【KAC20248】めがねっ子ウォー

八月森

それは新作のめがね

 某国間の境界線上、とある戦場にて。


 履帯の音を響かせながら、戦車がゆっくりと前進していく。

 戦車の傍では随伴歩兵が先行し、敵兵や罠が待ち受けていないか偵察している。

 そのうちの一人が、前方に複数の人影を発見した。遠目でも軍服だと分かる。敵だ。


「こちらブラボー1。前方に敵歩兵部隊を発見。戦車はなし。これより攻撃に移――」


 そこで、敵部隊の中でなにかが陽光を反射させて光った。そして――


 キュオ――!


 形容しがたい音が響くと共に、謎の光線がこちらに向かって走り――次の瞬間、戦車が爆散していた。間近から爆風と熱が広がる。


「なっ!? なんだ、なにが起こった!?」


「敵部隊からなにかが発射された!」


「なにかってなんだ!?」


「ピーター! マックス! 応答しろ! ……クソ!」


「おい、あれを見ろ!」


 正体不明の攻撃で出合いがしらに戦車を潰されたのだ。味方は混乱していた。

 そしてその混乱は、敵部隊が接近してくるにつれてさらに倍増する。相手の中に、セーラー服を着た年端も行かぬ少女が一人混ざっていたのだ。その顔にかかっていたのは――


「あれは……まさか!」


「クソ! めがねだ! 奴ら、めがねを装着してやがる!」


「まだ実験段階の試作兵器じゃなかったのか!?」


「そんなこと言ってる場合か! 実際にかけてきてるんだぞ!」


「ちくしょう! やられる前にやって――グワーっ!?」


 再び、めがねが光る。

 と共に、仲間が一人、また一人と倒れていく。


「ワット! ダグラス! こんな……!」


「――降伏してください」


 いつの間にか、めがねをかけた少女がこちらに歩み寄ってきていた。その声は、戦場には似つかわしくない可憐で透き通った声で、むしろ混乱を助長して――


「う……うわあああ!」


 オレは咄嗟に手にしたサブマシンガンの引き金を引いた。


 タタタタタ――!


 無数の銃弾が少女を襲う。しかし……


 ガキキキキ――!


 少女の眼前に現れた、青い光で編まれた障壁が、全ての銃弾を防ぎ、叩き落してしまう。


「ブルーライトカットだと!?」


「傷対策、UVブロック、曇り止めなどのオプションも完備しています。残念ながらあなたの攻撃は通りません」


 キュオ――!


「ぐあっ!?」


 めがねのレンズから放たれた光線が、武器をピンポイントに狙い撃ち、爆散させる。その衝撃に、尻餅をついてしまう。 


「ぐ……ちくしょう、ちくしょう……!」


 部隊は戦車も含め全滅。オレも武器を失い倒れ込んでいる。絶体絶命だ。

 そこへ、少女が近づいてくる。


(クソ、めがねの悪魔め……ただじゃ死んでやらんぞ)


 オレは勢いよく立ち上がり、少女のめがねのレンズを素手で触る!


「これでそのレンズにはオレの指紋がべったりついたはずだ! めがねユーザーが嫌がること第1位だぜ! ざまあみ――」


 しかし少女はポケットからめがね拭きを取り出すと、冷静にレンズを磨いてしまう。そして、キラリとそのめがねが光ったかと思うと、オレは衝撃を受け吹き飛ばされていた。


「ぐああああ!?」


「もうやめてください。めがねも持たぬ者が、めがねっ子に勝てるはずがないでしょう」


 クソ……最後の抵抗も失敗か。もう動けやしねぇ……


 ザッ、ザッ、ザッ……


 セーラー服を纏い、めがねをかけた悪魔がこちらに歩み寄ってくる。

 オレは力ない眼差しでその顔をじっくり眺めた。長い黒髪のおさげ。大きな瞳。悪魔は、美しかった。


「……へっ。最期に見るのがこんな可愛いツラなら、まぁ悪くもない人生かもな。だがどうせなら、めがねを外した顔も見て見たかったもんだぜ……」


「……あなたに一つ言っておくことがあります」


 少女はクイっとめがねのズレを直すと、毅然とした声で反論する。


「『めがねを取ったら意外と美人』という風潮は誤りです。むしろ『めがねをかけても』……いえ、『めがねをかけているからこそ美人』なのです! めがねは顔の一部なのですから!」


「でも、世間的にはめがねキャラの人気はあまり……」


「許されざる発言です。死んでください」


 キュオ――!


「ぎゃあああああ!? ばたり……」


 薄れゆく意識の中で、めがねの煌めきだけが目に焼き付けられていた……


「さようなら……次の人生では、めがねっ子の魅力に気づくことを願っていますよ」

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【KAC20248】めがねっ子ウォー 八月森 @hatigatumori

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