第21話 あの子に告白したばかりなのに私にも?

「ずっと前から好きでした!付き合ってください!」


「はあ?今日会ったばかりでしょ?キモッ」


 ヒドイ!一目惚れとかキモイって言ってたのに!


(【時間遡行】!)


 舞い散った桜の花弁が戻っていく……。

 つい2してしまったのはこの子が黒川さんよりもバインバインだったからじゃないんだからね!



~~~~



 入学式が終わって最初のホームルームも終わる。

 じゃあ次の子は、と……。


(ダンジョンで宝箱の中身が確定するのはボスを倒した瞬間だった。ランダムスキルが付与されるのはレベル1になった瞬間……)


 今まで世界の命題を【時間遡行】によって紐解いてきた俺が次に取り組む課題……。


(ズバリ!クラスの女子全員に告白したら、何人 がYESと答えるのか!)


 1人に告白時点でその話は伝播し、2人目以降に対しては公平な測定が出来なくなる。


『あの子に告白ばかりなのに私にも?』


 となって断られるからね。

 3人、4人と人数が増えていけば必然、断られる確率は上がっていくのだ。

 しかし!

 【時間遡行】ならばそれには当てはまらない!

 常に1人目、毎回1人目の真っ新な状態で告白できるのだ。

 え?

 【時間遡行】を悪いことには使わない?

 舌の根の乾かないうちに?

 いや、これは悪いことじゃないんですよ。

 たとえ時間が戻らなかったとしても傷付くのは俺一人。

 戻っても傷付くのは俺だけ……。

 そして何より世界の謎を解くという崇高な使命がですね……。


「一目惚れなんだ。こんな気持ちは初めてで……、俺と付き合って下さい!」


「え?そういうのはちょっと……」


(どういうのだったら良かったのかな?【時間遡行】!)


 舞い散った桜の花弁が戻っていく……。



~~~~



 この実証のネックとしてはすごく疲れることだね。

 【時間遡行】は使うと疲れがたまっていくのだ。

 具体的に言うとすごく眠くなる。

 精神的疲労と言うか、脳の疲れはそのまま持ち越してる感じなんだよね。

 最近ただでさえ遠征続きで、家に帰ってもご飯を食べたらすぐに寝てしまう状態が続いていた。

 寝て起きても疲れが取れてないってことも多い。

 ちなみに【時間遡行】で寝ている時間に戻っても、意識が戻るのは起きた時間となる。

 その起きる時間も使う度に疲れていくせいか、遅くなっていくんだけどね……。


「私達お互いのことをよく知らないし、少し時間を貰えないかな?」


 お?この子もか……。

 断られるパターンの他に返事を待ってほしいって子もいる。

 これはどっちなんだろうか……。

 今のところ、10人に告白して7人にキッパリお断りされ、3人が保留だ。

 まあサクサク進んで行きたいので、飛ばしていこう。

 クラスの女子は全部で20人なので、あと半分。

 ナンパの成功率は10パーセント程度って言うし、20人いたら2人くらいはOKが出そうなものだけど……。


(【時間遡行】)


 舞い散った桜の花弁が戻っていく……。



~~~~


「彼氏いるし」


(【時間遡行】!)


~~~~


「無理無理無理無理蝸牛ー」


「【時間……」


~~~~


「ぴぇ、わ、私、男の子とは……」


~~~~


「アンタことなんか別に好きじゃないんだからね!」


~~~~


「ってか誰?」


~~~~


「キーターー!こういうの、こういうのを待ってたのよ!このために教師になったの!で、どうする?この後どうする?デートとかいっちゃう?」


~~~~


「すぐにはお返事できかねます。明日でも大丈夫でしょうか?」


「で、いくら持ってんの?」


「ええ?私?私みたいな不良女に?ダメ、ダメだかんな!でも……」


「はあ、いるんだよね。アンタみたいの。鏡見たことあんの?」


~~~~


 うぅ、ヒドイ。

 俺だって自分がイケメンじゃないことは知ってるけどさ、そこまで言わなくても……。

 ここまでOKは0人。

 もう限界だ……、疲れたよ……。


(あと一人……、ああ最後は渡辺か、これはダメだな)


 渡辺は同じ中学出身の女の子だ。

 眼鏡で小柄な、大人しそうな女子だね。

 クラスは一緒になったことないけど、まあ無理だろうな。

 話したのも、高校の合格発表の時だけだったかな?


