第3話 看護師という夢


16歳の女子高生と25歳の男が同居とか頭おかしい気がするんだが。

俺、一人暮らしだし。

それに彼女は俺との結婚を望んでいる。


俺はその気持ちにはなかなか応えられるものでは無いと思う。

何故なら年齢に差がある。

それに俺はヨレヨレのおっさんだ。

だから多分厳しい。


「祐樹さん」

「は、はい。何でしょうか」

「その。美味しかったですか?」

「...ああ。その事か。美味しかった。本当にお前は料理上手なんだな」

「5年間練習しましたから。美味しくないと困りますね」

「...なあ」


俺は顔を上げる。

それから彼女を見る。

彼女は「?」を浮かべながら俺を見てくる。

その顔に聞いてみた。


「お前の喘息と過呼吸の症状。良くなったのか」

「相変わらずです。症状は出る時は出ます。だけどまあ死んでませんから」

「...まあその。確かにそうだが無理はしてないのか」

「私は...無理はしていません。もし無理をしているなら私は貴方に申し訳ないです」


俺はその言葉に「...」と黙る。

それから彼女を見る。

彼女は俺を見てから「大丈夫ですよ」と優しく言ってきた。


「二度と貴方の前では倒れません。私は大丈夫です」

「...ああ」

「私の将来の夢がそれで決まったんです」

「どういう夢だ?」


そう聞くと彼女は恥ずかしそうにはにかむ。

それから俺を見上げた。

「私、看護師を目指します」と言った。

俺はその言葉を聞いて見開く。


「...」

「...どうしました?」

「...それはあの人。お前のお爺さんの...事か」

「そうですね。...あの人は私が戸惑っている時にいつも後ろで励ましてくれた。...だからこそ...救えなかったのは悲しかったです」

「...」


彼女のお爺さん。

父方の祖父だが誤嚥性肺炎で亡くなった。

その場に居合わせた人が助けていたが駄目だった。


彼女が好いていたお爺さんだったらしいから衝撃は半端じゃ無かった様だ。

それはそうだろうな。

大切な人との死別は...慣れないし。


「...幼かった。力になりたかったんですけど」

「お前を...心から助けていたしな」

「私が年上の貴方の事が好きって打ち明けてもお爺ちゃんは「そうか。その心は大切にしなさい。桜子」と励ましてくれました」

「...そうか。お爺さんとそんな記憶があるんだな」

「お爺ちゃんが居なくなったあの日は私が思春期もあって喧嘩していましたからね。珍しく私とお爺ちゃんで。...その日が最後になろうとは...思いませんでしたが」


そう言いながら涙を浮かべる桜子。

それから泣き始めた。

俺はその姿に「そうだな。林檎の誤嚥で死んだ...あの日は忘れられないな。俺も呼びだされて行ったし」と複雑な顔をする。

そしてそのまま俺は窓から外を見る。


「...7年も経ったんだな」

「...はい」

「その。何も言えないけど。気力は出そうか」

「出ると思います。...祐樹さんが一緒ですから」

「なら良いけど」


何が良いか全く分からないが。

とにかく...暗い状態ではどうしようもない。

だからこそ元気を出してほしいと思う。

それから俺は桜子の頭に手を添える。


「泣くな。...励ますから」

「...祐樹さん...」

「それに俺は...お前の泣いている顔より笑った顔が好きだしな」

「...有難う御座います」


そして涙を拭う桜子。

それから涙を何とか堪えてから「祐樹さん。有難う」と言ってくる。

俺は「ああ」と言いながら桜子を見る。

そうしてから俺は周りを見渡す。


「そういやお前。荷物とかどうなる?これだけじゃ少ないんじゃ」

「今度、軽トラでお母さんが来ます」

「ああ。そういう事か」

「因みに婚約の事も正式に話をしに来ます」

「いやそれ重大じゃない!...というか俺はお前と婚約は出来ないぞ。全てが早すぎる」

「まだそんな事を言うんですか?...あ。もしかして他に好きな人が?」


ジト目になる桜子。

俺はその姿に首を振ってから「違うっての」と言う。

それから俺は「お前未成年だろ。そして俺は25歳だぞ。幾ら何でも差が有るままだぞ」と言った。

すると桜子は「そんなの関係無いって言いましたよね」と反論する。


「私はあくまで貴方が好きですから」

「だから好きで何でも通す訳にはいかないぞ。全く」

「むー」


その姿に俺は「20歳という約束だったろ。それに」と言葉を付け加える。

すると桜子は「...ですね」と沈黙した。

あと4年待って状況を判断するべきだと思う。

少なくとも今結婚出来ないし...それに俺は桜子を子供として見ている。


「...分かりました。この縁を絶対に無駄にはしない。20歳まで待ちます」

「...桜子」

「?」

「ゴメンな。本当に俺は...そんな気に今はならないから」

「謝らなくて良いのに。...社畜ですし」

「それは言わなくて良い」


俺は嫌な言葉に「うーぬ」と言いながら頭を抱える。

すると「アハハ。...でも祐樹さん。本当に昔から変わらず格好良いですよ」と笑顔で桜子は言ってくる。

その言葉に「はいはい」と苦笑しながら桜子を見た。

全くコイツという奴は。

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