第2話 俺と異世界美少女

 山頂は、残念ながら悲惨な状態になっていた。

 血を流して倒れている人々は全員、遠くから見ても死んでいることがわかる。

 それに、一人だけ宇宙服のデザインが異なる人がいた。

 おそらく隊長格だろう。

 3体1なら何とかなったが、この場には10人も魚人がいるように見えた。


「……ぐ」


 残念ながら、いくら正義感があったとしてもそれで命を落とせば、助けられる命も助けられなくなってしまう。それに、既に亡くなった方の仇討ちのために自分の命を張れるほど愚かでもない。

 俺はそっと、悔しさで奥歯をかみしめながらその場を後にすることにした。


「……!」


 だがしかし、。生存者がいることを。それが、幼い少年であることを。

 俺と同様に息を殺し隠れている。だから、俺は戦う決断をする。


「やいやい! テロリストどもめ! こっちだ!」


 俺は草陰から立ち上がり、姿を見せる。

 ここからは、ガチンコの勝負だ。ただの素人が軍人相手に戦う以上、俺の生存は絶望的だろう。

 だけれども、助けられる命があるならば、


「إنه قرد محلي، اقتله!」


 相変わらず何を言っているかわからないが、戦うと決めた以上はこの場にいる全員を排除する必要がある。

 この際、魚人だろうが何だろうが関係なかった。

 ざっと見て、4人が俺に銃撃をしてきたのが見えた。

 俺は身をひるがえすと、すぐさま潜伏する。


「وكان يحمل بندقية」

「لقد فهمت」


 現場指揮官っぽい奴の言葉に、空気がピリッと締まる。

 だが、俺がやるべきことは男の子を救助してこの場から脱出することだ。

 まさか、サバゲーの経験が生きるとは思わなかったが、俺は銃を構えて反撃を行う。

 レーザー銃はリコイルが無いから変な感覚だ。撃った実感がない。だが、発射された光の球が相手を撃ち抜く。

 手足をかすめても、宇宙服からは水が漏れた様子が無いので、やはりメットを狙う必要がある用である。


「ちっ!」


 他にも、分隊がいると思われる以上は時間をかければかけるほど不利になるだけだった。

 2、3人撃ち殺しても、他がカバーに入るためむつかしい状況である。

 銃も1丁のみ。さすがにエネルギーカードリッチらしきものは回収したのでその分の弾数はあるが、無限ではない。


 俺は木に隠れながら、周囲の状況を把握し、逃げながら少年が息をひそめている場所に近づける。

 俺も連中の銃撃を回避できているが、連中も当然ながら回避できている。当たった奴は運が無いだけだろう。


「ちくしょう!」


 わざと大きく動いて、タゲが少年の方に向かないように動いていたこともあり、だんだんと俺の体力の限界が見えてきた。

 そもそも、急いで登山してきたのだ。怒りと覚悟で疲れを意識しないようにしていたが、こうも膠着こうちゃくしてしまうと、意識してしまう。


 だが、どうやらだ。


「少年!」

「うわっ!」

「無事か?!」

「お父さんもお母さんも殺されて……!」

「泣くな! 走れるか?」

「うん」

「じゃあ、逃げるぞ!」

「……うん」


 切羽詰まった状況で悠長に話している暇はないと感じたのだろう。

 少年の手をつなぎ、俺は逃走を試みる。


「مطاردة ذلك! لا تدعني أهرب!」


 だが、そう簡単に逃がしてくれるつもりはなさそうだった。

 それはまあ、指揮官の目の前で部下を4名無力化したのだ。追ってくるに決まっている。


「少年、こっちだ!」


 俺は、少年を抱えると、人がいない方向に駆け出す。

 森は人の歩ける道から外れれば外れるほど深くなり、進みにくくなる半面、追ってくる連中をやり過ごしたりするのに有用だった。


「おにいちゃん、どこに行くの?」

「とにかく、下山するんだ! 警察も呼ばれてるはず! そこまでの我慢だ!」

