第6話 都市伝説レベルのスキル

「えぇ?君、もうFランクダンジョンクリアしちゃったの?ずいぶん早かったね」


 支部に戻ってきたら黒川さんに驚かれた。

 時間的には30分ほどで戻って来たけど、【時間遡行】で実際には3時間以上いたんだけどね。

 いや、逆かな?ダンジョンで3時間過ごしたけど実際には30分しか経っていなかった、が正解なのか?


「はい。これビッグスライムの魔石です。Eランクに昇格お願いします」


 よくよく考えたら、Fランクダンジョンから出る宝箱の中からいいスキルオーブが出るわけがなかった。

 出るのは【皿洗い】みたいなスキルポイント1のク〇スキルだろう。

 さっさとEランクダンジョンに行って次のボスで周回した方がいいだろうということで戻って来たのだ。

 ちなっみに帰りはボス部屋の次のダンジョンコアのある部屋の脱出用のゲートから支部のダンジョンゲートまで一発で戻ってこれる仕様です。

 楽でいいね。


「はーい、確かに。ライセンスを書き換えてくるので、ちょっと待っていてくださいね」


 ビッグスライムの魔石とライセンスを渡したら、黒川さんは奥に引っ込んでいった。


「オイ、お前。Eランク昇格ってことは初心者か?」


「え?あっ、はい」


 隣の受付に座っていた職員に声を掛けられた。

 黒髪のツインテールで、線の細い印象を受ける女の人だ。

 逆に黒川さんは背は高くないけどムッチリした感じなんだよね。

 その後ろ姿に見惚れていたので、ちょっと間抜けな返事になってしまった。

 ……【時間遡行】でやり直そうか?


「ずいぶん若いな?でもここにいるってことは冒険者学校の生徒って訳でもなさそうだな。で?お前のランダムスキル何だったの?」


 若いと言われたが、この人もずいぶん若そうに見えるね。

 同い年って言われても信じそうだけど?

 冒険者学校は、東京にある探索者向けの高校のことだ。

 あそこの生徒は学校内にあるダンジョンで昇格試験をする。

 協会での昇格はしないはずだから違うと判断されたのだろう。

 っていうか口悪いね、この子。

 人にスキルを訪ねるのもマナー違反だ。


「【皿洗い】です」


 でも答える。

 【時間遡行】は明らかにヤバイスキルだからね。

 他人にホイホイ教えていいものじゃないだろう。

 ならばということで【皿洗い】がランダムスキルだったことにする。

 さっそく役に立った【皿洗い】、〇ソスキルとか言ってごめんね。


「は?テメェ、舐めてんのか?嘘つくならもっとマシな嘘つけや!」


 ク〇スキル過ぎて信じてもらえませんでした。


「ちょっと、莉子!またなの?新人さんに絡むのはやめてって言ってるでしょ!支部長に言いつけるわよ!」


 黒川さんが戻ってきて口の悪い職員を叱る。

 この人は莉子さんという名前らしい。

 ということは、新人に絡むのはいつものことなのかな?


「だってこいつ、ランダムスキルが【皿洗い】とかほざきやがるんだぜ?」


「どうせアンタがスキルを無理に聞こうとしたんでしょ?嘘つかれてもしょうがないじゃない。スキルを聞くのは……」


「嘘じゃないですよ」


 黒川さんの言葉を遮って真実だと伝える。

 いや、嘘なんだけどね。


「え?」


「はぁ?テメェ、まだ言うのか?」


「嘘だと思うならお皿持ってきて下さい。俺も使ったことないのでどうなるのかはわからないですけど試してみましょう」


 都市伝説レベルのク〇スキル過ぎて信じてもらえないとかね……。

 でも面白そうだから実演してみよう。


「チッ……待ってろ」


「ね、ねぇ、本当に【皿洗い】なの?……あ、ごめん、今の忘れて。はい、これ。Eランク昇格おめでとう。Eランクダンジョンは10階層まであるから、今日は無理して奥までいかないでね。……スキルはオーブでも手に入るし、気にしちゃダメよ?」


 Eランクになったライセンスが返ってきた。

 30分で昇格は結構早いのでは?

