第24話 未来が見える師匠さん

(これは難しい……)


 後ろにランタンを置いて戦おうとすると自分の影でモンスターが見えないのだ。

 しかも鞄の選択を間違えた。

 引っ張るのが楽かと思って足にコロコロの付いたキャリケースにしたのが失敗だった。

 まず音がデカい、コロコロどころかガラガラを通り越してガタンガタンだ。

 洞窟で反響してモンスターを呼び寄せている気がする。

 しかも、ランタンを持ってると両手が塞がる。

 ここまでは敵に気が付いてから、鞄から手を離して剣を抜く。

 そしてランタンの置き場所を決めるという、ドタバタしている感じだ。

 背中に背負うタイプの鞄が良かったか?


(でもそれだと戦闘に入った時に降ろせないよね?)


 途中、鞄の上にランタンを乗せてみたりしたが、やっぱり足元を照らしたいのでそれもやめた。

 このダンジョンに来たのが始めてで、地図をみながら進んでいるのもよくない。

 幸いことに、道を間違えてもすぐ行き止まりの小部屋に入るだけなのなので迷うことはない。

 もし迷っても【時間遡行】で戻ればいいだけだからそれはいいのだが、その度に疲労がたまっていく。

 昨日まではしっかり休んだので体調は万全だが、なるべくなら使いたくないところだ。

 さりとて、歩いて戻れば貴重な時間をロスすることになる。

 疲労を取るか、時間を取るか……。


(羽音?蝙蝠か?)


 浦和支部のDランクダンジョンのモンスターの特長は、ズバリ洞窟に出てきそうなモンスターだ。

 狼、猪、熊などの動物系のモンスターだけでなく、蜥蜴や蛇、蛙や百足に蜘蛛など、様々だ。

 で、俺、というか新人の冒険者を悩ませるのがこのヴァンパイアバットと呼ばれる1メートル近くある蝙蝠だ。


(くっ、外したか)


 天井のからの一撃離脱攻撃を仕掛けて来る。

 打ち落とせなければ、また天井に戻っていくのだ。

 光を嫌うのでランタンの範囲の外まで逃げてしまうので、魔法スキルでの追い打ちも難しい。


(じゃあ無視して進む……。フリをしてここ!)


 まあモンスターの習性としてどこまでも人間を追ってくるから、絶対戻ってくるんだけどね。

 今回は2回で仕留められたけど、集団で来られるといつまで経っても進めなかったりする、面倒くさいモンスターだ。

 今のところ、他のモンスターには苦戦していない。

 ここに出てくる蛇や蜘蛛は探索者に効くような強い毒は持っていないので気にせず戦える。

 まあ傷を受けたら一応【時間遡行】で戻ってるけどね。

 百足のモンスターも鉄みたいに硬いけど、【武器強化】を纏った剣なら問題なく斬れた。

 問題なのは倒した後、魔石の取り出しだ。

 虫のモンスターって、ゴブリンや動物系のモンスターと違ったまた嫌な感じがあって手を入れるのが躊躇われるのだ。

 剣でグリグリってやって取り出してるけど、専用の取り出し棒みたいなのが欲しくなる。


(切り分けながら、魔石を取り出すにはどういう形状の棒がいいんだろうね?)


 そんなこんなで今日の目的地であった15階層の『セーフエリア』までやってきた。

 洞窟型や、迷宮型のダンジョンなんかにはセーフエリアと呼ばれるモンスターの入ってこれない小部屋があるのだ。

 大体15階層に一つ、15階層が森や草原みたいにフィールド型だとセーフエリアが無かったりもする。

 各支部は探索者の安全の為にセーフエリアのあるDランクダンジョンを中心にして作られている。

 浦和支部はD、E、Fのダンジョンがすぐ近くにあるけど、ダンジョン同士が離れている支部もあって、高崎支部に行ったらEランクのダンジョンは1キロ先の別の建物ですって言われて驚いたことがあった。

 浦和支部も昔はそうだったらしいけど、だんだん近く現れたダンジョンに移していって、最近ようやく一つの建物内に収まったんだとか。

 ダンジョンに歴史ありだね。


「あ、師匠さん!おじさん、師匠さんがいますよ!」


 土日ということもあってか、セーフエリアには何人か先客がいた。

 お昼休憩をしていると、その内の一人に声を掛けられた。

 赤井さんだ。

 ピョンピョンと跳ねるように喜んでおじさんを呼ぶ。

 俺に会えてうれしいのかな?

 照れますね。

 そして師匠さんと呼ばれたが、貴方の師匠はおじさんになるのでは?

 え?おじさんはおじさんです?まあそうだよね。


「おお、少年。まさか一人でここまで?おじさん達は2人なのにずいぶん苦労しましたが……」


「流石師匠さんです!」


 おじさんは俺のことを少年って呼んでるのに……。

 おじさん達は無事にEランクダンジョンをクリアしてこっちの攻略を始めたみたいだね。

 おじさんが出てきたテントの近くに大き目の盾が置いてある。

 おじさんは魔法職だから、赤井さんは盾役なのかな?

