第5話 時を戻すスキルでもないと
「そろそろ、進むか」
検証して分かったことは、【時間遡行】で戻るのは俺の記憶だけ、ということだ。
検証中に何度か受付の黒川さんと話したけど、【時間遡行】で戻った後は黒川さんは戻る前の会話をまったく覚えていなかったのだ。
黒川さんの目の前で【時間遡行】を使っても結果は同じ。
他の人の記憶は【時間遡行】で戻っても継承されていないことになる。
そしてレベルも戻っていた。
すでに一回このFランクダンジョンの奥まで行ってきた。
ボスのビッグスライムを倒して、レベルも3まで上がってたんだけど今はレベル1……。
残念ながら【時間遡行】を使って無限レベル上げとかは出来ないみたいだね。
MPの消費に関しては未だに不明。
だけど時間が戻ったらMPもその時点の数値に戻っている。
どれぐらい消費してるのかは、俺が他のスキルを覚えてないから検証のしようがない。
これは後日、MPを消費するスキルを覚えた後に改めて検証しないとね。
そしてすごいことに気が付いた。
【時間遡行】で戻った地点から、またすぐに【時間遡行】で戻ることが出来る。
今のところ最大で2時間しか戻っていないけど、戻れる最大時間の24時間戻ってから更に24時間戻れるかもしれない。
(もしかしたら父親が生き返るかもしれない……)
そんな淡い期待を抱いてしまったのだが、一つ重大な懸念点がある。
ランダムスキルを覚えるタイミングだ。
これには大きく分けて二説ある。
生まれた時に一つだけスキルかジョブを持って生まれてきている説。
もう一つはレベルが1に上がった時にランダムに付与される説。
前者ならいい。
俺が生まれた時から【時間遡行】のスキルを持っていたなら問題はないのだ。
ダンジョンに入ってモンスターを倒せば、また【時間遡行】を使えるようになるからね。
だが、後者の場合……、今から30分以上戻ってしまうと、レベルが0の状態に戻る。
そこからレベル1になっても【時間遡行】以外のスキルをランダムで覚える可能性があるのだ。
この【時間遡行】というスキルは大当たりのスキル。
スキルポイントで行ったら100でも利かないかもしれない。
それなのに代わりに覚えるのが【皿洗い】に代表されるようなスキルポイント1で獲得できるようなクソスキルだったら目も当てられない。
父親が生き返るなら【皿洗い】でもいいけど、どっちも失ってしまうのは怖い。
(自分を使っての検証はできないな……)
誰か協力者が必要なんだけど、すぐには難しいね。
ちなみに【鑑定】という超レアスキルがあって、他人のステータスを見れたりするのだけど、レベル0の人に【鑑定】を使っても何も見えないらしい。
だからレベル0の人がランダムスキルをすでに覚えているかどうかもわからないんだよね。
それこそ時を戻すスキルでもないと真実はわからないと言われている。
(……ありましたね、時を戻すスキル)
とにかく今できる検証は済ませたので、さっさとFランクダンジョンをクリアしてしまおうか。
おっと、そこの草むらにスライムだった。
前に見つけていたのだ。
茶色のボディで何のスライムかはわからないのでザクっと剣を突き刺して魔石を割ってしまう。
毒スライムの可能性があるからね。
流石に手を入れて危険かどうか判断してから【時間遡行】で戻るみたいな、漢鑑定をする勇気はない。
それにスライムの魔石とか一個10円もしないので割ってしまっても問題ないだろう。
ちなみにスライムは動きが遅いので簡単に倒せる。
上から降ってくるのにだけ気を付ければいいが、ここはフィールドダンジョンなので天井から落ちてくるということも無い。
木の下に行かなければ大丈夫だね。
(ここに二匹目。倒したら【ステータス】っと)
名前:田中太助
ジョブ:【戦士】
Lv:2
HP:13/60
MP:11/30
腕力:4
耐久:4
敏捷:4
魔力:3
スキル:【時間遡行】
スキルポイント:2
緑色のスライムを倒してレベルアップしたはずのでステータスを確認。
前と同じく、スライムを2匹倒してレベル2になっている。
ステータス画面は出しっぱなしだと視界を塞ぐので、もう一度【ステータス】と唱えて消しておく。
どんどん進もう。
階層を進むには、入ってきた場所とは別のダンジョンゲートを探す必要がある。
Fランクダンジョンは1階層しかなくて、次はもうボス部屋だ。
本来ならボス部屋に繋がるダンジョンゲートを探さないといけないんだけど、それがどこにあるのかはわかっている。
一回行ってるからね。
スライムの隠れ場所も知っているので、草むらをかき分けてスライムを倒しつつボス部屋のダンジョンゲートの前に。
【時間遡行】、かなり有効だね。
実際に掛かる時間を大幅に短縮できるのはすごい。
(さて2回目のビッグスライム……、あれ?)
ボス部屋に入ると待ち構えていたのは茶色のビッグスライム。
スライムがバスケットボールならビッグスライムは大玉転がしの玉ぐらいの大きさだ。
ただ前回と色が違う……。
さっきボスエリアに入った時に戦ったのは透明な、水スライムの大きいヤツだった。
今日はFランクダンジョンには俺しかいないはずだ。
(入ったタイミングでボスが変わるのか?いや、今はとにかく倒してしまおう)
考えるのは後でいい。
ボス部屋は一方通行。
しかもボスを倒して初めて反対側のゲートが開くので、ボスを倒さない限りはこの部屋から出ることは出来ない。
しかし問題がある。
探索者のランクをEランクに昇格させる為には、Fランクダンジョンのボスの魔石を提出する必要があるのだ。
前回は水スライムの大きいヤツだったから手を突っ込んで抜き出せたんだけど、今回はそれは躊躇われるね。
(毒のスライムだったら死ぬ可能性まであるぞ……)
ビッグスライムは大きいだけで動きは普通のスライムと変わらない。
魔石から切り離された部分は動かなくなるので、剣で細かく刻んで小さくしていくのが正解だろう。
触れないように体当たりにも気を付けつつ、斬りつけること5分程。
普通のスライムより小さくなったところで、剣の先を使って魔石を傷つけないように取り出す。
それと同時に部屋の中心に宝箱が現れた。
ボスは確定で宝箱を落とすのだ。
ミッションコンプリートだね。
(さっきは棍棒だったけど……。うん、宝箱の中身も変わってる)
小振りなナイフだった。
木でできた棍棒よりはマシだけど、100円ショップの包丁よりも切れ味は悪い。
これも10円。
まだ買い取ってくれるだけマシだろう。
支部の外に武器を持ち出すのには許可とお金が掛かるので、置いていってもいいくらいだからね。
刃物を無断で持ち出すと銃刀法違反で捕まるし、捕まったらライセンス剥奪というコンボ。
ボス部屋の宝箱には罠は無いというが、これこそが罠なんじゃないか?
(ん?宝箱の中身っていつ決まるんだ?)
ボスはボス部屋に入ったタイミングで変わるよね?
じゃあ宝箱は?
「やってみるか……。1分、【時間遡行】!」
グニャーっと視界が歪む。
これにはまだ慣れないね……。
~~~~
「もどっ、っっ!あっぶなっ!」
戻ったのはいいけど、ちょうどビッグスライムが体当たりを仕掛けてきたタイミングだった。
戦闘中に戻る馬鹿がいるのかと……。
「この野郎!」
腹いせに力いっぱい切り刻む。
三回と四回といったところで一旦離れる。
小さくなったビッグスライムは、もうほとんど動けない。
(次はこの時間に戻るようにしよう)
時計を確認したらさっきと同じように剣先で魔石を取り出す。
宝箱出現。
(さて中身は……。棍棒か……。戻った、けど変わった……な)
これはすごいんじゃないか?
宝箱の中身はいつ確定するのか、こちらも長年にわたり議論のタネになっていた。
時間を戻せない限りはわからないと言われていた答えに、俺だけが辿り着いてしまったわけだ……。
このスキルはヤバイ。
そして……。
「いいアイテムが出るまで粘ればいいんじゃないか?」
周回開始だ。
~~~~
「棍棒!」
変わってない!
~~~~
「ただの石ですね」
一回外に出て黒川さんに見てもらいました。
~~~~
「棍棒!」
これもただの木の棒である。
~~~~
ナイフ!棍棒!棍棒!石!剣!棍棒!棍棒!棍棒!槍!石!棍棒!ナイフ!
~~~~
「次からは面倒だから魔石砕くか?」
20回目……。
「ハイ、【時間そ……、青っ!キタっ!!」
ただの石!と思ったら色が青い。
青い魔石、これはスキルオーブだ。
っていうかただの石と大きさ同じって紛らわしすぎるでしょう。
戻るところだったぞ。
「光ってるな。使えるぞ!」
スキルオーブは適性がないと砕いてもスキルを覚えることは出来ない。
適性があるかは淡く光って見えるかどうかだ。
つまり、このスキルオーブは俺に適性があるスキルが入っているということになる。
ちなみに中に何が入っているかは【鑑定】スキル持ちに調べてもらわないとわからないが、【鑑定】持ちは日本に一人しかいないから時間が掛かる。
しかしながら俺には漢鑑定がある。
「割って戻ればいいじゃない!」
時計を確認して今の時間を覚えたら、剣の
「えっと……、【ステータス】、か。レベルは3になってるな……。え?」
名前:田中太助
ジョブ:【戦士】
Lv:3
HP:21/90
MP:12/45
腕力:6
耐久:6
敏捷:6
魔力:6
スキル:【時間遡行】【皿洗い】new
スキルポイント:3
まさかの【皿洗い】。
俺には【皿洗い】の適性があったようです……。
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