初めての異世界

第3話 俺と異世界転移

『ねぇ、ヨシヒロ。起きて』


 俺はその声で目覚める。

 どうやら、森の中には変わりなかったが、先ほどまでと空気が違った。


「うっ……!」


 起き上がると、傍にはちゃんと龍也たつやくんもいる。

 龍也くんはまだ眠ったままだった。


「ここは……?」

『さあ? わからないわ。どこかの森みたいだけれど、どこ何だろう?』

「ユリアさんでもわからないのか」

『恒星の位置だとか、そういうのがわかる装置って脱出ポットに常設されている装備なのよね。転移の時においてきちゃったみたい』


 ユリアの言葉に、周囲を見ると確かにさっきまでそこにあったはずの脱出ポットは無かった。

 というか、まるで本当にの中であるように感じた。

 空を見ると、うっすらと空に月があるが、サイズが大きい。それでも、太陽の光はちゃんと届いているので周囲は明るい。


「転移?」

『うん』


 ユリアはうなづいた。

 まったくもって要領がつかめないが、どうやら俺たちはあの絶体絶命の窮地を脱したらしい。


「あの光は?」

『どうやら、お母さんが持たせてくれたお守りが転移装置だったみたい』

「転移装置……」

『うん、そうとしか思えないって感じ』

「わからないんだけど……」

『私だって、わけわかんないわよ! 修学旅行に行ってたら、あのサメ野郎のテロリストに襲われるし、なんでか知らないけど私を狙ってくるし、命からがら脱出したら未開惑星に墜落しちゃうし、そこでもまた襲われるし!』


 ユリアは興奮気味に喚き散らす。

 まあ、気持ちはわからないでもない。


『もうやだ。帰りたい……』


 お互い、色々といっぱいいっぱいだった。

 だから、俺がしっかりしないといけないだろう。


「ユリアさん、俺が何とかする。だから元気出そう!」

『未開惑星の人に慰められても何も解決しないわよ……』


 グスンと泣きながらも反論してくるだけの元気はあるみたいだ。


「まずは、この森を出よう」


 どちらにしても、野宿では落ち着けはしないだろう。

 人がいるところを探す必要があった。幸いにして、登山セットは背負ったままだし、龍也くんの装備も登山用だ。

 ユリアだけが唯一宇宙服ではあるものの、俺たちの身に着けているものとは技術体系も何もかも異なるものなので、大丈夫だと信じたい。

 そもそも、現代でも宇宙服は500kgある上に1着1億円ていどかかるといわれているものを女子高生が身に着けているのだ。

 環境適応的に言えば、山岳ウェアの俺らよりもきっと、彼女の方が安全だろう。


「……あれ、お兄ちゃんたち?」

「龍也くん、目が覚めたか。歩けるか?」

「あれ、サメの悪い宇宙人たちは?」

「ユリアさんのおかげで、逃げきれたみたいだ。ひとまず安心だ」

「そうなんだ! ……ここどこ?」


 さすがに、幼い龍也くんでも気が付くようである。


「それに関しては、俺たちもあんまりわかってないんだよね。まずは、ここがどこなのか調べつつ、人がいるところに移動しようと思う」

『うん。タツヤ、つい来れる?』

「うん。ただ、一難去ってまた一難って感じだね」

「お、むつかしい格言を知ってるじゃないか。えらいぞ」


 俺は安心させるためにも、龍也の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 あと、残り数発の光線銃を確認し、基本的にはこれを鈍器として戦う感じで良いだろう。

 ただ、レーザー銃であるがゆえに、内部の機械については気になるところではある。

 何が出てくるかはわからないのだ。熊にこの光線銃が効果があるのかすらわからない。

 龍也くんにユリアを守るのが、今の俺にできる最大限だった。


「それにしても、お空が変だよね。お昼なのにお月さんが出ているし、何か僕たちがいた日本とは違う場所な気がする」

「そうか?」


 疑問を口にするが、俺もそれは感じていた。

 下手すれば、ここは。そして、もしそうである場合は俺たちは帰れないだろうし、下手すると人間が俺たちだけだという可能性もあった。

 ただ、こんな不安になることを子供の前でいうべきではない。だからおどけて見せるのだ。


「うん。僕、お星さまが好きで、良く空を見ていたんだ。日本でもお昼なのに月が出ることは普通にあるんだけれども、その時は基本的に欠けているんだよね。ただ、あの大きな月は僕の知る月の模様じゃないし、大きいから面白いよね!」

「……すごいな」

『へぇ~。タツヤの観察眼ってすごいじゃない!』


 純粋にほめる様子のユリア。

 俺とユリアの文明の差を考えれば、あまり突っ込むべきではないのかもしれないなと思う。


「じゃあ、行くか。今日中に人がいる痕跡を見つけられればいいな」

『そうね』

「うん、出発!」


 自分の両親を目の前で殺されたというのに、気丈に明るくふるまう龍也くんに、俺は胸が苦しくなる。

 だが実際、状況は先ほどと比べれば悪くないとはいえ、まずいことには変わりない。

 どこかに拠点を敷く必要があるだろう。

 ただ、のはまずい。

 理由は簡単だ。ああいう転移というのは何かしらの技術によって場合が多い。もし、あそこを拠点とすると、あのサメ野郎どもにすぐに見つかってしまい、あっという間に俺たちは殺され、ユリアは捉えられてしまうだろう。

