13

俺は走った・・・。

久しぶりに走った・・・。

あの日以来、久しぶりに走った・・・。




今はどんな不細工な顔でもいいと思ったから。

今はどんな不細工な走り方でもいいと思ったから。




俺は両手を強く強く握り締めながら走った。




子どもが出来た・・・。




俺に子どもが出来た・・・。




あの大嫌いな女と俺の子どもが出来た・・・。




何故か凄く嬉しくて・・・。




飛び上がるくらいに嬉しくて・・・。




全速力で商店街までの道を走った・・・。




呼吸を上げながら商店街のアーチをくぐると、いた。

あの女がいた。

つわりが酷くて早退したくせに呑気に肉屋で肉を買っている。

その姿を見て俺は怒鳴った。




「何で早く言わない!!!!」




俺の怒鳴り声にこの女だけではなく商店街中の奴らがこっちを見てきた。

そんなことは何も気にならないくらい俺は怒りが込み上げている。

こいつの姿を見たら一気に怒りの感情しかなくなった。




「何で早く言わない!!!

呑気に肉なんか買いやがって、早く家に帰って横になってろ!!!」




「でも、ちゃんと食べないと。」




「ちゃんと食べる前にまず俺に言う言葉があるだろ!!!」




「え・・・最低っていう言葉?」




「違う!!!違うだろ!!!

何で子どもが出来たことを言わなかった!!!」




「言ったでしょ、妊娠したって。」




「それだけで分かるわけないだろ!!!

俺の子どもだって分かるわけないだろ!!!」




「分かるでしょ、私あれが初めてだったし。」




「あの後に他の奴とやったと思ってたんだよ!!!」




「・・・須崎って本当に頭も心も空っぽだよね。」




「それは俺の台詞だよ!!!」




怒鳴り付けた俺にこの女は何故か笑っている。

真っ青な顔をしながらもしっかりと化粧されている顔で笑っている。




「俺が・・・いや、俺の母ちゃんが飯作りにいくから大人しく寝てろ!!!」




「そうなの?

須崎は関係ないのにいいの?」




「関係ありまくりだろ!!!

俺の子どもだから関係しかないだろ!!!」




「そうなんだ、関係あったんだ。」




真っ青な顔で笑っているこいつの顔を見てどんどん不安にもなってきた。

思わずこいつの腕を引っ張り俺の方に少し引き寄せる。




「早く結婚するぞ!!

1人でどうするつもりだったんだよ!!!」




「関係ない人には頼るわけにもいかないから1人で産んで育てるつもりだったけど。」




「俺がいるだろ、俺が!!!

“不細工だけど”俺がいるだろ!!!!」




こんな時にこの前置きを使ってしまうと俺のすぐ近くにいるこの女がクスクスと笑った。

その笑顔は昔よく見ていた笑顔のように見える。




なんだか頭がムズムズとしてきて無意識に頭を掻き、それから“のっぺらぼうのタマゴ”を見ながら言った。




「俺のことを不細工とか二度と言うなよ!?

腹の中で俺達の子どもが聞いて産まれてこなくなるかもしれないからな!!」




「私はそんなこと1回も言ったことないけど。

それを言うなら私のことを“のっぺらぼうのタマゴ”って二度と言わないでよ。」




「・・・了解です、心の中でだけにする。

子どもにはいつも綺麗な言葉を残せるように鮫島せんぱいから言われた。

だから喧嘩は2人きりの時だけな。」




「了解です。」




またクスクスと笑っているこの大嫌いな女を見上げていると、商店街中の奴らがウワッと声を上げた。




驚きの声とともに祝福や戸惑いの声が上がり、俺達の周りに人だかりが出来た。




「竜!!“乾杯の酒”で乾杯だな!!!」




「嫁さんがつわりで苦しんでるのに乾杯してる旦那なんて最低だろ!!!

それより、早く婚姻届!!!

俺、走って取ってくるから待ってろ!!!」




そう言って走り出しながらこの大嫌いな女を見ると、大嫌いな女は静かに泣きながら何度も頷いていた。




その顔を見ながら俺は叫ぶ。




「化粧落としておけ!!!

その顔より素顔の方がいくらか悪くないからな!!」








end........

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俺の顔を描いて Bu-cha @Bu-cha

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