(こうなったら、いつ離縁されてもいいように準備をしておいた方がよさそうね。……ううん、それだけだと危ないわ。離縁の口実次第では、私の今後はかなり悲惨なものになってしまう)


 フレイヤとローガン、もしくはレイヴァーン伯爵家とアデルブライト伯爵家双方に利があり、丸く収まるような離縁案を準備しておく必要がありそうだと、フレイヤは思案する。


(ローガン様は私との結婚はやっぱり不本意だったのでしょうし、私といるとソフィアお姉様のことを嫌でも思い出してしまって辛いのかもしれない……そう考えれば、彼の行動もわからないこともないわね。……私では、ローガン様のためになれない。それに、私だってこれ以上無下にされるのは辛いもの。お互い、前向きに進めるような道を考えないと)


 フレイヤは、行動力と前向きさを、「なるべく平和な離縁」へ向けることにした。


(普通なら、夫と早々に離縁した女性は何かしら問題があるんじゃないかって忌避きひされるものだけれど……お姉様が王太子妃になられるおかげで、再婚でもいいと求めてくださる方はいるはずよ)


 そこまで考えて、フレイヤは溜息をつく。


 「王太子妃の妹」だからと寄ってくるような人や家には、何かしらの野心や打算しかない。そんな相手から大事にされるかは謎なうえ、フレイヤとしてもあまり愛せる気がしなかった。


 愛されない結婚を経験してすっかり磨り減った今、同じような愛のない結婚は二度とごめんだという気持ちが強い。


(……いっそ、私自身で身を立てられるようにした方がいいのではないかしら?)


 弟のルパートは、父と同じで文官になる予定だから、王都から離れられない。


 実家に戻って領地運営に力を入れ、未来の伯爵となる弟を支えるのもよさそうだ。


 しかし、ルパートが結婚したなら、その役目は次期伯爵夫人のものとなる。出戻りの義姉がいては、ルパートの妻は居心地が悪いだろう。


 レイヴァーン伯爵家から、ある程度の距離を置く必要がある。


(私が得意なことと言ったら……乗馬と簡単な護身術くらいのものだけど、それじゃあ生きていけないわよね。王都のどこかのお店で雇ってもらう……のは流石にちょっと無理があるかしら。最初だけ実家の力を借りる必要があるけれど、王都にお店を開くとか?)


 フレイヤは、お忍び外出の時によく行くカフェの店主のことを思い浮かべた。

 彼女の名前はグレース。三十代前半くらいの女性だ。


 今のフレイヤと同じ十八歳の時に不慮の事故で両親を亡くし、店を継ぐことになったと聞いたことがあった。それから見事に店を切り盛りしているのだから、学ぶべき偉大な先輩と言えよう。


 彼女に一度、詳しく話を聞いてみるのもいいかもしれない。


(……でも、料理はしたことがないから、なんのお店にするかはしっかり考えないと。王都での需要、自分の適性、競合の有無……調べることはたくさんあるわね)


 ローガンのことから思考を逸らし、あれこれとやるべきことについて考えると、気が楽になってくる。


 フレイヤは、円満離縁と自立を目指し、闘志を燃やし始めるのだった。


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