 少しでも移動して、探すのに時間がかかるようにする必要があると感じた。

 だから、移動するのだ。


 森の中を歩いていると、不意にを見つけた。


「おい、があるぞ!」


 俺は、自分の声が弾んでいるのを感じた。


『ヨシヒロ、切り株がどうしたのよ?』

「お兄ちゃん、やったね!」

『タツヤも?!』


 俺と龍也くんは、この切り株の重要性に気づき、お互い喜び合う。

 あとは、切り口がどうなっているかだが、まるで刃物でカットしたかのようなきれいな切り口だった。


「見ろよ、龍也くん。この切り株、人工的に切ってるぞ!」

「うん! これで近場に人がいることがわかるね!」


 龍也くん、話してみるとなかなかに利発な男の子だった。


『本当に?!』


 ユリアは驚きの声を上げる。


「ああ、切り口も斧で切ったような、何度も打ち付けて切った後のように見える。そして、肝心の切った先の木が無い。つまり、誰かが木材としてこの木を伐採したことになるんだ」

『ああ~! なるほどね~!』

「よくよく見てみれば、近くにも何個か切り株があるみたいだよ、お兄ちゃん」


 俺は龍也くんにうなづく。

 これでようやく、次につながる希望が見えてきた。

 ただ、相手が友好的であるかはまた別問題なのだが、それはひとまず置いておくことにしよう。

 そして、今見つけた切り株も、そこそこ年季がたっている。

 まだ、俺たちがか細い蜘蛛の糸を掴んだだけに過ぎないのだが、それが俺の中で希望となる。


「よし、みんな行くぞ!」


 龍也くんとユリアを励ます意味でも、俺は声に力を入れてそう言ったのだ。


 それからしばらく、人の痕跡を追って森の中を進んでいく。

 その中でふと、龍也くんが疑問を口にした。


「そういえばお姉さん」

『どうしたの?』

「お姉さんはどこから来た人なの?」

『私? まあ、この中では確かに、異星人なのは私だけだけど……』

「あ、言いたくなかったら言わなくていいからね?」

『いや、まあ、といっても、ここまで巻き込んじゃって今更だしなぁ……』


 眉を顰めるユリアに、俺は聞いた。


「あれか、未開惑星保護条約ってやつか?」

『そう、それ。未開惑星の住人に安易に情報を与えてはいけないってあるんだけど、ね』

「サメ星人の野郎は殺す気満々だったし、ペラペラしゃべってたもんなぁ……」

『ま、今更だし言ってもいいか!』


 ユリアはそう言うと、龍也くんの質問に答えてくれた。


『私はこれでも、銀河連邦の主要惑星である【地球】出身なの。TR20141015-3……まあ、私たちがつけた番号なんだけれど、あなたたちの住む惑星からはおよそ240億光年は離れているわ』

「地球?」


 龍也くんが疑問に思うが、自分の住む惑星を「地球」と称するのか、それとも俺たちに伝わりやすいように翻訳されたかのどちらかだと思った。


『そう、【地球】。とはいっても、今は昔起きた核戦争のせいで、人間が生きられる地域は限られてて、宇宙コロニーとかで生活してたりするんだけれどね!』

「それが何で、俺たちの地球に墜落したんだ?」

『まあ、あのテロリスト連中に襲われた場所で、一番近い生存可能惑星がTR20141015-3だっただけの話よ。……他のみんなは無事なのかしら?』

「ああ、修学旅行中だったっけ。俺たちでいうなら、旅行中に飛行機をハイジャックされて、命からがら脱出したって感じか」

「なるほど。お姉さんも大変だったんだね」


 龍也くんはユリアに同情する。さっき両親を殺された少年にもかかわらず、できた人物だと俺は思った。

 生きて地球に戻れれば、きっと大成するに違いないだろう。


『ありがとう!』


 そして、ユリアにかかわって思ったのが、本当に普通の女の子だった。

 彼女が狙われる理由がわからなかった。本人もその理由はわかってないと言っていたので、本当にわからないのだろう。

 この理由がわからない限り、ユリアのこの先の人生は謎のテロリストに狙われ続ける人生しか待っていないのだが、大丈夫だろうか?

 きっと、俺では解決できないだろうし、本来だったらかかわる話でもなかった。だが、ここまでは俺には見過ごせない。


 まあ、どちらにしても、現状の打破が先決ではある。それに、人里は近いように感じた。


「キャアアアアアアアァァァァアアァアアァァァァァ!!!」


 そして、女性の悲鳴が聞こえた。

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