第27話 スキル発動が初動画
「カメラ持ってきたの!」
この子は何を言いだすんだ?
月曜日。
梓と駅で合流して登校中、電車の中で急にカメラの話をしだした。
「動画配信はしないよ?」
「わかってる。でも私ね、ダンジョンのことをもっと知りたいの。太助君がどういう風に頑張ってるのか見てみたい。だからお願い、ちょっとでいいから動画を撮って来てほしいの」
配信をしろってことではないらしい。
「いや、恥ずかしいし」
「絶対誰にも見せないから!自分用、自分用だからいいでしょ?ちょっとだけ、ちょっとだけだから!」
「本当に誰にも見せない?」
「約束する。だからお願い!この通り」
「うーん、誰にも見せないなら……」
まあちょっとダンジョンの様子を撮ってきて、それでお茶を濁すか。
血飛沫とか、解体とか、でっかい蜘蛛とか百足とか、刺激が強いのであまり見せたくはない。
「待てー!梓、早まるな!落ち着いてよく考えろ!そういうのは一生残るんだぞ!」
途中の駅で乗ってきたらしい、クラスメイトの
「あ、里香さん、おはよう。どうしたの慌てて?」
この志村さんは見た目は背が高くて不良少女と言った感じのギャルだが、中々陽キャ集団に溶け込めない梓さんのお世話を焼いてくれるいい人だったりする。
「いいか、梓。こんなことは言いたくないけど、もしかしたら二人にも別れる時が来るかもしれない。その後にだな、そういう映像が残ってるとだな……。別れ方が悪かったりしたら、仕返ししてやるーってなってだな……。その、えっと。兎に角大変なことになるんだ。よくニュースとかでやってるだろ、リベンジ的な……」
確かにそれは大変だ。
俺は初心者。
きっと剣の振り方一つ取っても粗だらけだ。
ネットに上げられでもしたら莉子みたいな奴等に叩かれまくって炎上してしまう。
「絶対外には出さないから大丈夫だよ?でも何かの手違いってことはありえるのかな?ダンジョンの動画配信者には、未だに変な団体から苦情が来るって聞くし……。でもどうしても太助君がダンジョンで頑張ってるところが見てみたいの!」
完全に人類の脅威と言えるモンスター相手でもその手の人達には関係ないからね。
残虐な動画を上げることが自体が教育に悪いってスタンスの人もいるし、ダンジョンの動画は世間一般には受け入れられてる訳ではないのだ。
「えん、じょう?え?ダンジョン?どういうこと?」
困惑する、志村さん。
どうした?
「え?だから太助君にダンジョンの動画を撮ってきてもらうって話なんだけど……」
「え?」
「え?」
「いや、私はてっきり恥ずかしい動画を……。おい、田中!そういうことは早く言え!」
何故か俺が怒られた……。
「そうだ!パソコンとかには移さないで、カメラの液晶で直接見て、見終わったらすぐ消すのならどう?これなら炎上もしないでしょ?」
この子も諦めないね。
︙
︙
「イエーイ、梓さん見てるー?」
放課後、結局折れた俺は浦和支部のFランクダンジョンで動画撮影を開始した。
ここならモンスターはスライムだけなので、スプラッターな映像にはならないだろうという考えだ。
初めての動画撮影になるのでテンションがおかしいのは勘弁してもらいたい。
「ここが浦和ダンジョンのFランクダンジョンになります。今、地上は少し雨が降ってるけど、ダンジョンの中は晴天です」
不思議なもので、時間や日の出、日の入りはダンジョンゲートのある場所と連動しているのに、天気はいつも一定なのだ。
このダンジョンは常に晴れで、陽気もずっと春ぐらいのものが続くらしい。
他の支部に行くと常に雨が降っているダンジョンだったり、夏だったり、雪山のダンジョンなんて言うものも存在したりする。
「あ、いました。あれがこのダンジョンのモンスター。スライムになります」
解説口調だけどこれでいいのだろうか?
都合のいいことに現れたのは水スライムだったので、つっついて見たり、触った感触をリポートしてみたり、色々できた。
「かわいそうなので逃がしてあげましょう。じゃあねー」
Fランクダンジョンの一階層に出てくるモンスターの魔石は1個10円にも満たない。
レベル差があるので倒しても経験値は得られないし、この無害な生物を殺してしまうことで梓さんの好感度が下がるのを防ぐために逃がしてあげることにした。
「あれは泥スライムですね。水スライムは体が水で出来ていますが、泥スライムは泥で出来ています」
その後もスライムとは戦わずに遠巻きに撮影するだけにして、風景なんかも撮りつつボス部屋へ。
「これがダンジョンゲート。これに入ると次の階に行けます。ここはFランクなので1階層でおしまい。この先はボスモンスターがいるフロアになってます。入ったらボスのビッグスライムと戦闘になるのでカメラは三脚の上で固定にしておきますね」
ボスフロアに入ったら、三脚を設置してカメラの向きも調整。
これでいいだろう
時間を確認したらスキルを発動させる。
「【ウィンドカッター】!」
スパッとビッグスライムを魔石ごと真っ二つにして戦闘終了。
「やっと出た!……あ、やべっ」
動画撮ってるんだった……。
いやいや、折角来たから【時間遡行】で周回をしていたのだ。
100回は行ってないと思うけど、それぐらいでようやくスキルオーブが出た。
光って見えるから【皿洗い】ではない。
たぶんここで出やすいという【カット・野菜】だろう。
「ボスを倒すとこういう風に真ん中に宝箱が出てきます。空箱の中身は内緒でーす」
誰にも見せないって約束したけど、もしもってことがあるからね。
スキルオーブが出たことは秘密にしておく。
「これがダンジョンコアになります。ここは管理ダンジョンなので、勝手にダンジョンコアを持ち帰ったり、壊したりすると罰金どころかライセンス剥奪だから絶対にしないでね」
ボス部屋からダンジョンコアの部屋に移動してダンジョンコアもカメラに収める。
「後はあそこのダンジョンゲートに入れば一気に地上に出有られます。今日の撮影はこれで終わりです。梓さん、またねー!」
ふう。
30分も撮影してないけど、こんなものでいいだろう。
さっき手に入れたスキルオーブを帰る前に割っておこう。
「【ステータス】」
名前:田中太助
ジョブ:【戦士】
Lv:16
HP:360/480
MP:220/230(240)
腕力:32
耐久:32
敏捷:32
魔力:24+1
スキル:【時間遡行】【皿洗い】【武器強化】【ファイヤーボール】【ファイヤーウォール】【ウインドカッター】【魔力+1】【エイミング】【継矢】【罠設置】【鍛冶・補修】【気配察知】【カット・野菜】new
スキルポイント:16
やっぱり【カット・野菜】だったね。
たぶん使うことはないだろう……。
どうやら俺は料理系のスキルにも適性があるらしい。
次は料理の動画でも撮ればいいかな?
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