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その言葉を少し考えながら俺は頷いた。




「そうですよね、俺もムシャクシャしてたんです、佐竹のこと。

今から佐竹のことぶっ飛ばしてきますよ、いくらなんでもあの女が不憫なんで。」




俺がそう答えると鮫島せんぱいと岩渕課長の時が止まったように見えた。

それくらい2人の動きが静止していたから。




それに首を傾げていると先に動いたのは岩渕課長だった。




「お前、板東としたんだろ?セックス。」




「・・・あいつから聞いたんですか?」




「直接的には聞いてないけどな、結果的に分かるだろ。

それに2人で出張に行かせたしな。」




「セックス出来ただろ?簡単に。

そういう奴に俺がちゃんと教育したからな。」




鮫島せんぱいがさっきの顔とは違う、困ったように笑った笑顔で俺のことを見てきた。




「はい、お陰様で1回やることが出来ましたね。

でも最後までしてないっすけどね。

途中で切り上げました、元々そのつもりでしたけど。」




「「お前、それなのにすげーな。」」




鮫島せんぱいと岩渕課長が声を揃えてそんなことを言ってきて、笑いながら俺のことを見てくる。




それから鮫島せんぱいは優しい顔で俺のことを見詰め、またゆっくりと口を開いてきた。




「板東の腹の中にいるガキ、お前の子だぞ。」




それには思わず笑ってしまった。




「いやいやいやいや、冗談キツイっすよ!

最後までしてないっすから!!」




「板東からはお前の子だってハッキリ聞いた。

無理矢理聞き出した感じではあるけどな、ハッキリそう言ってたぞ。」




「あいつ、何でそんな嘘を!!

佐竹が結婚してくれないからって俺を悪者にしやがって!!」




怒りの感情が沸々と込み上げてきたので、俺は両手を強く握り締めた。




「佐竹はずっと振られ続けてるだろ、どこをどう見てもあの2人は付き合ったことも関係を持ったこともねーだろ。」




鮫島せんぱいのその言葉には驚く。




「じゃあ・・・あいつ、誰の子ども妊娠してるんっすか・・・?」




「だ~か~ら!お前だろ!!!」




「なん・・・っなん・・・っ何で!?

俺!?俺の子ども!?

そんなバカな!!!あの1回で!!!

それも途中までしかしてないっすよ!!!」




「すげーなお前、すげー生命力だな!!

何度闘争に行っても死なねーくらいの強い生命力を持った男だな、竜。」




鮫島せんぱいが満足そうな顔で笑いながら俺の目の前まで歩いてきた。




「言っただろ、セックスだろうが結婚だろうが簡単に出来る大人の男に育ててやるって。」




あの日言われた言葉をまた言われた。




「お前らが何でこんなに犬猿の仲なのかは知らねーけどな、過去の出来事にいつまで囚われてるんだよ!!!

そんなんだからセックスも途中までしか出来ねーんだよ、バーカ!!!」




その言葉には爆笑した。

爆笑して爆笑して、爆笑した。




「板東は今日早退させてる、つわりが酷い子だな。」




岩渕課長がそう言ってから「早く行ってやれ」と頷いてきた。

俺は2人に頷いてから会議室の扉を開けようと取っ手に手を掛けた。




そしたらそのタイミングで鮫島せんぱいに「竜!!」と呼ばれて振り返った。




「腹の中でもきっと聞いてるからな、お前らの言葉を。

子どもにはいつも綺麗な言葉を聞かせてやれ。

親の綺麗な言葉が子どもにちゃんと残るように、いつも綺麗な言葉を聞かせてやれ。

喧嘩は2人の時に思いっきりすればいいだろ。」





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