力の差

 森に火が広がり、段々と辺りが地獄のような光景になる。こんな惨状を作り出したのは、魔獣化してしまったトロルによる一撃のせいだった。


「グォオオオオ!!」


 その雄叫びは、地の底から這い上がってきた悪魔の如く。もはや害獣程度の枠じゃ収まらなくなった魔獣化トロルは、よろよろと歩きながらアレックスを探す。担い手は頑丈だ、恐らく虫の息だが生きてはいるだろう。

 悪しき影から与えられた指令を元に、トロルが探していると――。


「……ふぅ」


 焼け焦げて倒れていた木々の中から、アレックスが飛び出しトロルの首に向かって力一杯振り下ろす。頭からは血が流れ、頬には火傷があった。


「うらっ!!」


 傷だらけになりながらも繰り出されたギロチン。

 本来のトロルならばこれで討ち取れる一撃。しかし今は違う、世界中で無辜の人々の命を脅かす異形なのだ。


 刃は硬い表皮に阻まれ、薄皮しか切り裂けなかった。

 金属同士がかち合うような反響音を奏でて、アレックスはバランスを崩す。


「くそ……!」

「ウォオ……!」


 弾かれたアレックスはトロルの右ストレートを腹部に貰った。


「ご……ぁ」

『アレックスッ!!!』


 アレックスは成すすべなく吹き飛び、地面を何度かバウンドしながら後退していく。もし鉤爪を突き立てた一撃ならば、腹から下をざっくりいかれていてもおかしくなかった。


「う……い……ったぁ」

『アレックス……!! く……!』


 痛みに悶えるアレックスは隙だらけだ。

 マルティアナは咄嗟に身体の主導権を奪い、何とかその場を逃げてやり過ごす事にした。


「マルティアナ……まだ敵が……」

『今の貴方じゃ無理! このまま逃げ――!?』


 ガクンとアレックスの身体の動きが鈍くなる。恐らく大きなダメージを負った弊害によって、身体機能が鈍くなってきている。今のアレックスは顔だけ苦痛に歪みながらも、身体だけは何故か元気いっぱいに走っているという、側から見たらシュールな光景になっていたりする。


(ひとまず……私の力で応急処置をしよう……。隠れられそうな場所……は)


 マルティアナはそこで良さげな洞穴を見つけた。人1人は容易く入れるスペースはあるし、周りは背の高い草木に覆われている。怪我の痛みを引かせる時間ぐらいは余裕で作れそうだった。


「ぐぅ……いってぇ。よく生きてるな僕」

『今私の魔力で治療してるから。だけど……レイナほど上手くはいかない。ごめん……本当にごめん』

「いいって、大丈夫」


 マルティアナは何とか自分の魔力を注ぎ込むと、治療魔法を見よう見真似で実施する。


癒えよラファ


 マルティアナの力が傷口に浸透し、見る見る内に塞いでいく。幸い深傷ではなかったようでマルティアナでも治せる範疇だった。彼女は治しながらも、あの魔獣が何故こんな王都に近い場所で彷徨いていたのかと、必死になって考察していた。


(ハイベルズは今もなお……精霊の庇護下にあるはず。魔獣が寄りつかないようにと闇が忌み嫌う呪いが施されているおかげで、人への被害がそこまで広がっていなかった)


 それはかつての記憶を頼りに導き出した違和感。

 マルティアナが活躍していた頃、ハイベルズを守った精霊は人を守るために自らを犠牲にした。台座にいた時から状況が変わっていなければ、魔獣はここまで近くにいけないはずなのだ。


(精霊に……何かがあった。だから彼らがここまで……事態は私が思っているより深刻かもしれない)


 ひとまずマルティアナはこの場からの退避を選択した。

 アレックスは納得しないだろうが、彼が死ねば文字通り全てが終わる。マルティアナにとって彼は自分自身より大切な存在――必要ならば自らを犠牲にしてでも助けるつもりだった。


 しかしそんな真似を許さない存在が、ずっと見ている以上は難しい話なのだが。


 


