第29話 先頭に立って戦闘

「おはようございます、黒川さん。朝早いのに、混んでますね」


 土曜日、長めにレベル上げをするために6時には家を出てきたのだが、すでに支部は混んでいた。


「でしょー。4月から冒険者になる人って結構多いのよ。特に大学生ね。土日はどこの支部もこんな感じだと思うわ。ま、夏が終わる頃には大半が辞めちゃうんだけどね」


 ほとんどの大学は探索者の受験を受け入れていない。

 しかしながら入学者には逆に探索者になることを勧めている大学も多いのだとか。

 大学としてはステータスの効果で頭が良くなった人よりも、地頭のいい人を採用したいようだ。

 大学生にとっては短期のアルバイトより簡単に稼げてあと腐れもなくていいのだろう。

 Dランクまで上がれれば丸1日ダンジョンに潜れば1万円は稼げるからね。


(簡単でもないのか……)


 赤井さんもモンスターには結構苦戦してるみたいだし、俺も装備が揃っているから何とかなっているのかもしれない。

 黒川さんの言う通り、人達はドンドンやめていくんだろうね……。

 ちなみに大学受験の際には魔力を計る魔道具で受験生全員がチェックされる。

 これは空港にも設置されている魔道具で入国者をチェックする際にも使用されていて、魔力が2以上あれば反応するらしい。

 一応レベルを持たない一般人も魔力が1はあるらしく、2ならば探索者と一般人を見分けられるという理屈らしい。

 しかしながらジョブなしのレベル1ならば反応しないのを利用した不正も問題視されている。

 協会に登録するとその情報は受験のする大学は知ることが出来るので、ダンジョンに入らずにどこかのダンジョンから連れ出してきたスライムなんかでレベルを1にして、スキルオーブで覚えた【念話】などのスキルでカンニングをするんだとか。

 いや、いくら金が掛かるんだって話だが、この方法ならどこの大学だろうが筆記試験は完璧になるからね。

 もちろんモンスターをダンジョンに連れ出すのは禁止されているので普通に犯罪行為だ。

 バレたら合格取り消しどころか逮捕ですね。

 裏ダンジョンと呼ばれる、反社会勢力や海外の工作員が隠してるダンジョンなんかがあると言う噂なので、モンスターの出所はそこらしい。


(テイマー職の人たちもモンスターは外には連れ出せないから支部に預けてるんだよね)


 【調教師】や【育成師】など、モンスターを【テイム】というスキルで仲間に出来る人気のジョブが存在する。

 上位のジョブになれればモンスターだけでなく、一般の動物との会話も可能になるらしく、そういう上位のテイマー職が入ったダンジョンコアの値段はを超える値段で取引されている。

 もちろん人気ジョブなので下位でも数百万……。


(志村さんスライムを飼いたいって言ってたけど、梓さんにダンジョンコアの値段聞いて飛び上ってたね……)


 2回目の動画は二人には不評だった……。

 あんなに頑張ったのに何故?

 どうやら志村さんはグロ動画も好きだがスライムのことをもっと気に入ったらしく、スライムの動画をたくさん撮ってくるように言われた。

 どこかDランクくらいでスライムが出てくるダンジョンがあればいいんだけどね。

 そこに行って大量にスライムを倒す動画を撮れれば、グロとスライム、両方を満たしつつ、俺のレベル上げもできるのに……。

 梓さんの方は俺の演技がバレたらしく、危ないから普通にやってほしいと言われた。

 二人が仲良くなれるように頑張ったのに……。

 まあその甲斐あってか、梓さんは志村さんのことを里香さん、ではなく里香ちゃんと呼ぶようになった。

 土日も二人で遊ぶと言っていて、梓さんの家でスライムの動画を探すそうです。

 いきなりスクールカーストトップの集団に放り込まれて梓さんだったが、仲の良い友達も出来て安心だね。

 志村さんは俺が例の告白した時も、自分は不良なので付き合えないと俺のことを慮った断り方をしてくれた優しい人だ。

 梓さんの心配はもういらないだろう。


(俺の心配をした方が良さそうだね)


 俺も今度こそちゃんとした動画の撮影ということで、今日は奥に行ってからカメラを動かすことにする。

 まあレベル上げが主だから程々にね。


(あっ、この部屋だ)


 Dランクのダンジョンゲートのすぐ近くにテイマー職のモンスター達を預かっている部屋を見つけた。

 ダンジョンブレイクが起った際にはここにいるモンスターも戦力として数えられるのだとか……。

 世知辛い話だ。





 15階層のセーフエリアまでやってきた。

 先週よりもずっと早く、昼前には着いてしまった。

 すでにダンジョン内には人が多く、低階層の道順にいるモンスターは倒されていたからだ。

 戦っているパーティーもたくさんいて、戦いが終わるまで待ってから挨拶して脇をすり抜けたり、探索者として重要な経験が出来たと思う。

 一人だったせいか俺のペースは速かったみたいで、10階層で先頭に立ってしまったらしく、そこからはモンスターと戦闘になるようになった。

 【気配察知】があるから、一々目視で確認しないでガンガン進めんできたからね。

 前までは分かれ道の度に、進行方向じゃない方もライトで確認してたけど、その光に反応しておくからモンスターが来るってこともあった。

 10階層から14階層まではモンスターを倒しながら進んだけど、15階層に入ってからこのセーフエリアまではモンスターはいなかった。

 金曜の夜からこの15階層のセーフエリアに泊まり込んでレベル上げや狩りをしている探索者が多いからだ。


(俺もそうした方がいいかな?)


 金曜日の学校が終わってから支部に来て15階層まで……。

 学校から支部までの移動もあるから6時間はみたとして、21時にはここに着くかな?

 洞窟型のダンジョンだから時間は気にしなくていいけどね。

 そこからセーフエリアで休息すれば、朝に15階層から始められる。

 これはいい作戦かもしれない。


(他の探索者からの学びですね)


 今日は泊りの予定ではない。

 18階層辺りまでの道順とモンスターを確認したら帰る予定だ。

 今日中にレベルが17に上がったら明日には18まで上げてそのままボス部屋を見にいく。

 ボスを確認してダメそうなら【時間遡行】で戻ればいい。

 普通はボス部屋に入ったらボスを倒さない限りは出られないけど、【時間遡行】なら出入りも自由自在だからね。


(ダメそうなら戻るけど、もし倒せるようなら……)


 明日にはDランクダンジョンをクリアできるかもしれない。

 Cランクの探索者になれば、埼玉ダンジョンの20階層台、薬草の生えるエリアに立ち入ることが出来る……。

 そう思うとレベル上げにも力が入るというもの。

 早めのお昼休憩をした後、動画撮影を開始してセーフエリアを出たけど、モンスターと戦闘になったのは17階層に着いてからだった。

 やはり混んでいる……。



 

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