「ずっと前から好きでした。付き合ってください」


 今日は疲れたしダンジョンは休みにするか……。

 帰って不貞寝しよう。

 明日から普通に授業が始まるのに、この調子でちゃんと起きて学校に来れるかな?


「え?私のことを?ずっと前からなの?……うれしいかも。私なんかを見てくれてる人がいたなんて……」


 この分だと明日もダンジョンには……。


「え?」


 今、うれしいって言った?

 うれしいけどごめんなさいかな?

 そっかー、残念です。


「私みたいなのでよかったらお願いします!」


「えええええ?いいの?本当に?」


 20人目にして初のOKが出た!


「……うん。でも付き合うってどうしたらいいのかな?私、そういう経験なくて……」


「やったーーー!」


 嬉しくて叫んでしまう。

 いやーよかった。

 20人最後まで頑張った甲斐があった。

 最後の最後で1人OKとかね。

 検証失敗かと思っちゃったよ。

 明日は隣のクラスかと思ってたからさ。

 あとは【時間遡行】で戻れば……。


「きゃあ。大丈夫?田中君?え?……田中君?だ、誰かー!」


 あ、れ?

 何が起こった?


(急に地面が近づいて来て……。戻らないと、【じか、ん……)


 桜の花弁が舞い散る……。





「……か君、田中君?」


 酷い夢を見た気がする。

 クラスの女子全員に告白する夢だ。

 途中で担任にも声を掛けたら大変なことになったが、あれは夢なはず……。


「うぅ、アレ?渡辺?どうしてここに?」


 目の前には何故か渡辺。

 ん?ここはどこだ?


「覚えてない?田中君急に倒れたんだよ?その……、私に好きだって言った後に……」


 え?夢じゃなかった!

 そうか、なんかクラっときて地面に倒れたんだった。

 ここは保健室か?

 やっちまったな。


「今何時だ?」


 時計を確認する。

 午後5時。

 昼前だったはずなのに、5時間以上寝てたのか。

 失敗失敗。


「田中君のお母さん呼んでくるね。今私と交代して休んでもらってるところなの……」


 あー、母親も呼んじゃった感じか。

 入学式が終わって先に帰ったはずなのに、申し訳ないことをしたな。

 まあ戻れば解決か。

 6時間くらいでいいか?


(【時間遡行】)


 グニャリと視界が歪む……。

 じゃあね渡辺、OKって言ってくれてありがとうね。



~~~~



「……か君、田中君?」


 ふう、これで……。


「え?」


 

 時間を間違えたか?

 もうちょっと戻らないとダメだったみたいだ。


「よかったー、心配したんだよ。今田中君のお母さんを……」


(【時間遡行】)


 今度は長めに8時間。

 グニャリと視界が歪む……。

 今度こそバイバイ、俺の初めての恋人よ……。



~~~~



「……か君、田中君?」


 待て!

 何故いる?


「ここ、どこだ?」


 ガバッと起き上がる。


「よかったー目が覚めたんだね。ここは病院だよ。覚えてない?急に倒れたんだよ?」


「そこの時計壊れてるのか?今何時だ?」


 午後5時から8時間戻ったら午前9時のはず。

 まだ入学式も始まってない時間のはずだぞ?


「え?5時前だからあってるよ」


 渡辺が腕時計を確認して答える。

 え?朝のか?いや、まさか、そんな……。


「【時間遡行】!」


「え?」


 23時間59分、戻れる最大の時間を設定して【時間遡行】を発動させる。

 グニャリと視界が歪む。

 頼むぞ……。



~~~~



「……か君、田中君?」


 詰んだ。



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