジー世界に転移した感じだ。
『え、えーっと、どこから来たって言われてもなぁ……』
エルメからの質問に、ユリアが困惑する。実際、どこから来たといわれても、はるか星の彼方から来ましたなんて言っても通じないだろう。
そもそも、エルメの服装を見ても、17世紀かそこら程度のように感じるし、俺の着ている山岳登山装備も、ユリアの宇宙服もエルメを基準にするとだいぶというか、かなり変だ。
「まあ、確かに。俺らの服装も、ユリアの服装もどちらもこの世界になさそうだしなぁ。ポリエステル繊維すらこの世界は無さそうだし」
『ですよねー。私が持ってる自動翻訳装置だって、ヨシヒロたちの星にはないものだしね』
「一応、スマホには翻訳機が搭載されているが、それだって俺たちの地球にいないと使えないし、地球の言語しか翻訳できないからなぁ」
『え、あ、まあ、そうか。ヨシヒロも私からすれば未開惑星の人だった……!』
ユリアと普通に話せているのは、俺がSFにも知識があることや、そもそもユリアがむつかしい言葉を使っても翻訳機が適切に伝わるように翻訳していることがわかる。
『え、いや、魔法じゃないよ! ……まあ、確かに自動翻訳なんて魔法みたいなものだけど』
『え、そんな便利な魔法があるの?!』
ユリアとエルメの話を聞いていると、ユリアしかわからないが、雰囲気から何かいいものがあることがわかる。
『ヨシヒロ、タツヤ。エルメの村に代々伝わる「言葉を理解できる魔法」が存在するらしいわ』
「そんな便利なものがあるのか!」
『エルメ曰くだけれどね。この自動翻訳機にも、そういう魔術式が込められているらしいけれど、それと似たようなものかしら?』
不意に、ユリアが聞き捨てならないことを言う。
「魔術式?」
『あー。ざっくり説明すると、魔法よ。それを科学文明の人間でも扱えるようにしたものが魔術式。この宇宙に存在するエーテルに干渉して魔法と同等の事象を起こす科学技術ね。人によっては「エーテル魔術」なんて呼ぶらしいわ』
「え、ユリアお姉さんって魔法が使えるの?!」
龍也くんが目を輝かせながらユリアを見る。
『私は地球人だから、無理よ。エーテルに干渉するにも魔術回路っていうのが必要らしいからね。ただ、機械に埋め込む技術は存在するって話で私が今持っているものでもそれなりの数が魔術式が仕込まれているらしいわ!』
「地球人だから無理、なのか」
『うん、ただ、ヨシヒロの地球にはまだ魔術回路を持っている人がいるんじゃないの?』
「それはわからんが。なにせ俺らの地球も科学文明だしな」
『衛星に住んでる人類がいない状態で、科学文明なんて言われてもなぁ……』
どうやら、ユリアにとっては俺たちの地球の文明はやはり原始的な認識らしい。
『ま、どちらにしても、ようやく私も通訳しなくてよくなるわね!』
そんな話をしながら、俺たちは森を抜けると、そこには小さな村があった。
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