こびとのせかい

かりうど？のランドリック

この世界（せかい）は不思議（ふしぎ）なことだらけだ。

ランドリックはそう思（おも）った。

少年（しょうねん）は、ここに来（く）るまでの記憶（くおく）をほとんど無（な）くしていた。

自分（じぶん）の手（て）がかりになりそうなのは、名前（なまえ）と、着（き）ていた服（ふく）と、持（も）っていた弓（ゆみ）と矢（や）。

見回（みまわ）すと周（まわ）りは草原（そうげん）。少（すこ）し遠（とお）くに森（もり）があるのか木々（きぎ）が立（た）ちならんでいた。

試（ため）しに矢（や）を射（う）ってみたら、思（おも）ったよりまっすぐとんだ。

腕（うで）は悪（わる）くなかったみたい。

もしかしたら狩人（かりうど）をしていたのかもしれないと思（おも）った。

だけど射（う）ったことをディエルには叱（しか）られた。

「誰（だれ）かにあたったらあぶないよ」

「ちゃんと見（み）たよ、誰（だれ）もいない」

「本当（ほんとう）に？」

くちびるをとがらせるランドリックを、こびとはじっと見上（みあ）げて見（み）つめたあと、ランドリックがさっき矢（や）を射（う）ったあたりを指差（ゆびさ）した。

「え！？」

驚（おどろ）いたのはランドリックだ。

目（め）の前（まえ）を横切（よこぎ）るように歩（ある）いていた。木（き）が。

根（ね）っこを器用（きよう）に動（うご）かしてのっしのっしと歩いていた。

そんなのわかるはずないよと思（おも）ったランドリックは悪（わる）くないはずだ。

ランドリックのいた世界（せかい）では、木（き）は歩（ある）いたりしなかったのだから。

けれどこびとは言（い）った。

「みんないきてるの。けがしたら痛（いた）いの」

ランドリックは「うん」としか言（い）えなかった。

どうやら、この世界（せかい）で生（い）きていないのは岩土（いわつち）と水（みず）。あとは既（すで）に死（し）んだ枯（か）れ木（き）だけらしい。

歩（ある）くのだけでも気（き）を使（つか）いそうだと思（おも）ったけれど、この世界（せかい）の草木（くさき）はみんな歩（ある）けるので草木（くさき）の方（ほう）から逃（に）げてくれた。

こびとはたくさんのことを知（し）っていた。

この世界（せかい）で生（い）きているもの、いないもの、

いきてはいないけど、精霊（せいれい）と言（い）う不思議（ふしぎ）な生（い）き物（もの）が宿（やど）るもの。

朝（あさ）と夜（よる）はどうやって来るのか、

魚（さかな）や牛（うし）はいないこと、

けれど、ハムの木（き）というものがあること。

種（たね）は木（き）に返（かえ）してあげて、乾（かわ）いた日（ひ）はお水（みず）をまいてあげることと引（ひ）き換（か）えに、草木（くさき）の実（み）は食（た）べてもよいこと。

ここは大昔（おおむかし）に１人（り）の魔法使（まほうつか）いが作（つく）った場所（ばしょ）で「ハコニワ」と呼（よ）ぶこと。

前（まえ）にも人間（にんげん）が流（なが）れて来（き）たが、帰（かえ）れなくなってここで死（し）んでしまったこと。

「ここはランドリックのせかいにあるけど、ないの。

どこにでもあるけど、どこにもないって、長老（ちょうろう）言（い）ってた」

「帰（かえ）れなくなってって・・・」

ランドリックはゾッとした。

少年（しょうねん）は自分（じぶん）がどこから来（き）て何（なに）をしていたのかは覚（おぼ）えていないが、「ハコニワ」が今（いま）まで生（い）きてきた所（ところ）じゃないのはわかっていた。

「ボクは生（う）まれる前（まえ）だけど、いたんだって。

知（し）ってる人（ひと）に会（あ）いに行（い）く？」

「行（い）く！」

「わかった！」

こびとはおーっ！と右手（みぎて）を拳（こぶし）にして上（あ）げた。

その時（とき）だった。

くきゅるるるるる、、、

ぐー、、、

同時（どうじ）に草原（そうげん）に響（ひび）いた二（ふた）つの小（ちい）さな音（おと）は、向（む）かい合う二人（ふたり）のお腹（なか）から出（で）ていた。

こびとが照（て）れくさそうに言（い）う。

「けれどその前（まえ）に、ごはん食（た）べよ？」