第42話 最低の父親の息子

(来ちまったか……。ここが父親が死んだ場所、さいたま支部……)


 地上にあるさいたまダンジョンの入口となるダンジョンゲートを中心に、数百メートル程が高い壁で四方を覆われているのさいたま支部である。

 壁の中はちょっとした町のようになっている。

 ダンジョンブレイクに備えた各種防衛機構の他に、探索者向けに武器などを扱う店がある。

 壁の外では気軽に探索者が使う武器は売れないので、【鍛冶士】などのジョブが作った武器を売るなど、探索者が出すお店は自然とここに集まることになる。

 本部は東京なのであまり土地が余ってないって事情もあるのだろう。

 さいたま支部が実質的に探索者のメッカと呼べる地になっている。

 では何故さいたま支部に本部を移さないのかと言えば……、単純に危険だからである。


(七大ダンジョン……)


 日本、イギリス、カナダ、ニュージーランド、ブラジル、ロシア、そしてコンゴ。

 世界に7つしかない未踏破のダンジョンである。

 未踏破であるのもそのはず、Aランクダンジョンで50階層にボス部屋があり、そこを突破すればダンジョンコアがある。

 しかし七大ダンジョンで現在確認されている限り、どこも60階層でボス部屋は発見されていない。

 60階層で終わりではないのだ。

 日本の最高記録は71階層。

 70階層でもボス部屋はなかった……。

 ちなみにこれは探索者ではなく、自衛隊の記録である。

 探索者は現在50階層までしか進んでいない。

 これはAランクが進める限度、進むことが許可されている階層がが50階層だからだ。

 もっとも奥まで進んだ世界最高記録はロシアの81階層となる。

 七大ダンジョン全てで一緒とは限らないが、ボス部屋があるのは100階層とも言われている……。


(70階層を越えると出てくるモンスターは、普通に出てくる雑魚ですら50階層のボスクラスを超えるとか)

 

 そんなのが地上まで上がって来たらどうなるか……。

 過去に3回、70階層を越える階層から50階層のボスを以上の強さを持つ特異個体が上がってきている。

 カナダのダンジョンで起こったダンジョンブレイクでは都市が滅び、特異個体を倒すのに核を必要とした。

 ニュージーランドではその特異個体は今でもそのままで、島が丸ごと一つ、モンスターの巣となっている。

 幸い空を飛んだり海を越えるモンスターはいないようで、そのまま島はとなっている。

 そしてコンゴ。

 国が丸々一つなくなっている。


(アフリカ戦線……)


 間引きが行われなくなったダンジョンゲートからは次々とダンジョンブレイクでモンスターが溢れ出している。

 日本よりも遥かに広い面積に現れるダンジョン全てからである。。

 現在アフリカ中央部では全世界の連合軍とモンスターとの激しい戦闘が継続中である。

 皮肉なことにダンジョンとモンスターと言う人類共通の脅威が現れたことで、世界は平和になっているのだ……。


(って昨日の授業で言ってたね)


 いや、アフリカは平和じゃないんですけどね。

 兎に角、いつヤバイモンスターが上がってくるかわからない場所の近くに重要な人やデータ、高価なスキルオーブも置いておけないという訳である。


(この辺か?)


 いい匂いのする飲食街にやってきた。

 あれから一ヶ月。

 すでに壁の中は滅茶滅茶になったのに、通常営業を再開している店も多い。

 逞しい限りである。

 ここで働いているのは探索者じゃない一般人も多いのだとか。

 そういう人たちはモンスター相手では無力だ。

 父親は逃げ遅れた子供を助けに行って……。

 なんで子供が壁の中に、と思ったが、家族でやっている店の手伝いに来ていたのだとか。


『アンタの親父は最低な父親だね』


 葬式で泣きじゃくる弟を見て、会長が俺に言った言葉だ。

 病気の息子の為に探索者をやっているはずなのに、他人の子供を助けて死んだ。

 返す言葉もない。

 優先順位を間違えてはいけない。

 一番大事なのは自分の命、それが探索者の基本なのだから……。


(今の俺はどうだろうか?)


 結局莉子は帰ってこなかった……。

 消息不明……。

 ダンジョンで死んだら死体も残らないのだ。

 だから本当に死んだのかもわかっていないが……。

 モンスターは30階層台に現れるオーガの特異個体だったらしい。

 どういう訳か20階層台では誰も見てなかったと、死者が出たのは20階層から15階層までのセーフティーエリアまでの間だ。

 それが昨日の、いや、で分かった情報だ。

 ……【時間遡行】を使った。

 30階層のモンスターの特異個体、勝てる保証はない。

 【時間遡行】があるとはいえ、失敗したら死ぬ。

 正直、莉子を助ける理由はない。

 しいて言うならまあ支部長が悲しむからかな?

 家族の死を悟り、悲痛な声を上げたその姿を見てしまった。

 ならは行くしかないのだ。

 何故なら俺は最低の父親の息子だから。

 おっと、これだと支部長に勘違いされてしまうな。


(別に支部長の為じゃないんだからね!)


 これでヨシッ!

 やれることはやろう。

 そして絶対に死なない。

 倒せないと判断したら、誰か別の人に任せればいいのだ。

 最初からそれをしないのは……。


(時間が戻ったのなら、あの泣き顔をもう一度見ないといけない……)


 梓さんをもう一度泣かせることになる。

 その原因だ。

 宙に浮いた俺の気持ちも、ぶつけるところがなくて困っていたのだ。

 ぶっ飛ばしてやる。



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