第8話 死んだ夫に似ているわ

『アタシが行く!アタシ、まだ謝ってない!』


 あー、疲れたー。

 頭痛い……。

 家に帰って休もう。


『落ち着きなさい、私が行くから。茉莉ちゃん、莉子をお願い。5時になっても彼が戻らなかったら本部から応援を呼んで頂戴』


『ママ、お願い!一緒なの、パパの時と!アタシも一緒に行かせて!』


 おや?

 受付に誰もいないぞ?

 なんか奥で騒いでる声が聞こえるけど……。


「すいませーん!受付お願いしまーす!」


 早く帰りたいので奥に声を掛ける。


『この声、田中君よ!帰ってきたみたい!あ、莉子ちゃん……』


「無事か!?……ったく、おせーんだよク〇やろーが!」


 ク〇スキル持ちなので〇ソヤロー認定か?

 おや?涙目だ。

 大声で騒いでたし、叱られて泣いてたのか?

 でも声を掛けたことで逃げ出す口実を作ってしまったかな?

 それは失敗だ……。

 【時間遡行】するか?


「よかったー。怪我もしてなさそうね」


「遅かったから心配してたのよ?もう少しで探しに行くところだったんだから」


 黒川さんと支部長も出てきた。

 遅い?


「まだ4時前ですよね?暗くなる前に戻れって言われて急いだつもりだったんですけど……」


「はぁー。貴方、朝からダンジョンにいたでしょ?お昼にも戻ってこないし。それに初心者は初めてゴブリンを倒したら気持ち悪くなってすぐに戻ってくるものなのよ」


 支部長に言われて昼飯を食べてないことを思い出す。

 それぐらい熱中してたのか……。


「あー。ゴブリンを倒したら気持ち悪くなって吐いちゃったんです。それで昼御飯って気分じゃなくなっちゃいました」


 吐いた後に吐く前に戻ったので実際には吐いてない。

 吐いていたとしてもダンジョンにされているだろうから証拠は残っていないね。

 ダンジョン内では近くに人がいない状態で一定時間が経つと、落とした物やモンスターの死体は文字通りダンジョンに吸い込まれて消えてしまうのだ。

 これのせいでダンジョン内には電波塔なんかも作れないから通信もできない。

 今頃俺の倒したモンスターも全部ダンジョンに吸収されてるんだろうね。


「ケッ、だらしねぇな。で?何階まで行ったんだよ?まさか6階層まで行ってないだろうな?」


「これお願いします。昇格も」


 ゴブリンチャンピオンの魔石とライセンスを渡す。

 もちろん口悪受付嬢の莉子にではなく黒川さんにだ。


「はーい。え?あれ?コレ、昇格って……。し、支部長!コレ、ちゃんぴおん!チャンピオンの魔石ですよ!」


「え?初日なのよ?朝にライセンス登録したばっかりで……。まさかそんなことが……。嘘っ、みたい……」


「嘘つけ!見せろ!そんな馬鹿な……。不正だ不正!どっかから買ってきたんだろう!初日でEランクがクリアできるわけない!」


 あれ?初日はダメだったか?

 調子に乗り過ぎたかもしれない。

 まあ疑われるのも何だし、もう一つ証拠を出しておくか。


「コレの【鑑定】もお願いします。ボス部屋の宝箱から出ました」


「「「え゛え゛ー。スキルオーーブーー!?」」」


 ちゃんとボスを倒してきましたよ。


「これこそありえないだろ!スキルオーブってそんなに簡単に出ないぞ。ウチのダンジョン全体だって1日一個出るか出ないかなんだぞ!2回やそこらで出てたまるか!」


 え?そうなの?

 30周くらいで出たけど?

 しかも2ね。

 出しちゃダメなヤツだったか?


「莉子ちゃん、落ち着きなさい。その一個が今日は田中君だっただけよ。それに初日でEランクを突破する人はいるわ。ほんの一握りだけどね」


「そうそう、Aランクの天田さんが確かEランクダンジョンの最短記録持ってたはずよ」


 天田……。

 そいつは知ってる。

 今Aのパーティーリーダーだ。

 別にけどさ……。


「そういう人たちはね、みーんなすぐAランクになっちゃうんだから。田中君もきっとそうよ。莉子ちゃんのパパだってそうだったんだから。あの時はパパったら一晩も帰ってこなかったのよ。私は新人受付嬢でねー。思い出すわー。それがパパとの出会いだったの!」


 パパ!?ファーザー?

