第9話 過去と現在


翌日になってから俺はまた昨日と同じ時間に起き上がった。

それから朝食を食べて準備をしていると桜子が「祐樹さん」と言ってきた。

俺は「?」を浮かべながら桜子を見る。


「...その。土曜日...その。で」

「...で?」

「デートしませんか」

「...は!?...い、いきなりだな!?」

「そうです。恋はいきなりなんですよ」


桜子のその言葉に驚愕しながら俺は赤面して頬を掻く。

それから「わ、分かった」と返事をした。

すると桜子はとても嬉しそうな顔をしてくる。

俺はその顔を見つつ苦笑した。


「じゃあ...ゆ、遊園地に...」

「お前って子供っぽいよな。本当に」

「い、良いじゃないですか!アトラクション好きですもの」

「分かった。分かった。じゃあそこな。今日は仕事を頑張ってくるから」


そして俺は笑みを浮かべながら桜子と別れてから。

今日は何となくだが自転車に乗りたかったので自転車に乗ってから出勤をしていると曲がり角の所で見慣れた顔が...って。

豊崎?


「豊崎」

「...あ、せ、先輩」

「何をしているんだ」

「奇遇です。ただの。先輩と出会うのは」

「...は?いや。どう見ても待っていた...」

「奇遇です」


威圧される俺。

俺は「あ、はい」としか返事のしようが無かった。

それから俺は自転車から降りてから「お前の家は確かに近所だけど偶然にも程があるな」と言う。

すると「た、たまには遠回りをしてみたかったので」と豊崎は赤くなる。


「...まあ良いじゃないですか。先輩」

「...あー。うん。まあな」

「それから仕事の話も出来ますし。書類の件とか」

「会議資料作ったのか」

「はい」


俺はそんな言葉を聞きながら人込みにやって来る。

それからオフィス街にやって来た。

そして歩きながら豊崎の話を真剣に聞いていると豊崎が途中で俺の顔を見ていた。

豊崎に「何か付いているか?顔に」と聞く。


「い、いえ。何でもないです」

「...変な野郎だな」


そして駐輪場に自転車を留めて会社に向かう。

すると「あらぁ」と声がした。

その声の主は駿河部長だ。

「貴方達付き合い始めたのぉ?」という感じでだ。

俺は「は!?」と赤くなる。


「ち、違いますよ。部長」

「あら?そう?残念ね」

「コイツがそんな訳無いですよ。部長」

「出たな。嫌味男」

「まあ嫌味男だしな。いつも」


世田谷がそう言いながら苦笑い。

そして会話をしていると「そういえばねぇ」と部長が言い出す。

それから「今日、派遣されてくる人が居るのぉ。お相手頼めるかしら?」と俺達に言ってくる部長。

ああそうなのか。


「じゃあ俺がお相手します」

「うんうん。若い子みたいだけど手を出さないようにねぇ」

「...部長?俺を何だって思ってます?」

「アハハ。冗談よぉ。信頼しているわよぉ」


そしてこの時。

俺は苦笑していたがまだ知らなかった。

その女性が...俺の体調を悪くする女性だという事に。

それはかつて。

俺が...。



「清水成子(しみずせいこ)です。経理部から来ました」

「...!!!!!」


手が震えた。

そしてどんどん青ざめていく俺。

挨拶の時だってのにしっかりしないと。

そう思っているが。

だが。


「先輩?先輩。大丈夫ですか?」

「大丈夫。後でな」


こっそり話し掛けてきた豊崎に俺は否定する。

それから清水をみていると「あら?」と声を発した。

黒髪の女帝が。

泣き黒子が口元に。

間違いないコイツは...。


「あら?知り合いなの?」

「...まあ私は知り合いですが。彼はどうかと」

「部長。また後で」


そして俺は震えながら椅子に戻る。

みんなも椅子に戻る。

その中で豊崎だけが「先輩」と話し掛けてきた。

「何かあったんですか。あの女と」と言いながら、だ。


「...アイツは高校の時に通学している時に...見捨てた。俺が」

「...え?せ、先輩?」

「そのせいで左目が弱視なんだ」

「...何があったんですか」


そう言っていると「彼は昔、仲が良かったんだけど不良に絡まれていた私を見捨てたの。その時に左頬を殴られてね」と清水の声がした。

そして俺を見てくる清水。

俺は「...その時はすまんってあれだけ言ったじゃないか」と言う。


「すまないって言っても...結局私は...犯罪行為に巻き込まれて傷だらけになった。許せないかもね」

「...」


そうしていると豊崎が立ち上がった。

それから清水を見る。

「...清水先輩の身に何があったかは知りません。だけど...それでも彼を恨まないでほしいです」と言う。

そんな言葉に清水は「まあそれはそうだけど。どうしても許せないから」と眉を顰めた。


「...清水。俺はあの日の事を忘れた覚えはない。残念に思っているけど...だけど」

「...仕事しよう。祐樹。今更...思い出したって意味無いから」

「...そうだな」


俺は震える手でキーボードを叩く。

あの日の事は忘れた覚えはない。

ただ俺達は...幼過ぎたのかもしれないけど。

だけど...。

ヤバいなこれ...仕事に集中出来るかな。

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