第25話 後ろ姿がソックリ

『ダンジョン出たよ^^これから家に帰りますv』


 渡辺に今日の探索が終わったことを報告する。

 ダンジョン内は電波がないので地上に戻って、更衣室から送った。


『無事で何よりです^^また夜に電話で今日の探索のお話を聞かせてください♡♡♡』


 ややあって返信が来た。

 ハートが3つ……。


『了解^^9時くらいに♡』


 1つだけ返しておこう。

 渡辺とは、いや、梓とはうまくいってると言っていいだろう。

 どういう訳か向こうが積極的だからね。

 俺は合わせるだけでいい。

 学校帰りにみんなで遊びに行ってるので、土日までもデートしようとは言ってこなかったのが幸いだ。

 いや、陽キャたちと合わせるのは大変だったけどね。

 某コーヒーショップで注文する時に3回も【時間遡行】を使ったからね。

 更にゲームセンターでは一発でUFOキャッチャーを成功させるのに10回……。

 彼女にヌイグルミをプレゼントしたら、皆さんから羨望の眼差しを受けましたよ。

 いやいや、ボス部屋の宝箱に比べればUFOキャッチャーなんて楽なものですよ。

 裸にならなくてもいいしね。

 そんな訳で梓さん共々、今やすっかり陽キャグループの一員です。

 やり直しが利くっていうのは恐ろしいことだね。


「太助君、ちょっといいかしら?」


 帰ろうとしたところで支部長に呼び止められる。


「何でしょう?」


「少しお話があるの。奥にいいかしら?」


 ちょっと憔悴した様子だ。


「少しでいいなら」


 まあ聞くだけ聞こう。





「本当にごめんなさい。上司として、あの子の母親として、代わって謝罪します。申し訳ありませんでした」


 支部長室に入るなり、深々と頭を下げた支部長。

 どうやら莉子の失言を謝りたかったようだ。


「いえ、俺は気にしてませんから」


 怒りっていうのは長続きしないもので、殴ったらスッキリしてしまったからね。

 寧ろやり過ぎてしまったと反省しているくらいだ。


「最近顔を出してくれなかったから、支部に来づらくなったんじゃないかと思って心配してたのよ」


 黒川さんも同じことを言ってたね。

 他の人からしたら、言われ放題で気を悪くしたと思ってもしょうがないか……。


「学校が始まって忙しかったからですね。放課後に来ても中途半端な時間になってしまうので、土曜まで我慢してました」


「それならよかったんだけど……。大人なのね。あの人もそうだったわ。私が何を言ってもワハハって笑い飛ばして……。うぅ、ごめんなさいね。少し話を聞いて欲しいの。他に誰にも相談できなくて……。あの人に似た貴方に話を聞いて欲しいの……」


 少しって言ったのに、長話を聞かされた……。

 遡ること2年、支部長の旦那さんはさいたまダンジョンのモンスターパレードに立ち向かって亡くなったらしい。

 ダンジョンブレイクにならなかったのは現場に居合わせた探索者達が文字通りの命懸けでモンスターを食い止めたからだったと。

 支部長の旦那さんは探索者で、ダンジョンに籠ってばかりであまり家には居着かなかったのだとか。

 そのせいか一人娘の莉子は懐かず、莉子が高校に上がるころには反抗期もあってかその仲は険悪と言ってもいい程に。

 そして父親が亡くなる前日、莉子が最後に掛けた言葉は『死ね』だったそうだ。

 反抗期の娘らしいと言うか、莉子らしいと言うか……。

 俺にはそれぐらいの感想しか出てこないが、莉子にとっては一生の重荷になるであろう出来事だろう。

 父親の死後、塞ぎ込んだ莉子は大学受験に失敗。

 そして何を思ったのか探索者になると言い出したそうだ。

 慌てたのは残されたもう一人の肉親である支部長だ。

 旦那をダンジョンで亡くしたばかりなのに、一人娘までも探索者になると言い出したのだから……。

 現行の探索者協会の規則では、二十歳になるまでは探索者になるのに親の許可がいる。

 当然支部長は許可を出さずに大喧嘩。

 落としどころとして、支部長権限で支部の職員に採用し、モンスターの間引きに参加させていたのだとか。

 

「……」


「……本当はね。旦那とあの子の仲が悪くなった原因を知っているの。莉子が小学校を卒業する頃だったかしら……。あの子、将来はパパみたいな探索者になりたいって作文に書いてね。でも、それを聞いたあの人は猛反対。絶対にダメだって。それ以来莉子はまともに口も利かなくなってね。最後はあんなことに……」