 ◇◆◇




「ああ、やっと来たか」


 ヴェンズの森、上空にて黒きローブを纏った人影は退屈そうに言った。依頼書は全て此方が細工しておいた。担い手が現れたと知ってからは、このハイベルズ王国で展開していた作戦を一部変更し、念入りに調査した。


「しかしあの担い手……弱いな。聖剣にしては酷い人選ミスだな」


 事前に魔獣を使って精霊に仕掛けておいて正解だったと思うのと同時に、謎の人物は深く落胆していた。担い手が才能ある者であればより楽しい戦いが期待出来たが、あれでは有象無象と変わらない。武器が如何に良くとも扱う人間がボンクラならば、ただの鈍らと変わらないのだから。


「まぁいい、仕留めろ。あれなら担い手は要らない……聖剣だけ持ち帰れ」


 謎の人物はそう冷徹な判断を異形となったトロルに下した。


 


 ◇◆◇




「――――ッ!!」

『く……気付かれたか』


 トロルの殺気が此方を向いた。

 マルティアナは悔しそうに呟き、アレックスの肉体を動かそうとするが――アレックス自身が身体の動きを制御した。


「待って、マルティアナ」

『アレックス……!?』

「僕……まだ戦える」

『……っ! 無茶よ!』


 マルティアナは悲鳴に似たような声でアレックスを繋ぎ止める。失いたくないからこそ、マルティアナは無理やりにでも退かせようとしていた。


「マルティアナ……聞いて」


 迫り来る足音に耳を傾けながらアレックスは口を開く。


「確かに魔獣は……多分ナフタさんにとっても予想外な乱入だと思う」


 ギリリ……っとアレックスは拳を握りしめる。

 今まさに死が迫る中で、彼は撤退ではなく攻撃を選んでいた。


「だけど……ここで逃げたら僕は担い手失格だ」

『でも……!』

「頼むマルティアナ、僕に……力を貸して。あの敵を倒す力を」

『アレックス……』


 魔獣となったトロルが一気に駆け出し、木々を薙ぎ倒しながらアレックスへと吶喊する。それを見たアレックスは力一杯に叫ぶ。


「僕を――勇者にしてくれ!!!」

『――!!』


 眩い青き光が剣から放たれ、アレックスの身体を包み込む。制限時間ありきだが、アレックスは今伝説の力の一部をその身に宿していた。


「グォ――」

「ハァアアアア!!」


 向かってくるトロルに向かってアレックスは力一杯横薙ぎに剣を振るう。トロルは硬質化した両腕で胴体に向かって振るわれたマルティアナを防ぐ――が無理やり断ち切られる。一瞬で腕を切り飛ばされたのと、凄まじい剣圧によってトロルはピンボールのように吹き飛ばされた。


「ぐ……!」

『硬いわね……、くそ……私が全盛期なら一瞬で殺せたのに』


 憎々しげに呟くマルティアナを他所に、アレックスは意外にも冷静に考えを張り巡らせていた。


(力を借りたら斬れる……! 悔しいけど……やっぱり使わないとダメか……)


 今現在アレックスがマルティアナの力を借りて活動出来る時間は最大で1分弱。それ以上は身体への負荷がかかりすぎて、全く動かせなくなる。何も死ぬわけじゃないが敵地のど真ん中で身動き取れないのは、もはや死と同義である。


