第15話 青いゴブリン

「お金がない!」


 昨日は遠征したのに入ったのはFランクダンジョン。

 儲けがないのに電車賃やら武器の移動代金やらで大赤字。

 探索者になって3日間のトータルでも赤字になってしまった。


(お嬢様に10倍で売っていれば……)


 いやいや、バカな事を考えるのはやめて真面目にお金を稼ぐことにしよう。

 これからもスキルオーブ集めをするとなると昨日以上に遠征費用が必要になってくるからね。

 今日はやってきたのはホームの浦和支部、Eランクダンジョンだ。

 俺の現在のレベルは8。

 Dランクのダンジョンに行っても苦戦するのは目に見えている。

 ならEランクの10階層でレベル上げをして、帰りはボス部屋から一気に地上に帰った方が早いはずだ。

 10階層の魔物の魔石は種類にもよるが、一個300円で売れる。

 30個も拾えれば、チャンピオンの魔石と合わせて1万円を軽く超える。

 そう考えたら探索者ってすごく儲ける仕事なんじゃないか?





名前:田中太助

ジョブ:【戦士】

Lv:9

HP:240/270

MP:21/135

腕力:18

耐久:18

敏捷:18

魔力:13


スキル:【時間遡行】【皿洗い】【武器強化】【ファイヤーボール】


スキルポイント:9


 10階層でレベル上げすること1時間程、ようやくレベルが9まで上がった。

 ただ、ほとんど【時間遡行】を使わずに10階層まで来たから、移動だけで4時間くらい掛かってるからね。

 レベルを上げるよりもレベル上げをする場所に着くまでが大変なのだ。

 それと【ファイヤーボール】も試してみたけど、遠距離スキルが一つあるだけで物凄く戦略の幅が広がるね。

 一回のMP消費が10なので今の俺では連発は出来ないが、ホブゴブリンやワイルドボアでも直撃すれば一撃だ。

 相手が大人数でも奇襲攻撃と合わせて最初に2体倒せるのが嬉しいね。

 【武器強化】も非常にいい。

 何がいいってMPを消費しないことだ。

 ただで攻撃力が上がって武器の消耗も押さえてくれるのだ。

 そう、タダ!

 いい言葉ですね。


(あっ、【時間遡行】!ん?あれ?)