 よくよく考えれば俺と莉子は似ているのかもしれない。

 父親が死んで探索者になろうとした。

 違うのは母親が反対したかどうかだ。

 いや、俺の場合は理由があったから反対できなかった、か……。


「支部長は娘さんが探索者になるのに反対なんですか?」


「あの人、言ってたの。例え娘に嫌われたとしても、父親としてそれは許可出来ないって。娘が大切だからこそ反対するんだって。私はそれを遺言だと思ってるわ。だから、最後の最後まで反対しようと思ってる。これからもやめさせようと努力してみるつもりよ」


「俺は反対を押し切って探索者を始めたなので、支部長が掛けてほしい言葉は出てこないと思います。ウチの母親も最初は反対してましたから……」


 支部長がなんて言ってほしいのか俺にはわからない。

 どうして俺にこの話を聞かせたのかも……。


「あらそれは残念ね。でも本当に話を聞いて欲しいだけだったから……。あの人に似た貴方に……。後ろ姿とか本当にそっくりなのよ?ダンジョンに向かう太助君を見ているとあの人が帰ってきたんじゃないかって錯覚するくらいなんだから。もしかしたら莉子が辛く当たる原因もソレかもしれないわね。ウフフッ」


「太助君、1つだけお願いがあるの……」


 来たか……。

 やっぱりそういうことか?


「何でしょう?」


「私のことを応援してほしいの、頑張れって。私、それで頑張れるから。絶対に娘を探索者にはさせないし、させておくつもりもない。兎に角反対してやめさせるつもりよ。だから貴方にそれを見ていてほしいの」


 驚いた。

 正直なところ、莉子を押し付けられるんじゃないかと思っていた。

 でもこの人は他人に子供を押し付けて、自分は逃げるような真似はしないようだ。

 だから俺に、ではなく、俺を通して死んだ旦那さんに宣言したかったのかもしれないな。

 絶対に娘を諦めないぞ、って……。 


「わかりました……。頑張って支部長!応援してます!」


 何の効果もないだろうけど、支部長の気が済むならこれぐらい安いものだろう。


「ウフフッ、ありがと。あ、もう1ついいかしら?」


「はい?」


 まだ何かあるのか?


「これからは支部長じゃなくて真実って名前で呼んでほしいの!」


 何それ怖い……。





『やっぱりパーティーを組んだ方がいいと思うよ?それでみんなでお金を出し合って、斥候職の適性がある人に【気配察知】のスキルオーブを使ってもらうの。それが洞窟型ダンジョンの攻略法だね』


 家に帰って梓さんとの電話中です。

 いやいや、詳しすぎないか?

 今日一日ダンジョンのことを色々と調べてくれていたらしいけど……。


「パーティーか、Dランクダンジョンを突破するだけならいいけど、その後は一緒には出来ないからね。絶対に分配で揉めるし、俺にパーティーは無理だよ」


『そっかー。Dランクまでなら、一人でも野営をセーフエリアですればそれほど危険ではないみたいだけど……。やっぱり【気配察知】は必要になってくると思う。一旦【斥候】に転職してか、スキルオーブを買うかスキルポイントで覚えるかして、攻略するときはまた近接戦闘職に戻すのがいいかも』


「詳しいな!俺より詳しいんじゃない?」


 ただそれだと【斥候】のジョブが入ったダンジョンコアが10万円、【気配察知】のスキルオーブは持っているからいいけど、最下級の近接職である【戦士】に戻るとしてももう10万円で、最低20万円は掛かるんだよね。

 金はある、でもそれはポーション用に残して置きたいお金なので使う訳にはいかない。

 Cランクに上がればフリーのダンジョンに順番で挑戦できるので、色々ジョブも手に入って、覚えられるスキルの幅も広がるんだけどね。

 そのCランクに上がるのにダンジョンコアが必要っていう……。


『エヘヘ、そうかな?どうしても一人でやるつもりなら思い切って支部を変えちゃうのもアリだと思うよ。洞窟型じゃなくて迷宮型のダンジョンに行くの。迷宮型のダンジョンは迷路になってるけど中は明るいみたいだから【気配察知】も必須じゃないし。それに浦和支部はあまり評判が良くないみたいだし……。ちょっと遠いけど千葉の柏支部とかお勧めだよ』


 本当によく調べてるね。

 情報源はどこだ?

 掲示板か?


「遠征するとその分経費も掛かるからね。そういえばDランクまでで稼げるダンジョンって近くにあるのかな?」


『あ、お金を稼ぎたいなら、動画配信なんてどうかな?高校生がダンジョンに潜ってるってだけで話題になると思うし、太助君ならすぐ人気者になれるよ!』


 目立ちたくないから、動画は遠慮したいんだけどね。

 顔隠して配信するか?

 いや、スキルを使えば特定も簡単だろうし、やめておいた方がいいな。

 裸踊りをしてスキルーブ出します!みたいな動画で一発で出したら盛り上がるんだろうなぁ。

 毎回スキルオーブを登録者にプレゼントとかにすれば登録者数も天井知らずだろう……。

 いやいや、やりませんよ?



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