第13話 スキルの適性診断(無料)

 手元には2つの光らないスキルオーブ。

 お昼休憩を挟んでもう一回川崎支部のFランクダンジョンに挑戦したけど、結果はご覧の通りです。

 3個目の【武器強化】のスキルオーブですね。

 出やすいと言うか、ほぼそのスキルオーブが出るのかもしれない……。

 浦和支部のFランクダンジョンは【カット・野菜】が出やすいはずなのに【皿洗い】が出たのは相当運が良かったのか、将又なるものが働いてここでは【武器強化】以外出なくなっているのか……。


(それにしても疲れた……)


 【時間遡行】はすごい疲れる。

 それを都合300回程行ったので今日はもう限界。

 帰りましょうと思ったんだけど、折角ここまで来たので、帰りにある場所に寄ることにした。

 都内某所。

 目の前には巨大なビル。


(探索者協会、本部ビルです)


 なんでここに寄ったかというと、適正診断をするためだ。

 これから色んなダンジョンを巡ってスキルオーブを狙っていく訳だけど、適性がなくて覚えられないスキルオーブを手に入れてもしょうがないからね。

 ジョブチェンジすれば解決する問題ではあるんだけど、それにはお金が掛かるのだ。

 まずは適性のあるスキルオーブを狙う為にどのスキルオーブに適性があるか調べるべきだろう。


(んーと、3F雑貨、4F武器防具、5Fこれだな、スキルオーブとダンジョンコア)


 とは言ってもスキルの適正を、アレルギー検査のように血を取ったら簡単に調べられる、みたいな技術は今のところ存在しない。

 他人のステータスやスキルを見ることが出来る【鑑定】スキルでさえ、スキルの適正はわからないのだ。

 ではどうやって調べるか?

 ここ、本部ビルの5階にあるスキルオーブ売り場で直接スキルオーブを見て、光っているかいないかで覚えられるか覚えられないかを判断するのだ。

 これが俗に言うスキルの適性診断(無料)ですね。


(おお、あるある。うわー、この辺全部光ってねー。才能ねー)


 5階を丸々使ったスキルオーブの販売店には、所狭しとガラスケースが並べられていて、その中に日本中から集められたスキルオーブが種類ごとに綺麗に陳列されている。

 浦和支部にもスキルオーブは売っているみたいだけど、これほどの種類は置いていないはずだ。

 しかし、ほとんど光って見えないというね……。

 口悪受付嬢の莉子とは一緒に来たくない場所である。


(あ、ここは火魔法のコーナーだね。見える、俺にもスキルオーブが光って見えるぞ!)


 今のジョブは【戦士】なのに光って見えると言うことは、俺に火魔法の才能、いや、適性があると言うことだろう。

 最下級の【ファイヤーボール】【ファイヤーウォール】から【ファイヤーソード】【ファイヤーウィップ】【ファイヤーアロー】【ファイヤーランス】に上級の【ファイヤーストーム】【ファイヤーバード】まで、置いてあるのはほとんど光って見えるね。


(他の魔法は……、ダメだな。最下級が辛うじて光ってるくらいか……)


 光っているのは【ファイヤーボール】と同じようなボール系の最下級の魔法だけだ。

 火魔法以外の魔法のスキルオーブを集めるのは後で良さそうだね。

 【ドリンクウォーター】もダメか……。

 【ウォーターボール】が覚えられるのが救いではあるけど、どうしようかな?

 【ウォーターボール】を待機状態にしてコップで掬えば飲み水を得られるけどMPを10も使う。

 一方で【ドリンクウォーター】は攻撃には使えないけど、MP1で同量の水を出せてしかも美味しいらしい。

 ダンジョン内での水分補給用に是非覚えておきたい魔法スキルだったのに……。

 でも水を背負ってダンジョンを探索とか大変そうだからね。

 メモ帳に【ウォーターボール】優先と書いておこうか。

 【水魔法使い】のダンジョンからは出やすいはずだ。


(こういう風に優先して狙っていくスキルをどんどん探していこう!)


 斥候系もダメか……。

 【気配察知】【気配遮断】【探知】【索敵】【夜目】【暗視】【鷹の目】【魔力探知】【魔力……。

 全滅です。

 これらは【斥候】にジョブチェンジしてからじゃないと覚えられないから後回しだね。

 しかし【探知】と【魔力探知】の適性がないのが痛い。

 これは俺の父親が覚えていたスキルで、薬草探しにすごい役立つと言っていた。

 Cランクになったら絶対に覚えないといけないスキルである。


(え?一個200万!?しかも品切れ……)


 一個は展示用にのしておかないといけないみたいだけど、在庫はないみたいだ。

 買うのは無理だな……。

 出やすいダンジョンがあるといいんだけど……。

 オークションでは売っているかもしれないけど、人気のスキルのようなので値段は確実に倍以上にだろう。


(オークションか……。薬草とかポーションも無理だろうな……)


 この日本の探索者向けオークションには致命的な問題がある。

 まず、前提条件として外国人は日本のダンジョンに入ることが出来ない。

 これは国際条約で決まっているので日本人も海外のダンジョンに入ることは出来ないのだ。

 なんでかって言うとダンジョンはだからね。

 ダンジョンコアやスキルオーブはもちろん、中からとれる薬草、ミスリル等の特別な金属、魔石も今や魔道具の燃料だけではなく電力になる時代だ。

 こうした資源を国外に持ち出させないために、外国人の入場を禁止しているのだ。

 ただでさえ【収納】や【アイテムボックス】なんかのスキルを使っての密輸が横行して世界中で大問題になっているからね。

 簡単に持ち出されてしまうのだ。


(にも拘わらず、だ)


 日本のオークションでは海外からの入札もできる。

 これは売る側にとってはいいことなんだろうね。

 海外の富豪が入札して競ってくれればどんどん値段が上がるからね。

 協会としてもその分手数料が上がるからいいことなんだろう。

 でも薬草やポーション、そして貴重なスキルオーブなんかは海外に流れ続けている。

 必要な人の所に必要な物が届いていない状況なのだ。

 ポーションは海外の富豪が美容に使っているらしい……。

 発展途上国ならまだしも、先進国で海外に向けてのオークションや無制限の販売をしているのは日本だけである。


(そんな馬鹿な話あるかよ……)


 高く売れるならということで、一獲千金を狙った探索者が徒党を組んでさいたまダンジョンの20階層台の浅い所を占領している有様だ。

 ウチの父親のように個人だったりパーティー単位で動くような少数のチームは奥の方に進まないと薬草は手に入らないのだ。

 ……俺もそっちに分類される。

 レベルで言うなら25は必要。

 レベル15以上になると泊まりがけじゃないとレベル上げも難しくなるだろう。

 家にあるポーションが無くなるのは3ヶ月後……。


『売り切れてますわね』


『こっちもです。年度末ですし、この時期はスキルオーブは手に入りにくいみたいですね』


『やっぱりオークションで探すしかなさそうだね』


 目線の先では制服を着た3人組の女子がスキルオーブを探している。

 ……学校に通いながらで間に合うだろうか?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る