 まさか赤井さんを盾にしておじさんは後ろから魔法撃ってるだけってことはないよね?


「赤井さんは盾役ですか?」


「いえ、私は戦闘はからっきしでして……。後ろで身を守ってるばかりで……。おじさんにおんぶにだっこです」


 シュンとする赤井さん。

 なんで探索者になった?

 いや、何か事情があるのかもしれないな……。


「そんなことはありません!が道中のルートをすべて覚えていてくれたお陰で今日は迷わずにここまでたどり着けました。それに荷物も持ってくれるので、おじさんが自由に戦えるんです。ランタンの照らし方も気を使っておじさんの影にモンスターが入らないようにしてくれてますよね?貴方には感謝しかありません」


 雪さん!?

 おじさんが赤井さんを下の名前で呼んでる……。

 っていうか赤井さんはかなりの有能キャラだね。

 俺が欲しい要素が全て詰まっている。

 可愛い、性格もいい、スタイルもいい。

 あとついでにサポート面でも有能だ。

 戦闘なんか全部任せてもらっても大丈夫なんだからさ。

 なんと羨ましい。

 やはり戻っておじさんじゃなくて俺が……。


(あっ!戻れないんだった……)


 グヌヌ。

 

「おじさん……」


 ちゃんと頑張ってるところをわかってもらえて赤井さんは嬉しそうだ。


「あれ?でもおじさん、苦戦したって言いませんでした?」


 どっちなんだ?


「正面からモンスターが来る分にはおじさんがどうにでもするんですが、暗がりで脇道からモンスターが現れることも多くてですね。後ろからも来ますし、雪さんを何度か危険な目に合わせてしまいました」


 なるほど、そこは俺と同じか。

 上から蜘蛛が落ちてきたりして、叫び声を上げちゃんだよね。


「それはおじさんのテントですか?」


 おじさんが出てきたテントがおじさんのじゃなかったら問題だけど、一応聞いておく。

 ちなみにセーフエリアでは地面に物を置きっぱなしにしてもダンジョンには吸収されない。

 Dランクだと協会の職員が駐在してるし、食料なんかの荷物を一旦ここに置いてレベル上げに出る人も多い。

 それでも不心得者はいるし特異個体はなんかは入ってくるので、大事なものは残しては置けないね。


「そうなんです!おじさんはキャンプも出来るんですよ!」


 赤井さんが嬉しそうにおじさんを自慢する。

 いや、テントぐらい俺にも張れますよ?


「ちょっとお邪魔しても?おじさんに話があるので」


「おじさんだけにですか?別に構いませんが……」


「あ、私は昼食の準備をしておきますね」


 おじさん至れり尽くせりだな!


「話とは何でしょうか?」


 おじさんとテントに二人きり……。

 そうあれです。


「これです。光ってるなら何も聞かずに割ってください」


 赤井さんに聞こえないように声を潜めて話す。

 【気配察知】のスキルオーブだ。

 おじさんに会うかもと思って持ってきていた正解だったね。


「なっ、またですか!?」


「しっ!声が大きい。早く、しまっちゃいますよ?」


 光ってないなら赤井さんにも見てもらわないと。

 でもそしたら色々話さないといけなくなるけどね。


「何かも聞くなと……。いつもすみません。では、ほいっと。【ステータス】。……こ、これは!?まさにおじさんに今一番必要なモノではないですか。まさかそこまで今日はここに?少年、いや、師匠!ありがとうございます、ありがとうございます」


 おじさんは俺のランダムスキルを【予知】だと思ってるからね。

 ここで苦戦してるのを予知してスキルオーブを渡しに来たと?

 いや、見えてたら普通に地上で渡すでしょ……。


「べ、別におじさんの為じゃないんだからね。赤井さんの為なんだから」


 いや、本当に。

 あんないい子に怪我でもさせたら師匠が許しませんよ。


「フフフッ、そういうことにしておきます。この恩は必ず……」


 もう一度深々と頭を下げるおじさん。

 しかし光って見えたか……。

 俺が火魔法に適性があるように、おじさんには斥候系に適性があるのかもね。

 

「あ、もうお話は終わりですか?師匠さんも一緒にどうです?」


 テントから出てきたら赤井さんに昼食に誘われた。

 でももう食べちゃったんだよね。


「俺はもう地上に帰るので。おじさん達もあまり遅くならないようにね」


 洞窟型だから時間は関係ないけどね。


「いえ、おじさんたちは今日はここに泊まってレベル上げをしていきます。その為のテントですし」


 ふぁーーー、いやーあろー……。

 え?二人で泊るの?

 テント一つしかないよ?


「初めてダンジョンに泊まるので不安ですけど、おじさんと一緒なら怖くないです!」


 いや、おじさんが一番怖い存在ですよ?

 ……やっぱりスキルオーブ返してもらおうかな?



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