第16話 黒川さんマジオークション

 うおー、物欲センサー!

 【ファイヤーボール】でいいと思ってボス部屋やってたら【ファイヤーウォール】出たー!

 早く、受付に行って黒川さんに特異個体の報告をしようと思ってたらコレですよ。

 急いでるのに【時間遡行】するなって?

 いやいや、実際の時間は一緒だからやらないと損な気がしてですね……。

 ちなみに【ファイヤーウォール】は火魔法の中ではあんまり強くないヤツだ。


(火の壁が出てきても物理的にはすり抜けられるからね)


 【ファイヤーウォール】では飛んできた矢とか魔法は完全には防げない。

 同じ壁系の魔法なら【アースウォール】とか【アイスウォール】みたいに実体があるのが人気だしお値段も高い。

 後、水飲み放題の【ウォーターウォール】も便利だったりする。


(これは俺が覚えてもいいだろう)


 スキルオーブが出るのは1年に2個くらいなんだとか。

 俺はすでに【ファイヤーボール】が出てるのをし、今から【ファイヤーアロー】を売りに行くのでそれで2個。

 もうスキルオーブは出さない方がいいだろう。

 昨日見た限りでは他のウォールの魔法に適性はなかったし、これは使ってしまおう。


「黒川さん、特異個体が出たので報告に来ました」


 ダンジョンコアの部屋のゲートから地上に戻って黒川さんに報告する。

 特異個体には報告の義務がある。

 モンスターパレードやダンジョンブレイクの原因になるモンスターだからね。

 協会としても情報を集めているのだ。


「「え?」」


 受付に特異個体のとスキルオーブを置くと、黒川さんだけでなく隣の莉子まで反応する。


「Eランクの10階層です。青い色をしたゴブリンメイジの特異個体でした」


かよ。ラッキー野郎……。で、指とか耳とかはないのか?」


 莉子はもう呆れてるといった感じだ。


「指?」


「討伐証よ。こういう時はどういう個体だったか分かるようなのも持ってきてくれると助かるわ。でも杖も普通の物と違うようだし、これが証明になるからいいんだけどね」


 ああ、肌の色が青だったってわかるモノが必要だったってことか……。

 か?

 いや、そうしたら【ファイヤーウォール】消えちゃうしダメだな……。


「どうせ、【魔力+1】だろ。【ステータス】。……うわぁ、どこまでもラッキー野郎かよ」


 莉子がを手に取ってステータスを確認した。

 そう、特異個体が持っている武器は魔道具の可能性がのだ。

 だから杖を持ち帰ってきた。

 魔道具、つまりこの杖にはスキルが宿っているってことだね。


「あ、私にも。【ステータス】。……あ、本当にラッキーね。もう見た?はい、どうぞ」


 莉子から杖を受け取った黒川さんから更に俺の元へと杖が渡された。

 【ステータス】で鑑定できる部類のスキルが宿っていたようだね。


「【ステータス】」


名前:田中太助

ジョブ:【戦士】

Lv:9

HP:244/270

MP:3/135

腕力:18

耐久:18

敏捷:18

魔力:13+2


スキル:【時間遡行】【皿洗い】【武器強化】【ファイヤーボール】【ファイヤーウォール】new


スキルポイント:9


 魔力が+2されているね。

 どうやらこの杖には魔法職がスキルポイントで覚えられる【魔力+2】のスキルが宿っているようだ。


「【魔力+1】の魔道具は良く出るけど+2は珍しい部類よ。杖だし長く使っていけるんじゃないかな?もうスキルはわかっちゃったけど、一応鑑定に出す?」


「いえ、やめておきます」


 鑑定料一万円だからね。

 今日の稼ぎが吹っ飛んでしまう。

 ちなみにけど、

 高ランクの探索者は指輪やアクセサリーをジャラジャラ付けているけど、それぞれ別のスキルが宿っているのだ。

 指輪とかナイフとか複数身に付けることのできる魔道具はかなりの値段が付くと言うのも聞いたことがある。

 この杖は結構柄が長くて、持っているだけというのも難しいね。

 俺は戦士職でやっていくつもりだし、おじさん行きかな?


「で、本題だな。そのスキルオーブの中身はわかってんのか?」


 莉子が切り込んでくる。

 特異個体はスキルを使ってきたのかと聞いているのだ。


「たぶん【ファイヤーアロー】だと思います」


 本当は見てないけどね。

 使ってきたことにした方が話が早いので、そうする。


「ファ!?っ……」


 黒川さんが大声を出しそうになって慌てて口を閉じる。

 そして周囲に誰もいないことを確認する。

 400万円ですからね。

 よからぬことを考えるヤツがいるかもしれない。

 大丈夫、ちゃんと誰もいないのを確認してから受付に来たので、近くにはおじさん一人いませんよ。


「マジか……。光って見えねぇな。茉莉は?」


「わ、私も。太助君、これはどうするの?」


 二人とも適正なしか。

 恐る恐ると言った様子で黒川さんが訪ねてくる。


「買取でお願いします」


「あちゃー、光ってない感じか。わかったわ。そういうことならオークションに出しましょう。人気のスキルオーブだし、1.5倍くらいにはなるんじゃないかしら?」


 あれ?意外な展開に……。


「でもそれじゃあ支部の売り上げとかにならないんじゃないですか?」


「何言ってるの。太助君はAランクの探索者になるんだから、装備を整えるのにもいっぱいお金が掛かるのよ。こっちの事なんか気にしてたらダメなんだから」


 おお、黒川さんマジ天使。

 自分のことより俺のことを……。


「安心しろ、協会のオークションだからな。協会の取り分は2倍の2割になる。ソイツなら450万くらいか?それ以上の値段が付かないと損することになるな」


 お?黒川さん天使じゃなかった?