「わ、わかった!」


 この山に熊が出たとかそういう話は聞いたことが無い。

 危険な野生動物よりも、魚人のテロリストの方が危険度が高い。

 すでにレーザー銃の1つ目のカードリッジを使い切ってしまっている。

 だが、足を止めるわけにはいかない。


 そうしてしばらく進んでいると、地面に突き刺さった謎の物体を発見した。

 俺たちは思わず、足を止める。


「すっげぇ! なんだこれ?!」

「なんだ? これは?」


 まるで、人一人入れるサイズのカプセルみたいだと感じた。

 その直感は正しかったようだ。

 突如、プシューっと音を立ててそのカプセルが開くと、中から一人の女の子が姿を現した。

 いや、実際は宇宙服を着用していたので女の子かはわからなかったわけだが、シルエットから察することができる。


「তোমালোক কোন?」


 あの、魚人たちとはまた違う言語だった。

 俺たちの戸惑いをみとったのだろう、焦った様子を見せた後に今度は日本語で俺たちに話しかけてきた。


『えっと、この未開惑星TR20141015-3のこの地域だと、この言語が適切かしら?』

「え、日本語?」

『お、良かったわ。合ってた合ってた! あまり現地住民とかかわるのは良くないんだけどね』


 そいつはそう言うと、メットを脱ぐ。


『大気の構成要素は私の星とそこまで差はないみたい』


 メットの中から出てきた顔は、まさに美少女と言って過言ではない。

 違うのは、髪が水色であることと、容姿が日本人に近いことだ。肌は白に近いが黄色人種の肌色だし、耳も尖っていたりしない。

 瞳の色は髪の毛と同じく水色で、その違いが彼女を異星人だと俺に確信させた。


『げ、サメ星人の武器を持ってるのね。奪取したのかしら?』

「あ、ああ。あの魚人テロリストの事か?」

『そう! 何にしても、連中が近くにいるのね』

「あ、ああ」

『ほんと、野蛮よね!』


 彼女も憤慨している。

 だが、ここまでの要素で俺はとんでもないことに巻き込まれつつあることに感づいていた。

 である。


「あのテロリストに、僕のお父さんもお母さんも、周りにの人たちも殺されちゃったんだ!」

『はぁ~~~。銀河連邦条約の未開惑星保護条約ガン無視してるわね……』

「どちらにしても、まだ俺たちは完全にやつらを撒けてない。ここにすぐに来るかもしれない」

『……まあ、私のせいで迷惑をかけちゃってるみたいだしね。何とかしたいところではあるけど、あいにくこれ、脱出ポットなのよね。民間航宙船の』

「つまり、あんたは民間人?」

『そうよ! 私の名前はユリア・エルガーデンよ。これでも17歳なんだから!』


 【ユリア・エルガーデン】。彼女はそう自己紹介をした。


「ユリア……さん?」

『そうそう! あなたたちも名前を教えてよね』

「ぼ、僕は奥田 龍也おくだ たつや!」

「俺は、小野寺 良大だ」

『タツヤにヨシヒロね』


 【奥田 龍也】くんはぱっと見、利発そうな小学生ぐらいに見える。身長も140cmぐらいなので、それぐらいの年齢なのだろう。

 自己紹介を終えると同時に、俺は嫌な予感がした。


「おい、来るぞ!」


 俺は二人を背に銃を構える。

 すると、魚人テロリスト連中が雁首をそろえて現れた。

 それも、隊長格の奴も含めてだった。


『げ、出たわね……!』


 ユリアの言葉に、隊長は日本語で返事をした。


『この未開惑星……いや、でしたっけ。こちらの特異な言語で話そうなんて奇妙なことをしますね、ユリア・エルガーデンさん?』


 隊長格はそう言うと、メットの透明度を高める。

 メットの中は確かに、サメのように見えた。サメ人類だ。


『なんで、ただの学生の私が、連邦との敵対国家のあんたたちに狙われているのか知りたいんだけど?』

『知る必要などないでしょう。ここでおとなしく我々に捕まっていただけるならば、最低限の人権は保障しましょう。抵抗するならばまあ、猿と同等に扱いますがね』

