第17話 少年とおじさん
「おお、少年。今日はこれからダンジョンですか?」
今日も浦和支部でお金貯めとレベル上げをしようと来てみたら、更衣室でおじさんとバッタリ出合った。
だが安心してほしい、おじさんが裸なのは上半身だけだ。
「おじさん、ちょうど良かったです。実は貰って欲しい物があって……」
探す手間が省けたね。
スキルオーブを渡してしまおう。
「これは……、スキルオーブというやつですね。まさかこれをおじさんに?」
「はい。俺はもう覚えてるやつなのでどうぞ。……例のヤツで出たんですよ」
おじさんには俺のランダムスキルが【予知】だと嘘を教えてあるので、これで伝わるはずだ。
「例のヤツ……。都市伝説だとばかり思っていましたが、本当に効果があるんですね……。おじさんも見習って一人の時に試してみましょう。いや、しかしこれは受け取れませんよ。スキルオーブは高価な物だと聞いています。恩のある少年におじさんから送るのではなく、少年からおじさんが貰っては筋が通りません」
流石に受け取って簡単に貰えないのはわかってたけどね。
「じゃあ、こうしませんか?もしこの先おじさんがスキルオーブを見つけた時に、それが光って見えなかったら俺に譲って下さいよ。あ、これはちゃんと光って見えますか?こっちの大きいのが【ファイヤーボール】で小さいのが【武器強化】のスキルオーブになります」
これならお互いに損はないはずだ。
ちなみに【武器強化】のスキルオーブはFランクダンジョン産なのでとても小さく、【ファイヤーボール】はEランクダンジョン産なのでそれよりは大きいのでちゃんと見分けがつく。
「【ファイヤーボール】!光っては見えますが……。いえ、わかりました。折角用意してくれたんです。ありがたく使わせてもらいましょう。この借りは必ず。きっとすごいスキルオーブを見つけて少年にプレゼントしますよ!」
「あはは。期待して待ってますよ。それとこの杖なんですけど、昨日特異個体と会って、その特異個体が装備していたものなんですけど、【魔力+2】が付いた魔道具なんです。これも杖なので俺は使わないので、おじさんが使ってください」
「ひぇ、魔道具……。次から次に出てきますね。少年は猫のロボットとか何かですか?しかし、おじさんにこんなによくしてくれて、少年は何が目的なのでしょう?まさかおじさんの……」
確かに普通に考えたら、この前のお嬢様達みたいなかわいい子達ならともかく、こんなおじさんにスキルオーブを渡すのはおかしい。
でも余ってるからね。
文字通り売るほどあるのに、怪しまれるから売れないのだ。
捨てるよりはおじさん。
こっちにはそれぐらいの気持ちしかないが、おじさんからしたら怪しいだろう。
その後、いそいそと着替え始めたおじさんをなんとか丸め込んでスキルオーブを使ってもらって一緒に更衣室を出た……。
おじさん、変な勘違いしてないよね?
「あ、おじさん。お待たせしましたー」
そこに女子更衣室の方から出てきた女の子が声を掛けてくる。
おじさんにだ……。
お待たせしました?
「いえ、おじさんも今出てきたところですよ?」
ふぁ?いやーあろー?
どういうこと?
【ファイヤーボール】どころでは無い衝撃……。
「あれ?そちらはお知り合いですか?」
大学生くらいだろうか?
若いけどお化粧がバッチリのお姉さんだ。
人懐っこいような笑顔がとても魅力的……。
「少年、紹介します。こちら赤井雪さん、おじさんと同じ新米探索者ですね。赤井さん、こちら少年です。おじさんの師匠に当たる探索者ですね」
どういう師匠だ……。
俺も新米探索者なんですが?
それよりもこのかわいい子とどういう関係なんでしょうか?
「少年?師匠?お若く見えるんですけどすごい探索者さんなんですね」
「そうなんですよ。時に少年、おじさんたちはこれから一緒にEランクダンジョンの攻略を目指すべくレベル上げをするつもりなんですが、少年も一緒にどうですか?」
「え?」
今の『え?』は俺じゃなくて赤井さんから出た『え?』です。
『え?二人きりじゃないの?』の『え?』ですね……。
「いや、俺はDランクダンジョンにいくので……」
嘘です……。
少年は空気の読める少年なのです。
「そうですか、流石に少年とおじさんたちではレベルが違い過ぎますね。わかりました。すぐに追いつくので、その時は一緒にダンジョンに行きましょう!」
聞けば一昨日、初Eランクダンジョンでゴブリンに囲まれている赤井さんをおじさんが颯爽と助けたのだとか。
その時のおじさんの格好良さを語る赤井さんは正に恋する少女。
一昨日か……。
川崎になんか行ってる場合じゃなかった。
戻るか?
一昨日にに戻って俺が赤井さんを颯爽と助けたら……。
いや、ダメだ。
未来が変わって【ファイヤーアロー】の特異個体が現れない可能性がある。
今度は特異個体が俺以外の誰かに狩られる可能性もある。
そんな冒険をする意味はない……。
俺に必要なのは可愛いパーティーメンバーじゃないんだ。
『その杖どうしたんですか?いえ、大魔法使いって感じでとっても良くお似合いです!魔道具なんですか?すごーい!』
グヌヌ。
楽しそうにEランクダンジョンに入って行くおじさんたち……。
「黒川さん、武器に封をお願いします!」
「えええ?急にどうしたの?」
「いや、お前鎧着てんじゃん。その恰好で外に出るなよ?」
しばらくスキルオーブ探しの旅に出よう……。
探さないでください。
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