第2話
「セルア!後ろ!!」
「!?」
俺も直接見たことは無かった。何せ、魔力を持たない人間がダンジョンに潜るなど自殺行為であるからだ。そんな俺でも解る。緑色の表皮、爬虫類のような目、小さいが殺気は本物。ゴブリンだ。
「私はこれでも、勇者だよ!!」
そう言い、レイピアを振りかざす。その刺突を目で追うことは、俺には出来なかった。気がつけば、ゴブリンが倒れていたとしか言えない。
「えへへ、どんなもんよ?」
「す、すげぇ………。」
身のこなし、ただの変質者ではないようだ。だが、おかしい。本来魔物はダンジョンから出ることは出来ないはずだ。かすかに、先程の殺気を感じ取る。
「まだ来るぞ!」
「解ってる!」
続いて出てきたのは3体同時。いくらなんでもこれは………。
「流石に…狭い。」
分が悪すぎる。セルアも持ちこたえるので手一杯なようだ。
「くっ………。」
「まだ……居る。」
暗闇からゆらりと赤い体色の個体が現れる。あれは…亜種?
思考も纏まらず、一瞬の出来事であった。そいつはこちらに向かってくる。魔力を持たない俺が抵抗できるわけもなく、足がすくみ動けない。
死ぬ。そう悟った。
「ハル!!」
セルアの声でふと我に戻る。逃げなきゃ…せめて摩耶のところまで…!
そう言えば何処かで聞いた。獣に背を向けることは死と同義であると。後頭部に衝撃を受け、テレビの電源を落としたときみたいに視界が暗転した。
ハルが連れ去られるのを、私はただ見ていた。それしか出来ないくらいに私は非力だった。それでもなお、ゴブリン共の攻撃は続く。確実にハルをつれて行く気だ。せめてこの剣の力さえ解放できれば………私からすれば夢物語だ。今一度、手に力を込める。
「うぁあああぁ!!!」
叫び、奴らを弾き飛ばす。隙が出来たその一瞬をつき、私はそのダンジョンに潜り込んだのだった。
どれだけ経っただろうか。ようやく階段を下りきった。ハルの姿は無い。
ダンジョンの中は案外広い。ここなら無理無く戦えるだろう。薄暗いが、暗闇と言うわけではない。全体がほんのりと明るく、それなりに見える。
「早く探さないと………。」
このダンジョンは今のところ一本道。ここにハルの姿が無い以上、前に進むしかない。最弱でも、勇者の意地がある。
「たった1人守れなくて、何が勇者だ。今度こそ………私は………。」
ただ前に進む。足に力を込め、走り出す。ゴブリン共は………どこにも居ない。最初振り払った奴らも追ってこない。流石に放置はまずかった…でも、それでも。
「まずは目の前……。」
ただ、走った。
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