 半信半疑ながらもちゃんとアドバイスをくれる黒川さんはいい人だね。


「オラよ!嘘だったらぶっ飛ばすからな!」


 口悪受付嬢の莉子が奥からお皿を持って戻ってきた。

 誰かケーキを食べたみたいですね。

 生クリームが付いたお皿です。


「行きますよ。【皿洗い】!」


 シュワーっと生クリームが霧のように消えていき、お皿全体も元より綺麗になった気がする。

 いや、汚れはともかく生クリームどこに行ったんだよ……。


「うっ、マジか……」


「うわぁ……」


「すげぇ。【ステータス】。今のでMP消費は1かな?もう2枚お皿ないですか?」


「「え?」」


 2枚に使ったらMP消費がいくつになるのか検証したいところだ。

 でも、なんかドン引きされてる?


「お前、スキル一個分損してるんだぞ?普通はここでスキルポイント10以上のスキルが出るもんなんだよ。この時点でレベル10以上の差だぞ?お前、才能ないよ。悪いことは言わねぇ、探索者は諦めろ」


 酷い言われようだ。

 実は俺のことを心配して、優しさで言ってくれているのかもしれない、か?

 なんとういうツンデレ。

 もっとも、本当のランダムスキルは【時間遡行】っていうレベル100分クラスのスキルだからね。

 言われれば言われるほどの、優越感。

 しかも黒川さんも言ってたけどスキルオーブもある。

 別に最初のスキルが何だったとしても、なんとかなるんじゃないかな?

 Eランクのボス部屋の宝箱でマシなスキルオーブでも持って帰れば、少しは態度も改まるかな?


「ちょっと、莉子!アンタ、言い過ぎ!」


「いや、言わせろ。なんだコイツ、ニヤニヤしやがって。こういう奴にはガツンと……」


「莉子ちゃん、ちょっとこっちに来なさい」


「「あっ」」


 黒川さんが怒ってくれたけど効果なし。

 尚も続けようとする口悪受付嬢だったけど、奥から支部長が出てきた。

 手にはフォーク。

 ケーキ食べてたのはこの人ですね。


「あ、じゃありません!早くこっちにいらっしゃい!」


「でも、コイツ……」


「いいから奥に入っていなさい!」


「うっ。はい……」


 怒られてますね。

 心配して言ってくれていたとしても言い方ってものがあるからね。

 お説教されるといいさ。


「田中君、本当にごめんなさい。あの娘にも謝らせないといけないところだけど、今それをしても口だけの謝罪になってしまうから……。後で必ず自分から謝罪させるので、今は私が代わって謝罪します。本当に申し訳ありませんでした」


 奥に引っ込んで行った口悪受付嬢に代わって支部長が謝罪してくれる。

 黒川さんも一緒に頭を下げてくれた。


「別に気にしてませんから大丈夫です。支部長が頭を下げることではありませんよ。黒川さんもです。それに俺がすることに代わりはありません。例えスキルが何だったとしても、俺にはやらないといけないことがあるんです」


 3か月以内にCランクに上がってポーションを作らないといけないのだ。

 Cランクに上がったらこの支部に来ることも無くなるだろうし、あの受付嬢とも会うこともなくなるだろう。


「……。本当にごめんなさい」


 もう一度頭を下げる支部長。

 気にしなくていいって言ってるのに……。


「君!立派だね!お姉さん、応援しちゃう!わからないことがあったら何でも聞いてね!」


 黒川さんの好感度が上がった!

 今のはいい対応だったみたいだね。


Eランクダンジョンのモンスターはゴブリン種よ。奥に行けば行く程モンスターは強くなるし、種類も増えるわ。6階以降はゴブリンライダーやゴブリンテイマーが出てくるようになって、他の種類のモンスターも出てくるから無理はしちゃ駄目だからね。今日は初日だし、暗くなる前には支部に戻ってくるようにしてね」


 支部長がEランクダンジョンの情報をくれる。


「もう、支部長!私が教えるって言ってるじゃないですかー」


「あら?早い者勝ちよ?ウフフッ」


 二人に見送られてEランクダンジョンに入った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る