第28話 グロ動画好きの不良娘

「ねえ?昨日のカメラの話ってどうなったの?」


 登校中、電車内で不良ギャルの志村さんに声を掛けられた。


「里香さんおはよう。まだ見てないよ。家に帰ってからゆっくり見るつもり」


 さっきカメラは梓さんに渡したばかりなので、中は確認していない。


「あ、じゃあ今日は梓の家に行っていい?まだ梓のに家には行ったことなかったし」


 俺も行ったことないな……。


「え?でも動画は誰にも見せないって約束だったから……」


 そうだね。

 梓さーんって話し掛けてる動画だから見られるの恥ずかしい。


「そういえばそんな話してたっけ。田中、いい?」


 いいか悪いかで言えば悪いだけど……。

 これを断ったら、梓さんと志村さんの関係が悪くなっちゃうかな?

 折角家に遊びに来てくれるって言ってるんだし。

 

「いいけど、志村さんだけね。他の人には見せちゃダメだよ」


 見られてマズいものはモノは何も映ってないはずだ。

 スキルオーブも映ってなかったのは確認済みだし、大丈夫だろう。


「いいの?でも里香さん、大丈夫?ダンジョンの映像だよ?モンスターとかの解体の映像も映ってるだろうし、結構グロいと思う……」


「え?そうなの……。だ、だ、だ、大丈夫。私、グロ耐性、あるし……。いやー、今からタノシミダナー」


 そうなのか、でも残念。

 カメラの中身はスライムをプニプニする動画です。





「もう!あの動画はないよ!」


 翌日、朝から梓さんに怒られている。

 昨日はダンジョンには行かなかった。

 一昨日はFランクダンジョンで結構な回数の【時間遡行】を使ったので体を休めることにしたのだ。

 なので二人のことは気にはなったが梓さんの家にも行っていない。

 しかし、その日の内に梓さんから苦情の電話があった。

 なんでもDランクのダンジョン辺りで俺が全力で戦っている動画を撮ってきてほしかったそうだ。

 それが蓋を開けてみたらスライムを撫でまわすだけで碌に戦わない、ダンジョンの風景を撮っているだけの動画だったからだ。


「今日もう一回撮ってくるから許してって。Dランクダンジョンね。時間がないからあんまり奥に行けないけどね」


「昨日の今日で無理していかなくてもいいんだよ?休みにはまたダンジョンに行くんでしょ?その時についでに撮ってきてくれたらそれでいいから……」


「おはよー、梓。あ、田中、昨日の動画すごい良かったぞ。スライムってメッチャかわいいのな。あのプニプニしたの実際に触ってみたいぞ。なあ、またダンジョンの動画撮ってきてくれよ」


 お?志村さんには動画は好評だったみたいだ。


「おはよう志村さん。今日また行って撮ってくるよ」


 今日はDランクに行くからちょっとグロ目の動画になるけど、志村さんはそういうの好きって言ってたから遠慮はいらないね。


「あ、太助君、あの梓さんっていうのやめてよ。昨日は里香さんがマネして大変だったんだから。太助君、偶に私のこと『さん』付けで呼ぶよね?」


 前は渡辺って呼び捨てにしてたから流れで梓って呼び捨てにしてるけど、なんとなく引け目みたいなのがあって抵抗があるんだよね。

 それでつい梓さんって呼んでしまうことがある。

 告白してOKはもらって彼女なのは間違いないけど、この子は本当に俺のことを好きなのかって考えたりすることもあるし……。

 その逆も……。


「そんなに怒るなよ、アズササン」


「もー、里香さん、やめってって言ってるでしょー」


「じゃあ私のことも里香って呼び捨てにしろよー」


 どうやら昨日はうまく盛り上がれたようで、二人は前よりも仲良くなってる。

 失敗したら【時間遡行】も辞さない構えだったが、杞憂だったみたいだね。





「こんにちは。僕は今、浦和支部のDランクダンジョンに来ています。洞窟型のダンジョンなので先は真っ暗ですね」


 放課後、また撮影の為にダンジョンにやってきた。

 あまり遅くならないように今日は1階層だけで帰るつもりだけどね。


「では明かりをつけて出発しますね。これは魔道具のランタンです。魔石をここに入れるとこの通り、光ります。それと梓さんオススメのヘッドライトです。こっちは電池式なので忘れずに予備の電池を持ちこまないと……、あっ無いかも」


 日曜日はちょっと予定より長くレベル上げをしたからその時に予備の電池に入れ替えてそのままだった。

 帰りに忘れずに買って帰ろう。


「では進んでいきます」


 動画を撮っているので実況風に進めているが、これでいいのだろうか?

 でも梓さんと志村さんの二人で無音の動画を見るのかと考えたら、やっぱり解説はあった方がいいだろう。

 明日は逆に志村さんの家に遊びに行くらしい。

 二人がもっと仲良くなれるように俺も盛り上げていこう。


(【気配察知】)


 周囲の状況を探る。

 【気配察知】はMPを消費しないタイプのスキルだ。

 だからダンジョンに入ったら常時発動しておけって言われているんだけど、MPを消費しない代わりに疲れるんだよね。

 【武器強化】もそうなんだけど、MPの代わりに体力を消耗しているかもしれない。

 そして【時間遡行】もMPを消費しなかった。

 【罠設置】を使ってMPを0にしてから使って見たんだけど、普通に1時間以上戻れたし、なんなら【罠設置】の分のMPも回復していたというね。

 MP0でも【時間遡行】を使えるとわかったのはうれしい誤算だね。

 まあ代わりに【気配察知】や【武器強化】とは比較にならないくらい疲れるんだけどね。


(お?天井にモンスターだ。でもここは敢えて気が付かないフリをして、動画の盛り上がりポイントにしようか)


 近付いても向かってこないと言うことは、ヴァンパイアバットじゃなくてビックスパイダーみたいだね。

 真下に行ったら落ちて来るヤツだ。

 もうすぐ落下地点と言うところで、無言でカメラを三脚に設置して俺だけ前に進む。

 シュッと僅かな音だけを出して降ってくる巨大蜘蛛をギリギリで躱して戦闘に入る。

 Dランクダンジョンとは言え、1階層に出てくるモンスターはレベル1。

 苦戦することはない。

 うまくカメラの正面に誘導してから倒す。

 前足を振り上げて威嚇してくるけど、【武器強化】の掛かった剣ならその前足を両断できる。

 前面の防御を失ったところで頭に剣を振り下ろして終わりだ。

 ビッグスパイダーは奥の階層に行っても奇襲にだけ気を付ければ怖いモンスターじゃないね。

 【気配察知】があれば落ちてくる前に石を投げたりしてダメージを与えることもできる。

 流石に天井に魔法は打ち込めないので、弓矢なんかを持ち込むのはアリかもしれないね。


「いやー、ビックリシマシター」


 (棒)。

 梓さんは俺の全力が見たいって言ってたけど、それはギリギリの戦いをしろって意味ではないだろう。

 それに、モンスター自体に興味があるならダンジョン関連の動画アップロードしている探索者は多いので、そちらを見れば済む。

 俺がどういう風に戦うのか、ちゃんと剣は振れているか、装備の穴はないか、そう言うところを確認したかったんだと思う。

 後、どのモンスターを苦手としているかとかね。

 だから今日は1階層に出てくる全部の種類のモンスターと戦ってみせようと思う。

 2人がこの動画を見ながら楽しめるように、ピンチを演出しつつね。


「じゃあ魔石を取り出します。ちょっとグロいかもしれませんね」


 志村さん待望のグロ映像です。

 楽しんでくれるといいんだけど……。



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