第2話 2+5年前


知り合ったきっかけは本当に些細なものだった。

私が...大切な物を取り上げられて男子達にイジメられているのを祐樹さんに救ってもらった。

当時は18歳の高校生だった祐樹さん。

私にはその姿はヒーローに見えた。

当時から彼の事を好いていた。


そうしている中で残念ながら親の都合という事で彼が引っ越す事が突然決まった。

その事で私はショックでずっと泣いていた。

9歳のあの日の事である。

その時に彼はこう私を見ながら話してくれた。


「じゃあ20歳になった時にそれでも君が俺を覚えていたら結婚しよう」


という形でだ。

私はその20歳という約束を守ることは出来なかった。

というか彼が他の女性に取られてしまうのでは我慢が出来なかった。

だから私は5年修行してから彼を探した。


その結果、2駅しか離れていない場所に彼が住んでいる事が分かった。

探す事に2年もかかった。

だけど私は丁度良かったかもしれない。

こうして彼の前に16歳で現れる事が出来た。


「祐樹さん」

「な、何だ」

「社会人の香りじゃなくて大人の香りになりましたね」

「嗅ぐなよ」

「あはは。すいません。じゃあ私もお風呂に入って来ます」


その瞬間、彼は飛び上がった。

心臓が高鳴っている様だ。

私はニヤニヤしながらその姿を見る。

(変わらないな)と思いながら。


「...あのな。本当に男はけだものだぞ。お前は緩すぎるんだぞ」

「アハハ。祐樹さんはけだものじゃないですから」

「そ、そうじゃないけど。確かにそうだけど。お風呂に入るって言うな」

「...一緒に入りたいですか?」

「は!?そんな訳あるか!?あくまでお前は16歳だぞ!」

「アハハ。流石に冗談です。私も恥ずかしいです」


そんな事を言いながら私は着替えを持つ。

それは購入したばかりのパジャマだ。

祐樹さんに見られて褒められるものを買った。

だけど彼は恥ずかしがり屋だからなぁ。


「じゃあ祐樹さん。入って来ます」

「...は、はい。行ってらっしゃい」


私はニコニコしながらそのままお風呂に入る。

それから着替えてからパジャマを着る。

そして私は彼の前に出る。


すると彼は衝撃を受けながら真っ赤になる祐樹さん。

よしよし良い感じだ。

レースをモチーフにしたパジャマだ。


友人に教わってこの可愛いパジャマを選んだ。

彼に「どうでしょうか」と言いながら見せつける。

そうしていると予想外の言葉が飛んできた。


「...真面目に綺麗だな」

「...ふぁ?」

「い、いや。綺麗じゃないか」

「...あ、は、はい...」


可愛いとかじゃない。

それ以上に綺麗と言われた。

私は真っ赤になって見せつけるのを止める。

それから「恥ずかしいです」と言う。

すると祐樹さんは「お前が見せつけてきたんだろ」と真っ赤になる。


「ま、まあ確かにそうですけどね!き、効いたみたいで嬉しいです!!!!!」

「お前な!効いたとか言いながら真っ赤だぞ!!!!!」

「私は女性です!!!!!」


訳も分からない言葉を放ち私はフライパンを手に持つ。

全く...だ、だから私は祐樹さんのそんな所が嫌いだ。

い、いや。

だって綺麗とか...。

も、もう!


「...祐樹さんのえっち」

「何で!?」

「何となく目が艶めかしいです」

「お前のせいだよね!?」

「ふーんだ」


それから私は調理器具を揃えはじめた。

これも買ってきたものである。

何故かといえば「でもその。あの子の。祐樹の家には何も無いわよ」と叔母様に言われた。

だから私は取り揃えたのである。

祐樹さんが驚く。


「なあ」

「何でしょう」

「...調理器具とか...購入したのか?」

「それはそうですよ。だって祐樹さんの家って何も無いって言われました」

「それは偏見だ。...俺はコンビニ弁当...」

「それ塩分とか高いですよね?添加物もぎっしり...」

「うぐ」


私はジト目で祐樹さんを見る。

「死にますよ?祐樹さん」という感じでだ。

すると祐樹さんは「まあそうだけど忙しかったからな」と溜息を吐く。

その姿にクスクスと笑いながら祐樹さんを見る。


「大丈夫です。私に任せて下さい」

「...桜子?」

「私、練習しましたから。いっぱい。絶対にお嫁さんになってやるつもりで」

「あのなぁ...」


赤くなりながら横を見る祐樹さん。

それから私はそのまま卵焼きとかそういうのを作る。

そして祐樹さんの前に出した。

卵焼き、塩鮭、味噌汁、小松菜の和え物などなど。

祐樹さんは唖然とした。


「...これは...マジか」

「5年間修業しましたからね」

「...凄いな。素直に」

「ですかね。...食材も買ってきました」

「だろうな。俺の家にはこんなものは無い」


言いながら祐樹さんは苦笑する。

それから「...何で俺なんだ?俺を...好きになったんだ?」と真剣な顔で聞いてくる。

私はその言葉に1秒もかからず答えた。

「私を救ったのは貴方です。貴方が私を惚れさせました」と笑顔になる。


「だから、せきにん。取って下さいね」

「...!?」

「えへへ」


そして私はちゃぶ台に置かれたご飯を見ながら祐樹さんを見る。

祐樹さんは「食べるか」と言う。

私は「ですね」と返事をして手を合わせる。

それから2人で挨拶をした。


「いただきます」


と。

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