 アレックスはマルティアナの強化を一時的に切ると、彼女が話し出した。


『アレックス……わかってるわよね。強化維持出来る時間』

「1分だよね」

『継続すれば勿論奴は倒せるかもしれない。だけど今私たちは敵地の真ん中。何もトロルだけがここにいるとは限らない』

「……っ!」

『万が一もっと強い魔獣が現れた際に、逃げれる余力を残すためにも時間配分に気を配って欲しい』


 マルティアナはトロルを魔獣にした張本人が近くにいると予測していた。今はまだあのトロルしか魔の気配は感じないが、予期せぬ横槍が入る可能性は大いにあった。

 そんな時に余力が無くて逃げられないみたいな事態になる事も考慮し、マルティアナは力の使用時間節約を提言した。


「はは……まだ生きてるか、そりゃ」


 アレックスの視線の先。両腕を切り飛ばされたはずのトロルは腕を無理やりくっ付けて、よりドス黒い殺気を瞳に宿しながら立ち上がっていた。

 まさかの再生能力……しぶといなんてもんじゃないが、アレックスには力を借りずとも、奴に引導を渡せる隙を見出だしていた。


「……なるほどね」


 アレックスはトロルのある部位を見て、顔を引き締める。

 やるならこれしかないと決心し、マルティアナに問う。


「マルティアナ、倒すなら何秒ぐらいが望ましい?」

『15秒以内よ、出来る? 見ての通り……奴をぶち殺すなら首を刎ねるか消し飛ばす必要があるわ』

「出来る、だって僕は君の担い手だから」


 その瞬間――力が爆発し、マルティアナは光り輝く。


『ああ……それでいいわ。うふふ……アレックス、貴方の行く道は敵の血で染め上げてみせる』

「聖剣のセリフかそれ……!?」


 マルティアナの歪んだ愛情によって放たれた光は、向かってくるトロルの網膜を焼いた。いきなり視界が白んでしまったトロルは咄嗟に手を翳し、何とか光を遮ろうとした。しかしすでに光は怪物の目を奪い、隙を生み出している。

 アレックスは強化無しで走り出すと、マルティアナによる斬撃を喰らわせようとした。


「――――ォオ!!」


 しかし魔獣となったトロルも一筋縄ではいかない。

 視界が見えなくなっても、迫り来るのはわかっている。トロルは丸太のように太い腕を使って出鱈目に振るい、アレックスを跳ね飛ばそうとしていた。


「く……ぅうう!」


 当たれば重傷間違い無しな攻撃を、アレックスは姿勢を低くしながら避ける。風圧によって髪がふわりと上がり、冷や汗が流れた。でも怯んではいけない、アレックスは動きを止めずにトロルの足に向かって剣を振るった。


「ギィィィ……!?」

「やっぱり!」


 アレックスが見出した弱点――それはトロルの足だ。

 ちょうどアキレス腱に相当する部位が柔らかい皮膚のままだった。ブツリと嫌な音が鳴り、魔獣となったトロルは膝をつく。その姿はまるで自ら首を差し出す罪人のようだった。


「マルティアナ!!!」

『――終わりだ』


 そしてマルティアナは力を貸す。

 剣から光が放たれ、アレックスは聖なる斬撃をトロルに喰らわせる。


「オオオオッ!!!」


 キィン――と白い軌跡がトロルの首に奔る。

 怪物は目を見開いて動きを止め、自らが敗れた事を悟る。アレックスはそのまま力を剣に注ぎ込み、光のエネルギーに変換して解き放つ。


『消し飛べ――悪の残滓よ』


 極光が怪物を飲み込み、火柱が上がる。

 マルティアナの力は魔獣と化したトロルを、跡形も無く消し飛ばした。



 ◇◆◇



「ほぉ、意外にやるな」


 森の上空にて戦いを眺めていた影は感心した。諦めの悪さと僅かなチャンスに希望を見出し、そこから勝利する。まさしく王道の冒険譚を直近で見ているような場面だ。この場に聖剣を心酔する者がいれば、泣いて喜んでもおかしくない。