『それって、大した違いはないでしょ?』

『あなた方でいう、の違いはありますよ』


 どうやら、ユリアは本当にただの学生らしい。

 そして、理由はわからないが敵対国家に身柄を狙われていると。


『……おとなしく投降したら、彼らは見逃してもらえるのかしら?』

『猿など生きている価値はないでしょう? それに、未開惑星の猿だ。中途半端に発展しているせいですぐに移住できる状態でもなし、無価値な惑星の猿を何匹殺しても大したことはないでしょう』


 本当に、である。

 残念ながら、彼らには話は通じないようだった。

 だが、逃げ場はない。直感的に既に周囲は囲まれている。

 俺単独ならまだ命からがら逃げきることはできたとしても、2人も抱えての脱出は無理だ。


「くっ……!」


 気丈にふるまうユリアが俺の腕を掴む。

 彼女がことがはっきりと伝わる。

 それに、日本語で会話をしてくれたおかげで彼女の状況はある程度飲み込めた。


『ヨシヒロ……助けて……!』

「お兄ちゃん……!」


 こんな二人を見過ごせるほど、俺は賢くなかった。

 どうやらここが、俺の命の張り所らしい。覚悟が決まった。と同時に、スッと恐怖も消えた。


『抵抗するのですか。まあ、アナタには部下を数人やられているので、最初から無残に殺してやるつもりですがね!』


 同時に、周囲から発砲される。

 俺は二人を抱き込むと横に転がる。


『メス猿は殺すな! オス猿を殺せ!』


 俺は咄嗟に隊長に発砲する。

 しかし、が奴を守っているように見えた。


「二人とも、俺の後についてこい!」


 俺は銃を構える。

 脱出ポッドをカバーポイントにして、俺は銃撃戦を始めた。

 といっても、残段数はそこまで多くない。撃てて残り18発だった。

 一方で、連中はおよそ40名弱いる。負けイベのクソゲーだった。

 弾幕を張れないので、一人一人確殺して無力化する必要があるが、それでも18人が最大だ。弾が切れれば近接戦闘をするしかない。だが、そうなると龍也君やユリアを見捨てることを意味する。


 残弾17


 残弾16


 残弾15


 2人無力化した時点で、奴らは木の影をカバーポイントにする。

 また、近場の木を切り倒してカバーポイントを作って接近してくる。


 残弾14


 残弾13


 残弾12


 リロード


 あと、もうひとカードリッジしか残っていない。


『ヨシヒロ?』

「ああ、最後のカードリッジだ」

『そんな……!』

「だが、必ず俺が守り通してみせる!」


 残弾11


 残弾10


 残弾9


 ユリアはそんな絶望的状況に、ついに祈りだした。

 胸に下げていた首飾りを両手で挟んで祈り出す。


『お願い……! 助けて……!』


 どうしようもない状況だ。もはや神に祈るしか無いだろう。


 残弾8


 残弾7


『助けて……! ママ!』


 ユリアがそう叫んだ瞬間、不意にユリアの持つ首飾りが光りだした。


『あれは、あの光は?! 急げ! 逃がすな!』


 そんな、隊長格の怒鳴り声が聞こえるが、どんどんと俺たちは光に飲まれていく。


『ヨシヒロ、タツヤ、手を……!』


 俺たちは、何が何だかわからないまま光に飲まれて気を失った。




■□───────────────────────────────────

あとがき

スターオーシャン的なボーイミーツガールを書いてみたかったんだ!

続きはなろうで連載している小説の更新をしたら書こうかな~

アラビア文字とかを異星語みたいに使っているけれども、実際の発音は完全に違います。

まあ、翻訳するとちゃんと意味が通るようにGoogle翻訳使ってますがね!

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