 景色が歪む……。

 今見たことない奴がいた気が……。



~~~~



 この階層での最大人数の組み合わせ、5匹グループの組み合わせに正面から鉢合わせしてしまったので、【時間遡行】で一分前に戻りました。

 戻ったんだけど……。


(変なゴブリンがいたような?)


 まずは後ろに回り込むように移動する。

 相手は5匹もいるのに、正面から鉢合わせるとか斥候職のセンスは全くないようだ。

 昨日スキルオーブが光って見えなかったのも納得だね。


(うん、やっぱりいるね)


 五匹の組み合わせが最大だけど、ゴブリンライダーがいるから五匹とワイルドボア一匹だ。

 まあそれはいいとして、一匹だけゴブリンがいる。

 目を疑って擦ってみるが、結果は変わらない。

 ゴブリンの肌は普通は緑。

 それ以外だとすると……。


(特異個体!)


 え?ホント?マジで?

 これって【時間遡行】関係ないよね?

 俺の実力?

 すごくない?


『ラッキー野郎』


 ハイ。

 運ですね。

 しかし本当にツいている。

 特異個体の魔石はほぼ確実にスキルオーブだ。


(何のスキルだろうね?)


 特異個体について気を付けることは三つ。

 まず一つ、レベルが高い可能性がある。

 通常、モンスターは出現する階層と同じレベルだと言われている。

 しかし特異個体は階層を移動するのだ。

 コイツらが移動することによってモンスターパレードが起こる原因になっているのだとか……。

 発見した階層より奥の階層で生まれた特異個体だった場合、その奥の階層のレベルのモンスターということになるので、油断していると痛い目に合うという訳だ。


(まあ今回は10階層でここより奥の階層はないからその心配はないけどね)


 二つ目、特異個体は体内に持っているスキルオーブのスキルが使える。

 通常とは違う、予想外のスキルを使ってくる可能性があるのだ。

 ただ、その種類のモンスターが使えないようなスキルオーブは入っていないらしい。

 猪のモンスターであるワイルドボアに剣のスキルである【スラッシュ】は入っていたりはしないと言うことだ。

 どちらかと言えばそのモンスターが使ってくるスキルの延長線上のスキルが多いのだとか……。


(あの青ゴブリンはゴブリンメイジの特異個体みたいだね。なら魔法スキルのオーブの可能性が高いか)


 三つ目、スキルオーブを傷つけないように倒すこと。

 モンスターは体内にある魔石を砕いてしまえばほぼ即死する。

 だから奇襲で一撃で仕留めたいときなんかは魔石を狙うのが効果的なんだけど、特異個体にそれはできない。

 中に入ってるスキルオーブに適性がない可能性があるからだ。

 取り出してみないとスキルオーブが光っているかはわからないからね。

 スキルオーブだけ割って、スキルが手に入りませんでしたは悲しすぎる。

 だから細心の注意を払って魔石を傷つけないに倒さないといけないのだ。


(俺の場合は【時間遡行】があるから大丈夫だ)


 まあ高く売れるスキルオーブの可能性もあるからスキルオーブは狙わないけどね。

 背後から十分近づいたので音を立てないように剣を抜く。

 まずは特異個体を狙う……。


(【武器強化】!)


 一気に距離を詰めて特異個体の首を撥ねる。

 意外なほどあっさりと剣が通った。

 特異個体と言えども所詮はレベル10のゴブリンか……。


(【ファイヤーボール】!)


 ワイルドボアに向かって【ファイヤーボール】を放つ。

 ワイルドボアの上に乗ってるゴブリンライダーも一緒に倒せるからこの組み合わせには優先して使ってのだ。

 残り三匹!

 いや、今もう一匹倒したのであと二匹。

 奇襲に驚いて目を見開いて固まったままだったゴブリンを仕留めた。


(ホブゴブリンが2匹、行ける!)


 初日は2匹相手でも物凄く苦労した。

 でも怪我をして、死にかけて、何回もやり直して、ようやくパターンを覚えた。

 まず、常に先手を取って相手をコントロールする。

 二匹と正面から向き合わず常に一匹を盾にするように

 そうしたら、フェイントを掛けて向かい合っているホブゴブリンに空振りを

 隙が出来たら、すかさず攻撃を仕掛けてまず一匹。

 残った一匹が、棍棒を後ろに持っていき両手で溜めている。

 これはスキル【パワースイング】を使ってくる予備動作だ。

 距離を十分に取ってて出

 モンスターだって明確に当たらないとわかる距離を取ればスキルも出してこないからね。

 の精神が大事。

 こいつが出していいのは縦の振り下ろしだけだ。

 そうなるように仕向ければ、あっという間に二匹でも倒せます。


(ザクッとね)


 ではスキルオーブを取り出しそう。

 魔石もそうだけど、こうやってゴブリンの体の中に手を入れるのだけは慣れないな。

 特異個体からスキルオーブを抜き出して、ゆっくり手を開いていく……。


(あ、光ってる。よし、時間を確認してと)


 硬そうな石の上に置いて剣の柄でスキルオーブを砕く。


「【ステータス】。お、おお、これは……」


名前:田中太助

ジョブ:【戦士】

Lv:9

HP:240/270

MP:21/135

腕力:18

耐久:18

敏捷:18

魔力:13


スキル:【時間遡行】【皿洗い】【武器強化】【ファイヤーボール】【ファイヤーアロー】new


スキルポイント:9


 【ファイヤーアロー】だ。

 かなり使えるスキルとして有名……。

 MP消費は10だけど、炎の矢が10発も出る魔法だ。

 しかも頭上に待機状態にして一発ずつ撃つことが出来て、移動するときもちゃんと着いてくるんだとか。

 MPの消費が激しい魔法スキルの中で、珍しくMP効率のいい魔法なのだ。

 【ファイヤーアロー】があれば魔法使いで飯が食える。

 そう言われるほどのスキルなのである。

 矢の射出速度は魔力に比例するので、高レベルの魔法職が使えば威力は銃弾以上になるだろう。

 そんな最高級のスキルだが問題もある……。


『売りましょう!すぐ売りましょう!』


 心の中の一ノ瀬さんが悪魔の囁きをする……。

 そうのスキルなのだ。

 昨日直接見たからわかる。

 お値段なんと400万円。

 しかも人気のスキルで在庫なしだった。

 売値はいくらだろうか?

 協会に1割持ってかれたら360万、2割でも320万……。


(それだけあれば、遠征資金だけじゃなくて、家にもお金を入れられる)


 父親がいなくなって母さんは今後の事を考えて不安な日々を過ごしていると思う。

 俺が探索者をやっていることにも心を痛めているはずだ。

 このお金を渡せば、俺の方は大丈夫だって少しは安心してくれるだろう。

 いいと思う……。


『さあ、早くダンジョンを出て、私に電話するんです!』


 心の中の一ノ瀬さんに急かされる。

 その前に【時間遡行】で【ファイヤーアロー】をスキルオーブに戻さないとね。


『待つのです!』


「あ、あなたは、心の中の黒川さん!」


 突如心の中に黒川さんが現れて一ノ瀬さんを突き飛ばす。

 黒川さんなら俺のことを心配してスキルを覚えることを勧めてくるかもしれない。

 有用なスキルだ。

 これがあれば危険度はグッと下がるだろう。

 確かに人の命はお金には代えられないと言う……。

 だけどゴメン、黒川さん、もう決めたんだ。


『浦和支部で売るのです!』


 俺の心の中には天使はいなかったようだ。



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