 魔獣が倒された――にも関わらず影に焦りはない。

 何故ならもう詰めにかかっているからだ。


「ただ……残念なのは色々と浅はかなとこだ」



 ◇◆◇



「はぁ……はぁ……勝った……!?」


 アレックスはこの目でしっかりと怪物を消滅させたのを見て、思わずほくそ笑んだ。マルティアナの力を借りたとは言え、この手で初めて敵を打倒したというのは嬉しい。


『ふぅ……余力は残してる。アレックス! このまま――』


 ――逃げよう。


 そう言おうとしたマルティアナは突如現れたの気配に言葉を失う。そう……そもそも今回の依頼はトロル3匹の討伐だ。今倒したのは1匹だけ、つまり2匹まだいる事になる。


『アレックス!!!』

「え」


 マルティアナが気付き、叫んだ瞬間――アレックスは宙を舞った。全身に奔る痛みと飛び散る血、アレックスはトロルが振るった棍棒によって吹き飛ばされていた。


「ぁ――ぐ――ぁ」


 アレックスはそのまま上へと跳ね飛ばされ、地面に激突。骨が折れる音と肉がグシャっとなるような不快感、続く形で身体を引き裂かれるような痛みが奔る。


『――! ――! ――ッ!!!』


 マルティアナの悲痛な叫び声が聞こえるが、アレックスは彼女が何を言っているのか全く分からなかった。ずっと耳鳴りがしているせいだろう。目を少しばかり動かせば腕の関節がもう一つ増えているのが確認出来た。今のアレックスは全身のあちこちを骨折した上に、折れた骨が内臓を傷つけているという状態になっていた。


(ああ……くそ、下手こいた)


 意識が遠のく。

 あれだけ息巻いておいて、結局この様なんて情け無い。アレックスは自分自身に情け無さを感じていた。たった1体しか倒してないのに、油断して致命傷を負うなんて……と。


(ごめん、マルティアナ)


 彼は聖剣にひたすら詫びる。

 力不足な上に、マルティアナに恥をかかせたのではという不安。結局自分の力なんて大したことなかった。未練があるとすればそれは――


(マルティアナに……辛い思いさせたくなかった)


 迫るトロルの棍棒が今アレックスの頭部を潰そうとした瞬間――何者かがアレックスと怪物の間に入った。


「――ふぅ、良かった……ちゃんと後をつけておいて」


 ニコリと笑うアリアが其処にいた。

 アリアは細い湾刀を抜き放つと――三白眼をナイフのように鋭く睨み、唱えた。


疾風の刃ラハブ・ソーファ


 風と光を纏う刀がトロルの棍棒を断ち切り、そのまま斜め上へ斬り上げた。トロルの胴体には大きな切傷が刻まれ、ドス黒い血が辺りを濡らす。アリアは無詠唱で風を自分とアレックスの周囲に展開し、血がかからないようにする。


「アリ……ア」

「アリアだけじゃないっすよ!」


 そしてもう1人、ローズが降り立つともう1体のトロルに向かって吶喊した。体格差はかなりある上に彼女は魔法使い。アレックスは血反吐を吐きながらも、無茶だと叫ぼうと口を開いた――が、ローズはアレックスの予想を遥かに超える動きを見せた。


「オオオオ!!」

「よっ」


 ローズはひらりと鉤爪の一撃を避けて、長杖を使ってトロルの足を払う。トロルはバランスを崩して転倒、隙を作り上げたローズは杖に火を灯して詠唱した。


爆ぜよプッツィ


 ローズは火の玉に向かってフッ……と息を吹きかけると爆発が巻き起こり、トロルの右半身を損壊させた。ジュウジュウと肉が焼けるような音がして、トロルはたまらず後退する。


「さっすが魔獣っすね、頑丈だ〜……そこそこ強く魔力込めなきゃ」

「ベースがトロルだからねー」


 アリアとローズは本当にいつも通りな様子で、呑気に会話を交わす。アレックスはあれだけ苦戦した魔獣が、死んでないとは言え簡単にダメージを負わされるのを見て、口をあんぐり開けていた。