 パパと出会ったってことはママは支部長ってことですか?

 この口悪受付嬢莉子のマザーなの?

 この人こんな大きい子供がいるの?

 全然そんな風に見えないぞ。

 いや、黒川さんよりもバインバインの支部長の娘がなんでこんなに……。


「パパと同じ?嘘っ?こんな【皿洗い】ヤローがAランク?」


 皿はお前の……、いや、何でもないです。

 きっと成長の余地があるんだよ。

 でもこの人も二十歳くらいだよね……。


「へー、Aランクかー、そこまで行くと年収も一億円超えるって言いますしね。田中君は逸材かー。お姉さんが担当の受付だからね。これからもお姉さんのところに来るように!」


「あらー茉莉ちゃんに先を越されちゃったわねー。莉子ちゃんのお婿さんにって思ったのにー」


「だーれがこんな【皿洗い】ヤローなんか。こっちから願い下げだっつーの!心配して損したぜ」


 どうやら俺は期待の新人らしいね。

 黒川さんと支部長の高感度爆上がりです。

 でも莉子には嫌われたみたいで、奥に引っ込んで行った。

 でも、一応心配はしてくれてたみたいだね。


「ちょっと莉子ちゃん。田中君に謝るって言ってじゃない!」


『うるせー!知るかー!』


 支部長に向かってもその口の利き方。

 ちょっと娘さんの教育に失敗してるんじゃないですか?


「はぁー。田中君、ごめんなさいね。今日はもうダメみたい。でも謝ろうとはしてたから、その内、ね?」


、疲れた顔してるわね。昇格はしておくから先にシャワー浴びて帰る準備してきていいわよ。換金と【鑑定】の申請もしておくからね」


 黒川さんからは名前呼びになった。

 待遇も良くなったぞ。





「じゃあここにサインだけ頂戴。はい、ありがとう。ライセンスと今日の分300円ね。Dランク昇格おめでとう!」


 黒川さんからライセンスと今日の魔石の換金分のお金を貰う。

 一日頑張って300円か……。

 本当は11300円なんだけど、【鑑定】料金が一万円で消費税込み、一万と千円引かれました。

 物凄く戦ってたはずなんだけど、2先に進むのを優先してたからね。

 持って帰れた魔石も少ないのだ。

 お釣りが出ただけマシだろう。

 次からは覚えられるスキルオーブの【鑑定】はいらないかもね。


「ありがとうございます。【鑑定】結果はいつ頃出ますか?」


「明日の夜には返ってくるけど、受け渡しは明後日以降になるかしら?私には光って見えたけど支部長には光って見えないって言ってたから、たぶん【ファイヤーボール】ね。ウチのEランクのダンジョンコアは【火魔法使い】のジョブが入ってるみたいだから、【ファイヤーボール】が出やすいのよ」


 正解!

 俺は一回覚えて【時間遡行】で戻るをしたから正解を知っているのだ。

 【ファイヤーボール】は火魔法の初歩的なスキルで、必要スキルポイントも2と少ない。

 そしてほとんど全ての人に適正のあるスキルでもある。

 支部長が光って見えなかったというのは、すでに【ファイヤーボール】を覚えているということだろう。

 それにしても、ダンジョンコアに入ってるジョブで出易いスキルオーブがとかあるんだね。

 そうなるとFランクダンジョンのコアに入っているのは【料理人】になるのかな?

 お目当のスキルオーブが出やすいダンジョンとか、ネットで調べられるかな?

 ポーションの材料になる薬草を探すのに有利なスキルとかあるかもしれない。

 ボス部屋は一方通行で出るにはダンジョンの外に出るしかない。

 普通ならまた一階層からやり直しですごく時間が掛かるけど、俺なら【時間遡行】で何回も出来る。

 スキルオーブやレアアイテムが出るまで時間も進まないからね。

 なんか楽しくなってきたぞ。

 黒川さんや支部長もよくしてくれそうだし、探索者としてやっていけそうだ……。



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