運命の彼女を探すコツ教えます

桔梗 浬

運命の人探し

 少し冷たい空気が頬を撫でる。この感じが心地良い、そんな季節。

 一人の少年が潤んだ瞳で空を見上げていた。


「はぁ〜。僕の運命の人よ、君は今どこにいるんだい?」


 この国では16歳になるまでに貴族の男子たるもの、嫁を迎えなければならない、という仕来りがある。


 今溜息をつき夜空を見上げ、乙女チックな思いに浸っている少年の名は、ショコラ・モンテカルロ・リンドール。明日16歳の誕生日を迎えるのだ。


 そんなショコラの声に反応するように、屋根の上の方から可愛らしい声が聞こえてきた。


「呼んだ?」


 窓の外からピョコっと姿を現したのは、小さな小さな女の子。クルクルっとした金髪の髪に、短いワンピースを着てクリクリっとした瞳が印象的だ。しかも背中には羽が生えている。まるでどこかの物語に登場する妖精の様。


「えっ? だ、だれ!?」

「私の名前は、ソルト。ソルト・キャンディー。ソルって呼んでもらっていいわ」

「ソル…」


 ソルトはショコラの隣にちょこんと座って、つぶらな瞳をパチパチしながらどこからともなく大きなメモ張を取り出した。


「あなた、名前は〜えっと…」

「ショコラだよ。ショコラ・モンテカルロ・リンドール」

「あ〜、明日16歳の誕生日よね。花嫁を選ぶのよね」

「うん…。そうだね」


 ショコラはまた空を見上げて溜息をつく。


「何しょぼくれてるの?」

「どうせ僕より、僕の家柄やお金に興味のある娘ばかりだよ」

「うーん、そうでしょうね。まぁ〜…私の事前調査によると、この街の年頃の娘とショコラとの相性は、全員30%以下! 絶望的ね」


「えぇぇぇ。何それ? どうしてそんなことがわかるの?」

「そりゃ〜私、こう見えて天空のホワイトドラゴン様の第一コブンですから!」


 天空の〜…? ショコラは空を見上げてため息をついた。


「明日来る女の子たち、僕と相性のいい娘はいるかな? よその国から来てくれるらしいんだよね」

「うーん。そうね〜」


 ソルトは腕を組み、眉間にシワを寄せ考えている。指で弾いたら、空に吹っ飛びそう。ショコラはそんなことを考えながら辛抱強くソルトの次の言葉を待ってみた。


「ねぇ、ショコラ。誰にも言わないって誓ってくれる?」

「もちろん!」

「じゃ〜、これを貸してあげる!」


 これまたどこから取り出したのか、大きなメガネをソルトは「よっこらしょっ」とショコラの手のひらに置いた。


「メガネ?」

「そう。ただのメガネじゃないのよ」


 そういうと、ソルトはあぐらをかき、鼻が気になったのか鼻をホジホジしながら面倒くさそうに説明を始めた。


「このメガネをかけると、自分との相性度が見える仕組みになっているの。明日くる娘たちをこれで確認するといいわ」

「ソル…お前…。彼氏とかいないだろ?」


 鼻くそをピンっと弾いたソルトが立ち上がり、ショコラのおでこに蹴りを入れた。軽いデコピンだ。


「痛い! 何すんだよ」

「あなたねー! 失礼ねーーっ。だから嫁どころか彼女の一人もできないのよ! ま、いいわ。明日返してよね」

「あ、あぁ。ありがとう」

「いい娘と会えるといいわね」


 そう言うとソルトはメガネを残し、フワッと宙に浮かんで消えてしまった。


「なんだったんだ?」


* * *


 翌日の楽しいはずの誕生日会が終わり、ショコラは一人部屋で空を眺めていた。


「はぁ〜。僕の運命の人よ、君は今どこにいるんだい?」

「呼んだ?」


 その声に反応して、ソルトが現れた。


「どうだったの? いい娘はいた?」

「ソル…。僕の運命の人はどこにいるんだろう? このメガネをずーっとかけていたんだけれど、可愛くて、おとなしくて、僕の大好きなものをプレゼントに選んで持ってきてくれて、唇も胸も柔らかそうで〜、僕の言うことなら何でも聞いてくれそうで、いいなーって思った娘は、相性『6%』だったよ……。これ、壊れていないかい?」

「あのねー、じゃ〜聞くわよ。いいなーって思わなかった人の中に、相性のよかった人はいたの?」


「うーん。覚えてない」


 ソルトはショコラのおでこに「ていやーーーっ」っと、ジャンプキックをおみまいした。


「痛い! 昨日より痛い! 暴力反対。そんなんだから君は彼氏もいないんじゃないのか? 普通女の子っていうのは〜」

「はい! ストップ。それ以上言ったら、コンプライアンス的にNGよ!」


 ソルトは怒り浸透でプリプリしている。

 それとは真逆に、ショコラはおでこに手を当てながら「コンプライアンス?」とキョトンとしている。全くもって、自分が何を言ったのか理解していないようだ。


「ショコラはさー、女の子をなんだと思ってるわけ〜? 理想を追い求め、色メガネで世の中見過ぎ!! 女の子だって普通にあぐらもかくし、鼻くそもホジホジするし、おならもするし、う○ちもする生き物よ。ショコラ、あなたと何も変わらない。そんなんだと一生独り者よ! お人形さんみたいな娘はいないの。あなたと相性のいい子なんて、どんなに頑張っても見つかりっこないわ!」


 ソルトの怒りはなかなか治らない。


「ソル…。この僕にそこまで言う女は初めてだよ」

「そうでしょうね。もういいわ。ホワイトドラゴン様にショコラは無理〜って報告するから、そのメガネ返して!」


 ソルトは激オコ状態でプンプンだ。

 ショコラはメガネを手放すのが惜しくなっていた。だって、これさえ持っていればいつかどこかで相性のいい娘と出会えるかもしれない。そう思ったのだ。


「ちょっと、何してるのよ」


 ピピピピピピピーーー。


「ソル、ねぇソル」

「何よ」

「メガネが…」


 ショコラがメガネをかけてソルトを見つめている。その目が大きく見開かれた。


『ショコラ、ソルトとの相性 → 99%』


「相性、99%だって」

「えっ?」


 ソルトは寒気を覚え身の危険を感じ始めていた。


「ちょ、ちょっと変な目で見ないで」

「いや、君が僕の運命の人だったんだね」

「なんでそうなるのよ!」



 こうして、ショコラのおメガネに適ってしまったソルトは、天空に帰ることが許されず、豪華な豪華な鳥籠が用意された。


「ぼっちゃま、お目が高い!」

「だろ? このメガネはリンドールの家宝にしよう」



「ちょっと〜、バカな真似はやめて帰してー!!」

「ソル、一生大切にしてあげるよ」


 ソルトの籠の前に大切に置かれたメガネを通して見える景色。遠くにご機嫌なショコラが見える。


 ピピピピピピピーーー。


『ソルト、ショコラとの相性 → 0%』



「!!! コラァ〜〜〜〜!!」


END

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