「どう……して……君らが」

「ナフタさんから密かに見守れと、私たちに指令を出したのだ」


 そして最後に僧侶――レイナが現れた。

 彼女は困ったように笑いつつ、アレックスの体に手を翳す。


癒し手の光オール・シェル・マルファ

「あ……ぐっ」


 緑色の光がアレックスの体を包み、みるみるうちに傷を癒していく。一瞬凄まじい痛みが奔ったが、そのあとは嘘みたいに痛みが引いていき、意識すらはっきりしてきた。


『アレックス……っ!!』

「わ……マルティアナって刃危ねぇっっ」


 いきなりマルティアナが飛び込んできた。キラーンと光る抜き身の刃が襲いかかるという、B級ホラーみたいな展開にアレックスは急いで身体を捻って避けた。


『な………なんで、避けるの……?』

「今マルティアナ抜き身だから……!」


 危ない危ないと、アレックスはマルティアナを握りしめる。するとマルティアナはカタカタ震えながら喋り出す。


『ほ、本当に……良かった。しんじゃうかとおもった、もうあんなこと経験したくないよ、アレックス……アレックス』

「……!」


 彼女は泣きながら必死にアレックスに縋り付く。その姿を見てアレックスは胸の中をギュッと締めつけられるような、非常に苦しい思いに駆られた。彼女にとっての心の傷を……自分が無理やり開いてしまったと。


「ごめん……マルティアナ」

『ぅぅ……ごめん、ごめんね。痛い思い……させて』

「……聖剣様も君を心配していたようだな」

「レイナさん……」


 レイナはアレックスを起こすと「ここからは任せてくれ」と言う。助けに来てくれたのは凄く頼もしい、頼もしいのだが……やはり悔しい。


「アレックス」

「っ! はい……?」

「君はよくやった、だから自信を持て」


 レイナはフッと薄く笑う。

 彼女も理解しているのだ、力不足だと痛感した時の辛さは。


「んじゃ……いい機会っす。アリア……私たちの力をアレックスの大将に見せつけてやるっすよ」

「もちもち」


 ローズは不敵な笑みを浮かべると、杖を器用にクルクルと回して自分の周りに火の玉を作り上げる。火はみるみる内に槍のように細く、そして鋭く変化していった。


熾火の矢ヘッツ・シェル・エシュ


 火の矢が一斉にトロルの肉体を穿つ。

 あれだけ硬い表皮を容易く貫くのを見たアレックスは、ポカンとした表情を浮かべていた。


(魔法の密度が違う……! 単なる火の矢じゃない、一発一発が必殺レベルに昇華されている)


 マルティアナによる肉体改造で、アレックスは魔力の流れや質が分かるようになっていた。訓練時は加減されていたからこそわからなかったが、実戦のローズを見て彼女がA級たる所以を感じ取っていた。


「魔獣はかなり倒してきたからね……じゃあ、これでバイバイ」


 穴ボコだらけになった魔獣化トロルは、最後に内側から炎が噴出した後に消し炭となった。僅か30秒にも満たない時間で、アレックスを叩きのめしたトロルは斃された。


「ボクも良いとこ見せよう」


 そしてもう一方の戦いも決着が着こうとしていた。

 ローズのドヤ顔を見て、アリアは負けじと刀に風を纏うと傷を癒していたトロルの近くに寄る。


「すぅ……ハァ――!!!」


 先程の魔法を纏ったままアリアは1秒間で数十回斬りつける。そこから更に細かい風の斬撃がトロルを細かく斬り刻み、一瞬の内に殺害した。まさに神技、トロルの肉体を球状に包み込む斬撃のフィールドは、対象物を消し飛ばすほど斬りつけていたのだ。


「これが……A級……」

『……アレックス、よく見ておきなさい。本当なら……他の女なんか見て欲しくないけど』


 アレックスもマルティアナも悔しげに呟く。

 担い手は改めて痛感する。トロルを一体倒せたのはよかったが、パーティメンバーとの差はかなり開いている事実は変わらない。もっともっと強くならないといけない。


 対するマルティアナは単純に嫉妬だった。

 そんなに深い理由じゃなかった……。



 ◇◆◇



「はぁ……パーティメンバーがいたか。中々腕の立つ奴だ」


 一部始終を見ていた影は気怠そうに呟く。

 担い手だけなら全く怖くないが、あのパーティメンバーは違う。最強ではないが並の魔獣じゃいくら差し向けても屠られるのは目に見えている。


「計画を早めるか」


 そう言って影は森から視線を離して、ハイベルズ王国の中で最も知られた建造物に目をやる。そこにあったのはかつて王国を守るべく身を捧げた精霊が眠る塔が映っていた。


 

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