【KAC20248】その男、危険につき

青月クロエ

第1話

 ※作中にて身体障がいへの差別表現がありますが、差別を容認・助長する意図はありません。






 向かいの椅子に座ったまま取り囲まれ、拳銃を突きつけられる客人を男はしげしげと眺め、問いかける。


「スタンレイ・クレイ伯爵。我が社への出資を今一度ご検討頂きたく存じます」

「大変申し訳ございませんが、お断りします。御社の利益の一部が、とある違法薬物カルテルへと流れているとの噂、小耳に挟んでおりますし」


 客人自身、かつては手練れの賞金稼ぎだったからだろう。絶体絶命の状況下でも落ち着き払った態度は気に入らないが……、客人の小柄な体躯、左の袖から覗く機械の手、片眼鏡モノクルで隠されている、視力をほとんど失った左目を心中で嘲る。

 その身体で、お前を取り囲む屈強な男どもから逃れられるものならやってみせろ、不具の若造め、と。


「まさかと思いますが、私との会合に応じたのは、クレイ伯爵自ら私を捕縛するためですか??冗談はよしてください。私に懸賞金など」

「ご存じないのですか??表沙汰にされていない犯罪者には秘密裏に懸賞金をかけられることを」

「仮に私に懸賞金かけられていたとして。を引退した貴方に」

「できると思ったゆえ、私は今この場にいるのですが」


 カッとなり、男は手振りで配下たちに引き金を引くよう合図する……、と同時に、客人の薄青キトゥンブルーの双眸(左は濁っているが)が鋭く眇められた。

 小型のネコ科猛獣にも似た目つきに、男も配下たちも思わず怯む。客人は一瞬にも満たない速さで外した片眼鏡モノクルの鎖を握り、レンズを振り回し、配下たちをすばやく殴打。すべての銃が投げ出され、配下たちも床へ倒れ伏す。


 今やこの場に立つ者は自分と客人、ただふたり。


「ひっ……」


 反射的に立ち上がった拍子に大きな音を立て椅子が倒れた。

 スーツの内に仕込んでいた拳銃を構え、正面にたたずむ客人へと発砲。が、恐怖で弾道はぶれにぶれ、あらぬ方向へ飛んでいく。数撃ったところで当たる程の正確さもなく、やがて、カチッ、カチッと聞くも虚しい弾切れの音がした。


「くそぉおお……、ぎゃあっ!」


 間近で気配を感じ、顔を上げるも一足遅く。

 飛び蹴りした客人の脚が見事男の顔面にめり込んでいた。


「ちっ、くそ、やはり割れたか」


 鼻血を出し、前歯を何本も折られて倒れた男を尻目に、客人は割れた片眼鏡モノクルをしきりに気にしていた。が。

 やがて、どちらが犯罪者か分からない凶悪な笑みを浮かべ、意識を失いかけている男に冷たく投げかける。


「言ったよな??貴様らの捕縛くらいは俺でもできると」

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