第14話 ラッキー野郎とですわよ
ポーション以上に価値があるもの。
それは【回復魔法使い】を始めとした
俺が【ヒール】を使えればポーションは必要なくなるんだけどね。
毎日弟の栄太に【ヒール】を掛けてあげられれば、月一でポーションを飲んでいる今よりももっと状態は良くなるだろう。
【ヒール】が希少なら【回復魔法使い】がダンジョンコアのダンジョンを残せばいいと思うかもしれないが、そううまくはいかない。
任意のジョブのダンジョンを残すには【鑑定】スキル持ちが直接ダンジョンにいって、生きているダンジョンコアを【鑑定】しないといけない。
【回復魔法使い】はDランクのジョブ。
Dランクのダンジョンは、ほぼ毎日日本のどこかに出現しているが【鑑定】スキル持ちは一人しかいない。
全国から本部に送られてくるスキルオーブやダンジョンコアの【鑑定】だけでも忙しいのに、全国を飛び回るのは無理だろう。
そもそもレアジョブな【回復魔法使い】がダンジョンコアのダンジョンなんて早々出ないんだけどね。
(……ないな。聞いてみようか)
ざっと一周したけど、回復系のスキルは置いていない。
ここには並べていないスキルオーブっていうのも当然ある。
【開錠】に代表されるような、犯罪に使われそうなスキルなんて適性があるかも調べられる訳にはいかない。
カードキーや暗証番号のような電子ロックでさえ問答無用で開けてしまう【開錠】スキル。
覚えているだけでもブラックリスト入りで、犯罪が起こったら真っ先に疑われるようになるんだとか。
そういうスキルや覚えられるジョブの入ったダンジョンコアは、どこか別の場所で厳重に管理されているらしい。
(ボス部屋の宝箱には鍵も罠も掛かってないけど、ダンジョン内に稀に出現する宝箱にはそういうのもあるらしいね)
ダンジョン内で鍵のかかった宝箱を見つけたら?
そりゃ、壊すんでしょうよ。
「すいません。【ヒール】とか回復系のスキルって置いてないんですか?」
カウンターの店員さんに聞いてみる。
店員さんと言っても協会の制服を着ているので、普通に職員さんなんだろうね。
スキルオーブを管理しているんだから当然だろう。
カウンター以外にもたくさん職員さんがいるんだけど、どの人も強面。
商売相手はなんでもアリの探索者。
謎のスキルを使った万引きなんていうのもあり得ない話しではないので、高レベルの職員が目を光らせているのだ。
「【ヒール】でしたらアレですね。貴重なスキルはカウンターの中の壁に展示しております。どうです?光って見えますか?壁に飾ってるのはどれも適正が出る方が少ないスキルですからね。一つでも光って見えたらすごいことですよ?」
店員さんが壁の一番高いところを指差して教えてくれる。
「あー、ダメですね。どれも光っては……。あっ」
【ヒール】には適性がないようだ。
残念と思いつつも目を走らせて他のスキルも見ていくと、一つだけ光っているスキルオーブがあって、思わず声を上げてしまった。
「ありましたか?どれです、どれです?」
食いつかれた。
どうしよ?
この後の展開次第では【時間遡行】を使う必要があるね。
「えっと……あの、二段目のやつ。【ボルケーノ】ですね」
なるほど、火魔法か。
俺はどこまでも火魔法には適正があるみたいだね。
「すごいです!【ボルケーノ】はBランクの管理ダンジョンから出たスキルオーブなんですけど、今のところ覚えられた人はいないんですよ!【火魔法使い】でも適性がないくらい高ランクのスキルなので、物凄---く才能がおありなんですね!」
すごーく褒めてくれる。
いい気分になって思わず、アレください!って言いそうになるが、値段を見て踏み止まる。
(1600万!)
無理無理無理。
っていうか壁際にあるヤツは全部そんな感じだ。
まあ上級に分類される【ファイヤーバード】とかも800万だったし、スキルオーブはどれも高額なんだけどね。
「在庫は一つなんですけど、記者会見見ましたか?【賢者】が出たじゃないですか。全部の魔法に適性があるみたいですし、もしかしたら売れちゃうかもしれないんですよー」
【賢者】、ね。
頭の痛い問題が……。
なんとおじさんのジョブは、Aランクのヤツだったのだ。
もうすでに他人のフリを決め込みたいところである。
いや、元から他人なんだけど……。
「流石に値段が高すぎますね。お金が溜まったらまた来ますよ」
「本当ですかー?あ、私、
うおー。
なんと美人店員さんの連絡先ゲット!
しかし、他の店員から買わないように念押しされたね。
販売ノルマとかキックバックみたいなものがあるんだろうか……。
1600万なんてどう考えても払える訳けないから、他のスキルオーブを買う時に自分から買ってもらおうって作戦なだろうね。
世知辛いなー。
と、思いつつもさっそく電話を鳴らして、こちらの連絡先も教えておく。
一ノ瀬さんは明るい髪の色をした優しそうな美人さんです。
「太く助けると書いて太助です!そうそう」
え?【時間遡行】?
