第3話
【クロノス】
詠唱の後、ゴブリン共は首から血を吹いて倒れる。愛用の短剣を手入れし、鞘に収めてから思案する。
「陽は居ない。家の中にはゴブリン。」
陽の両親は共働きでどちらも朝早くから出掛けている。一方、陽は私と同じ高校生。この時間にいつも学校に通っているのだが…居ない。
「まさかだけど…。」
一応、気になったので家に上がらせていただき、辺りを見て回ってみる。
「嫌な予想が当たった………。」
開け放たれた階段下の収納室を見てそう呟くのだった。
『そろそろ起きてくれない?』
そんな声が聞こえた。いや、気のせいか?
『気のせいじゃないんだけどな…。』
「!?」
ガバッと飛び起きる。思考を読まれた…?
『ようやく起きたかい?』
「誰だ?どこに居る?」
そう聴いてみる。
『お前の足元だよ。』
その声にしたがい、足下を見る。そこにあったのは、一輪の花。漂う既視感。ここは地下世界、喋る花。そう、それはさもフラ―――――。
『違う。それ以上はいけない。言ってはいけない。』
どことなく頭のなかで8bitのあのBGMが流れる。それはそれとして。
「誰だ?」
『端的に言うのであれば僕は神だ。』
「………。」
魂が集まりきった後なのだろうか?
『一旦、それから離れろ。こほん、まぁ信じられんだろうが信じなくていい。何せ今の僕にはそれらしい権能は備わってないからね。でも存在的には神だよ。』
「は、はあ………?」
『まぁまぁまぁ、とりあえず今はサポート役位に思っててくれよ。と言うことで、君、後ろ。』
刹那、ひんやりとした視線を感じる。反射的に身を翻し、そのこん棒の一振を回避できた。
「こいつは!?」
『君をつれてきたゴブリンだ。色々と質問はあるだろうが、ともかく君のすべきことは1つ。あれを倒すことだ。』
「どうやって!?」
『大丈夫。力は授けてある。』
用意周到な神様なことで。
『僕が君に授けることが出来たのは、エンチャントのスキル。今はそれだけだ。さあ、存分に拳を振るってくれたまえ。』
この神、説明が雑い!
『唱えよ、【エンチャント:炎】と。』
「ああ、もう解ったよ!【エンチャント:炎】!!」
そう唱えた瞬間、僕の両腕は炎を纏う。熱くもなんともないが、これは成功なのだろうか。
『流石、僕の見込んだ男。二分一を引き当ててくれるとは。』
「は?」
『なんでもない。さあ、存分に試してみるといい。』
不穏な言葉が聞こえたが、今はどうだっていい。また次の攻撃が来る。拳を振るえって、生身で勝てるものなのか?
ゴブリンの動きに集中する。よく見てみれば攻撃パターンは単調だ。だが、こいつは亜種。そして恐らく速度特化。力はそこまでなのだろうが如何せん速い。
『攻撃しないとイタズラに魔力を食うだけだよ?』
「解ってる!」
ともかく、攻撃の後の隙をついて拳を振るう。左頬にクリーンヒットさせることに成功した。数歩よろめくゴブリン。効いているのは素人目でも解る。俺は………戦える。
間髪入れず距離を詰める。隙など与えぬラッシュ。エンチャントにより多少身体の強化が入っているのだろう。自分でも驚くほど動きやすい。
だが、せっかく燃えているのだ。目の前の獲物の首筋をつかむ。
「やっぱり………。」
燃え盛る炎。それはゴブリンの身を焦がしていく。この炎は俺以外の物であれば機能するというわけだ。
数分と経たない内にあの赤い体色のゴブリンは魔石となり消滅した。初の勝利に浸っていると、またあの声が聞こえる。
『君、本当に初戦闘か?』
「その筈だが?」
『センスはピカイチだな。僕が依代に選んだだけある。』
「………さっきから、全く話が見えてこないんだが。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます