第4話 スキル範囲

「まずスキルの検証かな?」


 初心者講習が終わり、再びFランクの管理ダンジョンに戻って来た。

 Fランクのダンジョンは1階層とボス部屋、それとダンジョンコアの部屋だけなので、初心者でも一日で通過できる。

 そのあとはEランクのダンジョンに行けるので、魔石も二束三文のここに来るのは本当に初日の探索者だけだ。

 今日講習を受けたのは俺だけなので、他に人が来ることはないだろう。

 さっきは支部長が一緒だったから試せなかったけど、この【時間遡行】っていうスキルを検証していこうと思う。


(このスキル、協会のデータベースに乗ってないスキルなんだよなぁ)


 ここに来る前に協会のパソコンから調べてみたけど、『時間』の検索で引っ掛かったスキルは【時間加速】と【時間停止】だけ。

 二つともレアジョブの【時魔法使い】で覚えられるスキルなんだけど、必要スキルポイントが30と50っていうかなり取得の難しいスキルだ。

 スキルポイントはレベルが1上がった時に1しか増えないからね。

 50の【時間停止】を覚えるにはレベル50が必要になるけど、レベル50越えは日本全体を探しても二、三人だろう。

 効果的には二つとも一定範囲内の時間を加速させたり、停止させたりするスキルだね。

 【時間遡行】も同じようなスキルだとしたら、範囲内の過去の映像が見れるとか、そういう能力かな?

 もし範囲内の時間を戻すなんてヤバいスキルだったら儲けものだけど……。


「まあ使って見るか。【時間遡行】」


 頭に数字が思い浮かぶ。


00:00:01


(動かせる?)


23:59:59


 三つの数字の一番左のカウンターが23で止まってるところ見るとこれは時間、約24時間前まで設定できるってことかな?

 使う範囲の設定とかはないみたいだ。

 とりあえず1分に設定して、スキルを発動してみる。


00:01:00


 視界が……、歪む……。



~~~~



「あれ?」


 何も変わっていない。

 そりゃそうだ。

 今、一分前の映像を見てるとしても、一分前からここには何もないからね。

 検証のやり方を失敗した。

 何かないかと思ったら、左手に時計が付いていることを思い出す。

 これも父親の形見だったりする。

 ダンジョンで突けてても壊れにくい衝撃に強いやつだ。

 検証するならこれ以上ないアイテムだね。

 スマートホンを取り出して時間が揃ってるのを確認し、腕時計を地面に置く。

 っていうかスマホ、圏外だね。

 ダンジョンゲートを進んだ先は異世界って話だから、当然と言えば当然。

 次からは支部の貸ロッカーに置いてこよう。


「【時間遡行】。時間は……5分で」


 時計に手を翳して発動。

 これで範囲を指定出来てるかな?

 視界がゆがむ。



~~~~



「消え……た?」


 え?腕時計どこいった?

 辺りを見回すけど落ちてない。


「見えてないだけか?」


 時計を置いたはずの場所を手探りで探すけど、何もない。

 見えている景色と同じ感触しかない。

 どうしよう、形見なのに……。


「母さんになんて……、あれ?」


 あった。

 左手についてる。


「左手に戻ったってことか?時間は?」


 腕時計の時間はきっちり5分前になっている。


「すげぇ。時間を戻す能力だったんだ!あっ、【ステータス】」


 この手の【時間加速】や【時間停止】はMPの消費が激しいと聞く。

 なら【時間遡行】も当然そうだろう。

 5分戻してどれぐらい減ったのか……。


名前:田中太助

ジョブ:【戦士】

Lv:1

HP:13/30

MP:11/15

腕力:2

耐久:2

敏捷:2

魔力:1


スキル:【時間遡行】


スキルポイント:1


 自然回復してます……。

 元がいくつだったのかわからないから、いくつ減ったのかもわからないね。


「もう一回確認するか。時計を合わせて……。ん?」


 スマホを取り出してみると時間は腕時計と一緒だった……。

 どういうことだ?

 スマホの方も5分戻ってるぞ?

 範囲の指定に失敗したのか?

 そもそもどうやって範囲を指定するんだ?


「もう一回検証するしかないか。【時間遡行】」


 スマホを少し離れた場所に置いてきて、【時間遡行】を発動させる。

 戻す時間はさっきと同じく5分。

 さて、どうなるのか……。

 またまたグニャっと視界が歪む……。


(なんで俺の視界が歪むんだ?)



~~~~



「こちら、ライセンスとなります。田中さんは現在Fランクですので、入れるのはFランクの管理ダンジョンだけですね。今日から田中さんも探索者の一員となられましたが、決して無理をなさらず、安全第一でお願いしますね」


「………は?」


 視界が戻ると目の前には美人支部長……。

 ここは……、さっきジョブを獲得した部屋だ。

 しかも安全第一ってさっきも聞いた言葉……。

 俺の手にはライセンス。

 ちょうど講習が終わったところ……か?

 戻った、のか?

 時間が?

 俺が?

 腕時計!

 ある、5分前になってる。

 スマホ!

 ある、同じく5分前。


「どうかされましたか?」


「あ、スイマセン。ちょっとスマホが鳴ってしまって……。もう行ってもいいですか?」


 誤魔化す。


「え、ええ。お気をつけて……」


 部屋を出る。

 さっきはこの後、受付でライセンスを見せてダンジョンに入った。


「あ、君、講習終わったの?Fランクダンジョンだよね。一応ライセンス見せてね。はい、田中君ね。私は……」


(くろかわまり)


「黒川茉莉って言うの。これからよろしくね」


 受付に座っていた職員が首から掛かった写真付きのIDを見せながら名乗る。

 これもさっきと全く同じ……。


「はい、よろしく……お願いします」


 あまりの出来事にフラフラしながらFランクダンジョンへのゲートに向かっていく。


(【ステータス】)


名前:田中太助

ジョブ:【戦士】

Lv:1

HP:10/30

MP:10/15

腕力:2

耐久:2

敏捷:2

魔力:1


スキル:【時間遡行】


スキルポイント:1


 ダンジョンに入り、周りに誰もいないのを確認した後、ステータス画面を開く。

 

 でもMPが減ったかはわからない。

 どっちにしてもこのスキルはヤバイ。

 【時間遡行】。

 時を戻すスキル。

 このスキルの効果範囲は……。


だ)



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