第30話 パーティーは5倍か5分の1か

「「「ガルルルッ」」」


 小部屋に狼のモンスターが10匹。

 17階層までやってくると、モンスターが一匹で行動しているなんてことはまずない。

 特にこのグレイウルフは群れで行動するのでその数も多い。


「ウォーーーン!……キャンッ」


 通路から遠吠えをした一際大きい個体に向かって石を投げた。

 まあ必中と言っても当たるまで【時間遡行】で繰り返すから必中なんだけどね。

 今回は一発で当たってくれた。


「【継矢】【ファイヤーボール】」

 

 今度こそ【ファイヤーボール】を放つ。

 【継矢】は前の攻撃が当たった場所に次の攻撃がホーミングして当たるスキルだ。

 なので先程石を当てたグレイウルフに必ず当たる。

 ちなみに遮蔽物があるとそこで魔法が弾けるので、他の狼に当たらないように【ファイヤーボール】は少し上に撃ち出しておいた。

 弧を描いた火球が見事に着弾。

 暗かった小部屋が炎の光で満たされていく。


「「「クゥーン、クゥーン……」」」


 残ったグレイウルフが情けない声を上げる。

 先程狙ったのは群れのリーダーだ。

 遠吠えを上げていたのは群れの能力を上げるバフなのだが、リーダーが死ぬと逆に能力が下がるデバフになる。

 だからあえて吠えさせてから倒したのだ。

 こうなってしまえば、俺一人でも残りの9匹を相手に出来るだろう。


(焦げ臭いな……)


 リーダーは奥の方にいたので【ファイヤーボール】を選択した。

 【ウィンドカッター】は距離が離れると、威力が下がるので一撃で倒せない可能性があったからね。

 まあ明るくなってカメラ映りも良くなるだろうし、一石二鳥だろう。


「や!」


 それでも小部屋には入らずに、入り口で向かって来たグレイウルフを順に処理していく。

 動画映え的には飛び込んだ方がいいのだろうが、それをすると梓さんにまた怒られそうだからね。

 最後の一匹を倒し終わった頃には群れのリーダーに付いた火も消えて消えてちょうどいい感じに。

 魔石を回収しないといけないからね。


「お?【ステータス】」


名前:田中太助

ジョブ:【戦士】

Lv:17

HP:480/510

MP:81/245(255)

腕力:34

耐久:34

敏捷:34

魔力:25+1


スキル:【時間遡行】【皿洗い】【武器強化】【ファイヤーボール】【ファイヤーウォール】【ウインドカッター】【魔力+1】【エイミング】【継矢】【罠設置】【鍛冶・補修】【気配察知】


スキルポイント:17


 違和感を覚えたのでステータスを確認してみたらレベルが上がっていた。

 これで17回目だからね。

 レベルが上がったのもわかるようになってきたのだ。

 ステータスが上がった分、ちょっとした所作が速くなったりするからね。


(レベル17か、聞いてたよりずっと早かったな)


 一人でやっているということもあるのだろう。

 近くに人がいると経験値は分配されるという。

 ダンジョンに入れる人数に上限はないらしいが、ボス部屋に入れるのは5人までで、それ以上は入れなくなる。

 だから普通は5人でパーティーを組んでダンジョンを探索していくらしい。

 その場合は経験値も5分割だからここまで来るのに5倍の日数が掛かったろうね。

 ダンジョンに全員で入れるように日程を合わせないといけなかったりもするし、誰か一人が体調を崩しても全員で帰らないといけなかったりと、実際にはもっと掛かるだろうけどね。


(その分戦闘は5倍楽になるのかな?)


 ちなみにボス部屋の人数制限なんだけど、テイマー職がテイムしているペットは抱えてボス部屋のゲートに入る分には、または乗って入る分には5人の人数制限にはカウントされない。

 テイマー以外にも狩猟犬や馬なんかのペットを連れてダンジョンに入る人もいるけど、そちらはボス部屋の人数にカウントされるので注意が必要だ。

 ペットもレベルが上がるので、一度ダンジョンに入れてしまったペットは支部から許可なく移動できなくなる。

 だから支部でモンスターと一緒のところで預かってもらわないといけなくなるね。

 海外ではレベルの上がった犬が人を噛み殺す事件が未だに起こっているので、日本では早々に規制された感じだ。


(今日はもう帰ろうか……)


 グレイウルフ達から魔石を取り出したので帰ることにする。

 今日の目標だったレベル17に到達したし、すでに18階層に通じるゲートの場所も見てきた。

 今ので動画の撮れ高も十分だろう。

 明日は20階層まで、そしてボス部屋にも行ってみるつもりなので早く帰って休もう。

 




「太助君おかえりー」


「黒川さん、ただいまです。換金お願いします」


 帰り道は残りMPも気にしなくて良くなるので、危なげなく帰ってこれた。


「んん?これ17階層の魔石?もうそこまで行ってるの?すごいじゃない!あら、グレイウルフのリーダーの魔石もあるわね。【気配察知】覚えたのに戦っちゃったの?無理しちゃだめよ?一人だと危ないんだから。やっぱりパーティー組んだ方がいいって」


 黒川さんは心配してくれるが、今日も特に苦戦という苦戦はなかった。

 かすり傷でもすぐに【時間遡行】を使っているからというのが正解かもしれないが……。


「この攻略速度、似ている……。そう、あの人がパーティーを組んだのもちょうどこの頃。あの女と会ったのも……」


 なんか奥から支部長が覗いていたが、気が付かないフリをして帰ることにした……。

 話を聞くと長くなるからね。

 今日は何と換金額が初めて2万円を超えた。

 小部屋に入るとモンスターが群れで待ち構えていてくれるので、時間効率が良いんだよね。



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