第3話 管理ダンジョン

「初めまして。私はこの浦和支部の支部長を務めさせて頂いております。宇佐美真実うさみまみと申します。今日はよろしくお願いします」


 年の頃は30代後半といったところだろうか?

 支部長にしては若いね。

 そして美人なのも間違いない。

 左手の薬指には指輪が光ってるし、何と言うか人妻感というか色気も半端ない人だ。


「田中太助です。よろしくお願いします」


 この後はダンジョンに入ってモンスターと初の実戦となるのだが、支部長自ら手伝ってくれるらしい。

 手伝ってくれるといっても、よっぽどのことがない限りは後ろで見てるだけだろうけど。


「これからFランクのダンジョンに入りますが、武器等のご用意は大丈夫でしょうか?レンタルの物もありますので、必要なら仰ってください」


「いえ、大丈夫です」


 武器も防具も父親が残したものがある。

 剣の使い方なんて知らないけど、Fランクのダンジョンに出てくるくらいのモンスターなら問題はないだろう。





「こちらがFランクダンジョンの入口になります。では先に入りますね」


 ダンジョンゲート。

 ドア一枚分の大きさのだ。

 これを通り抜けるとダンジョンにワープすることが出来る。

 20年以上前にが世界中に現れて大問題になった。

 放っておくとダンジョンゲートからモンスターが出てきて人間を襲うからね。

 一番奥にあるダンジョンコアを外に持ち出すか、壊すかすればダンジョンゲートが消えるので問題は解決するけど、今でもダンジョンは増え続けているのだ。

 壊しても増えるの鼬ごっこ。

 そこで増え続けるダンジョンに対処するために日本がとった政策が探索者協会と管理ダンジョンになる。

 探索者っていうモンスターを倒すことを仕事とする人を育てようって試みだ。

 この管理ダンジョンは、最奥に到達済みのダンジョンだけど、探索者を育てるためにダンジョンゲートを壊さずに残してあるダンジョンなのだ。

 だから奥まで行ってもダンジョンコアは持ち出してはいけない。

 怒られるだけじゃ済まなくて、賠償金が発生するからね。


「ここがダンジョン……。外、ですね」


 支部長さんに続いて俺もダンジョンゲートを抜けるとそこには青空が広がっていた。


「そうですね。ここはフィールド型のダンジョンですから。Dランクは洞窟型になっているので昇格したら灯りを忘れずに用意してくださいね。あ、あそこにスライムがいますね。ちょうどよく水スライムです。あれなら魔石を引き抜けるので試して見てください」


 スライムは魔石を壊すか、体外に引き抜かない限り倒せない。

 毒だったり強酸だったり、手を突っ込むのは危険なスライムもいるので、普通は魔石を破壊しないといけないけど、水のスライムならその危険はない。

 ありがたく魔石を頂戴しよう。

 ダンジョンが地球に現れて悪いことばかりでもなく、良いこともあったりする。

 その代表例が魔石と魔力という新しいエネルギーだ。

 魔石があれば魔力で動く魔道具を探索者じゃない一般の人も使えるし、最近では魔石から電気を作り出す魔道具なんていうのも一般販売され人気を博している。

 二酸化炭素なんかを出さないクリーンなエネルギーだからね。

 この魔石を売ることで探索者は生計を立てることが出来るのだ。


「うげっ」


 水スライムの中に手を突っ込むとヌチャッとした感覚。

 これは水じゃなくてジェルだね。

 ジェルスライムに改名しろ。

 ジェルの中を逃げ惑う魔石を捕まえて引き抜く。

 ブチブチっと何かが切れる抵抗を感じた瞬間、目の前に数字の列が現れる。


名前:田中太助

ジョブ:なし

Lv:1

HP:10/10

MP:10/10

腕力:1

耐久:1

敏捷:1

魔力:1


スキル:【時間遡行】


スキルポイント:1


 よし!

 ステータスが出てきた。

 ジョブなしのレベル1だけど、これで俺も探索者って名乗ってもいいだろう。

 ランダムで一個もらえたのはジョブじゃなくてスキルだったみたいだね。

 えっと……、じかん……、そこう、か?

 どういうスキルなんだろう?


「ステータス、出ましたか?出たのはジョブだったのか、スキルだったのかだけ教えてください。それでこの後お渡しできるオーブが変わってきますので……」


 支部長が後ろから遠慮がちに聞いてくる。

 探索者のスキルを探るのはマナー違反とされているので、協会の職員でも探ったりしてはいけない事になっている。

 まあパーティ募集の時は自分からアピールしたりもするんだけど……。


「スキルでした。ジョブは【戦士】でお願いします」


 先行して目的のジョブも伝えておく。

 ランダムで手に入るのがスキルだった場合は【戦士】になろうと決めていたのだ。


「はい、承りました。ジョブ取得は支部の方で執り行うので、戻りましょう」





「こちら、Fランクのダンジョンコアになります。中に入っているのは【戦士】のはずですが、違ったら教えてくださいね。はい、こちらの金槌をどうぞ」


 ジョブはダンジョンコアを壊すことで手に入る。

 今受け取ったのは別の冒険者が持ち帰ったダンジョンコア。

 Fランクの物でも買おうと思ったら10万円以上するだろう。

 だけど探索者に登録した初回のだけは登録料の1万円で一個だけ貰うとこが出来る。

 選べるのは【戦士】【魔法使い】【斥候】と産出が多い3種類。

 Fランクにはこの他に【鍛冶師】や【裁縫師】みたいな生産職が得られるダンジョンコアもあるみたいだけど、産出が少ないのでちょっとお高いのだ。


「よ、っと」


 ガツンっとダンジョンコアを割るとステータス画面と同じようにジョブ選択画面が目の前に浮かび上がる。

 このステータス画面やジョブ選択画面は他の人には見えないし、目を閉じても見えたりする。


『獲得可能ジョブ』

【戦士】


 ちゃんと中身は【戦士】だったね。

 ちなみに、稀に二個ジョブが入ってるダンジョンコアもあるのだとか……。

 【戦士】を選択してっと。


『【戦士】になりますか?はい/いいえ』


 はい、っと。

 

名前:田中太助

ジョブ:【戦士】

Lv:1

HP:10/30

MP:10/15

腕力:2

耐久:2

敏捷:2

魔力:1


スキル:【時間遡行】


スキルポイント:1


 ジョブなしから戦士へ、ステータスはほぼ倍になったね。

 まだレベル1だけど。


「問題ないようですね。今回は無料でお渡しできましたが、ジョブチェンジの際には正規の料金を頂きますのでご注意下さい。別途スキルオーブの販売も致しておりますので、お時間がありましたら3階の販売店を覗いてみてくださいね」


 ジョブはダンジョンコアを砕けばいつでも変えられる。

 まあ一番安いのでも10万円だけどね。

 他にもスキルオーブって言うのがあって、適性があるスキルのオーブを砕けばそのスキルを覚えることが出来る。

 まあスキルはレベルアップで貰えるスキルポイントを使えば、そのジョブにあったスキルを覚えられるんだけどね。


「はい、無事に【戦士】になれました。ありがとうございます」


「こちら、ライセンスとなります。田中さんは現在Fランクですので、入れるのはFランクの管理ダンジョンだけですね。今日から田中さんも探索者の一員となられましたが、決して無理をなさらず、安全第一でお願いしますね」


「……はい」


 確かに命は大事だ。

 死んでしまっては何もならない……、そう言いたいのだろう。

 父親の形見となった剣を握りしめる………。



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