使うわけないでしょっ!
『そこに一つあるではないですか。それを売ってほしいんですの。お金なら10倍でも払いますわ』
『だから出来ないって言ってるでしょ!規則なの!そんなこともわからないの?貴方達冒険者学校の生徒でしょう!学校に連絡しますからね!』
ありゃりゃ。
さっきの子達が別の店員さんと揉めてるね。
あれは冒険者学校の制服か。
「10倍!?ちょっと揉めてるみたいだからあっち見て来るね。太助君、来るときは事前に連絡してねー」
優しそうに見るだけでなく実際に優しいんだね。
10倍に反応した気がするけど、気のせいだろう。
しかし困ったね。
俺には黒川さんという専属の受付嬢がすでにいるのだ。
スキルオーブを売る時はどっちに売った物か……。
︙
︙
「ちょっといいですか?」
本部の外でさっきの冒険者学校の3人組が出てきたところに声を掛ける。
お説教を喰らったのか、項垂れたよう様子だ。
「なんですの?」
答えたのはお嬢様言葉の巻き髪女子だ。
「ナンパならお断り。気を付けて、コイツさっき職員をナンパしてた」
ポニーテールの女の子が俺とお嬢様の間に割って入る。
誤解です。
「いや、ナンパしてたんじゃなくて、されてたんです、ってそうじゃなくて……。これが必要かと思って。よかったら、どうぞ」
ポニーテールの子にスキルオーブを手渡す。
この子たちが欲しがってたのは【武器強化】のスキルオーブなんだよね。
テストが何とかって聞こえたし、困っているのなら使ってもらった方がいいだろう。
俺はもう覚えてるしね。
「これは……、光って見えますわ」
「私には光って見えません。まさか【武器強化】ですか?」
残ったもう一人の女子、青い目をした目鼻立ちの整った容姿の女の子は【武器強化】を覚えているようだ。
「待って、危ないスキルかもしれない」
ポニーテール女子が注意を促す。
確かに。
【開錠】とかを覚えちゃったらブラックリスト入りだからね。
「さっき川崎支部のFランクダンジョンから出たヤツです。俺が【戦士】で覚えてるスキルは【武器強化】だけなので、光って見えないそれは【武器強化】のスキルオーブだと思います。でも使う前にちゃんと【鑑定】してもらってくださいね」
「ぬ」
ちゃんと説明したらとポニーテール女子も引き下がる。
「助かりますわ!
どうやらテストに必要なんじゃなくて、1番を取るのに必要だったようだ。
武器強化がないジョブっていうと魔法職とかかな?
『10倍!』
取り出されたブランド物の分厚い財布を見て、一ノ瀬さんの声が心に響く……。
『税金!闇取引!脱税!』
しかし心の中の黒川さんが俺を、いや、心の中の一ノ瀬さんを止める。
そうだ。
ダンジョン関連の物を協会を通さないで取引すると税金が大変なことになるって聞いた。
申告しないと脱税になるしどうしたものか……。
「いえ、本当に必要ない物なので貰ってください。じゃあ俺はこれで!」
タダであげる分には問題ないだろう。
ここは走って逃げよう。
『あ、待って……。ありがとーですわー!この恩は忘れませんわー!』
『ただのいい人だった。良かったね』
『さっそく鑑定に持ち込みましょう』
よかった、追いかけてこない。
たぶん向こうの方がレベルが高いから、簡単に追いつかれると思う。
それにしてもありがとうの語尾もですわなのか……。
︙
︙
「あ、太助君。【鑑定】の結果、返ってきてるよ」
帰りに本部に寄った更に帰りに浦和支部にも寄りました。
ちょうど良く、黒川さんだけでなく隣に莉子もいる。
「はい。じゃあ早速お願いします」
「はーい。やっぱり【ファイヤーボール】でしたー。どうする?使う?それとも売っちゃう?買い取り額は1万5千円だね」
【鑑定】額が一万円で、しかもさっき2万円で売ってるの見てきたばかり……。
いや、売る気はないんだけどね。
「使います」
「だよな。【皿洗い】だけじゃどうしようもないからな。くっくっく」
横から莉子が口を出してくる。
「ハイ、どうぞ」
黒川さんが金槌を渡してくれる。
これで莉子の頭を割れってことですね。
もちろんそんなことはせずに、受付が傷つかないように座布団の上に乗せられた【ファイヤーボール】のスキルオーブに振り下ろす。
「【ステータス】。おおー」
名前:田中太助
ジョブ:【戦士】
Lv:8
HP:240/240
MP:120/120
腕力:16
耐久:16
敏捷:16
魔力:12
スキル:【時間遡行】【皿洗い】【武器強化】【ファイヤーボール】new
スキルポイント:8
ちゃんと覚えてるね。
4つ目のスキルだ。
順調だね。
「はっ、嬉しそうにしやがって。お前なんかただのラッキー野郎だ。調子に乗んなよ!」
ラッキー野郎……。
ファイヤーボールとまではいかなかったけど、皿洗いよりはいいかな?
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