 ということは普通なら400万の手数料1割で360万で売れるということになるのか。

 450万の2割引きでも360万、なるほど。


「じゃあスタートは450万円にしておきましょうか。このくらいなら入札が入らなくて手数料だけ取られるってことも無いだろうし」


「上げ過ぎてもダメだしな。いっそのこと0からスタートした方がいいんじゃないか?コイツなら出品されただけでも話題になるからな。もっと注目を集めて、入札者を熱くさせた方が値段が釣り上がると思うぞ?」


 そうなの?

 オークションのことは詳しくないからお任せするしかないけど……。


「茉莉ちゃん、太助君が帰ってきたら声を掛けてほしいんだけど……」


 奥から支部長が出てきた。

 俺に用があるようだ。


「マ……支部長、聞いてよ。このラッキー野郎がまたさぁ。今度はEランクで特異個体だってさ」


 ママって言いかけたね。

 しかし本当に親子なのか?

 全然似てないな……。

 あ、莉子に睨まれた。

 見てません、見てません。


「あら太助君、ちょうど良かったわ。昨日は来ないと思ってたから声を掛けそびれちゃったの。終わったら一緒に奥に来て頂戴。それにしても大きい声が聞こえたと思ったら、特異個体だったのね。でも一概にラッキーとも言い切れないのよ。人手不足でDランクダンジョン以外はちゃんと間引きも出来てなったでしょう?Eランクまでは手が回ってなかったのよ。4月になれば新規の探索者さんがいっぱい増えるから間引きも必要なくなるんだけどねぇ……」


 そうか、職員が定期的に間引きもしてるんだけど、この前のダンジョンブレイクでその職員のほとんどがさいたま支部の後片付けに駆り出されてるんだよね。

 で、Eランクの特異個体は見逃しちゃった訳か。

 ついでに電車もそこで止まってるから浦和支部には来にくい状態も続いている。

 本部には人がいっぱいいたのに、この支部では探索者をあまり見ないからね。

 俺が特異個体と会ったのは偶然ではなく必然だった訳だ。


「確かにそうですね。外に出てくる前で良かったですよ」


「まあゴブリンメイジじゃ、出てきたところで大した被害にはならないけどな」


 Eランクダンジョンのモンスター、それもレベル10程度じゃね。

 探索者4日目の俺でも倒せるのだ。

 この前のダンジョンブレイクではAランクの特異個体、レベル40以上のモンスターが上がってきたと言われている。

 しかも1階層までの道中のモンスターを引き連れてだ。

 甚大な被害が出たけど、それでもまだマシな方だったと言わざるを得ない。

 さいたまダンジョンは50階層よりも奥のが存在するので、いつその深層のモンスターが上がってくるかわからないのだ。

 昔、さいたまダンジョンと同じ七大ダンジョンである、カナダの未踏破ダンジョンから深層のモンスターが現れたことがある。

 Aランクのボスクラスよりも強力なモンスターで、誰も倒せなくて都市が丸ごと壊滅したそうだ。

 最終的には国境を越えたところでアメリカが自国に向かって核を使って倒したんだとか。

 まともに戦っても貴重なAランク探索者を失うだけだからね。

 今はカナダの未踏破ダンジョンはアメリカが管理していて、アメリカの探索者も一緒になって間引きを頑張っているんだとか……。


「あら、メイジだったのね。何のスキルオーブかはわかっているの?魔法スキルかしら?」


「それが……」


 黒川さんが支部長に耳打ちする。


「ファーーーッ!」


 これには支部長もビックリ。

 すいません、やっぱりラッキー野郎でした。





 支部長室にお邪魔している。

 いるのは俺と支部長の二人だけだ。


「さっきは取り乱しちゃってごめんなさいね。それにしても思い出すわー。もよくスキルオーブを持って帰ってきてたのよー。あれはあの人が初めて特異個体を倒した時ね。あの人ったら、特異個体を倒した日じゃなくて、私がいる時に換金しようとしてね。その時初めてあの人の気持ちに気が付いたの!ああ、この人……」


「あ、あの、すいません。用って言うのは何でしょうか?」


 莉子パパとの惚気話が続きそうだったので話を遮って、用件を聞く。


「あら、ごめんなさいね。太助君を見てるとどうしても亡くなった主人のことを思い出しちゃうのよ。えーと、このページから、……記録ね。はい、これを見て頂戴」


 タブレット端末を渡される。

 画面に出てるのは、探索者の最短ランクアップの記録のようだ。


「これが何か?」


「Dランクの所、匿名になってるでしょ?」


「はい」


「それ、太助君の記録よ。冒険者になってから5時間20分。それでDランク上ってたわ」


「え?」


「一昨日はそのことで本部に呼び出されてね。太助君は未成年だから名前は非公表にしましょうってことになったの。そこだけじゃないわ。最年少のDランク探索者の記録も太助君になってるの。そっちは前の人も匿名だったけどね。もちろん太助君が望むなら公表することもできるけどどうする?」


「ひ、非公表でお願いします」


「そういうと思ったわ。会長とはあったことがあるのよね?目を付けられたみたいだから気を付けてね」


 俺は特例で探索者にしてもらったので、許可を取りに行く時に探索者協会の会長にも会っている。

 普通は高校生になってから、4月に入ってからじゃないと探索者にはなれないけど、その前から活動も出来るようにしてもらったのだ。

 会長は日本人初のAランク冒険者で、御年70歳なんだとか。

 歳の割には背筋のピンとした、若々しい婆さんだった。

 頑張りなさいとか声を掛けてもらったね。

 でも、気を付けるって……。

 何にですかね?



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