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俺の隣でこいつは俺の顔を描いていく。
何度も何度も俺の顔を見ては描いていく。
そして、結構上手く描けているだろう絵を途中でグシャグシャと上からし、新しいページにまた俺の顔を描いていく。
そんなことを繰り返し、俺の顔の絵は一向に完成しない。
いつもよりはキリッとした顔でこいつを見ているはずで。
いつもよりは1ミリくらいは不細工ではないはずで。
そんな顔を続けていたので流石に疲れてきた。
「もういい、疲れた!!」
「うん・・・。」
こいつは困った顔で笑いながら頷き、俺の顔をジッと見てくる。
それまでの顔は真剣な顔をしていたのに今はこんな目で俺のことを見てくる。
そして、ノートの空いていたスペースにサラサラッと何かを描いた。
それを見下ろして嬉しそうに笑っているので、俺は聞いてみた。
「何描いたんだよ?」
「“竜”。」
久しぶりに俺の名前を呼ばれ、何故か胸がまた走り出した音が聞こえた。
その音を聞きながら俺はその絵をゆっくりと見てみた。
そしたら、いた・・・。
いた・・・。
俺がいた・・・。
三コマ漫画の絵みたいな俺がいた・・・。
不細工な顔で不細工な笑顔、不細工な走り方をして両手に缶ビールを握っている不細工な俺がいた。
その絵を見て俺は泣きそうになった。
やっぱりこいつには俺がこんな風に見えていると分かったから。
それが分かって怒りが込み上げてくる。
おさまりそうにない怒りが勢いよく込み上げてくる。
「こんな風に笑いながら缶ビール持ってきてないだろ!?」
「こんな風に笑ってたけど。」
「嘘だ!!!
それに走ってもねーから!!!」
「走ってきて止まった時の姿に見えたから、こんな風に走ってきたんだろうなって思ってた。」
「隣の部屋から来たんだぞ!?
走るわけねーだろ!!」
実際は走り出した気持ちでいたので、その言葉には胸が更に速く走る音がしている。
嬉しそうな顔で笑いながら缶ビールを呑んでいるこの女をすぐ横から見て・・・。
シャワーを浴びたからか良い匂いがするこの女をすぐ横から、素顔のまま俺を嬉しそうに見詰めてくるこの女を見て・・・。
速く、速く、走っている胸の音が聞こえてくる。
あまりにも大きな足音に身体中が振動していく。
本当に走っているわけでもないのに何故か呼吸が上がってきて、そんな俺をこいつは驚きながらも色っぽく見える顔で見詰めてきやがる。
そんな顔をしているように見えてくる自分にも腹が立ちながら、それでも言った。
他の女の子に言う時はすんなり口から出てくるのに、息苦しくなりながらも言った。
「1回やらせて・・・。」
どんな技でも使えと鮫島せんぱいから言われている。
空手技しか使えないようなつまらない男にはなるなと言われている。
上に立つ男になりたいなら、つまらない男でおさまるなと言われている。
色んな技が出来て、それが成功することもあれば失敗することもある。
それで良いと言われている。
毎回成功する奴なんてつまらないからと、そう言われている。
思わず下の奴らが手を差し伸ばしてくれるようなつまらなくない男になれと。
その差し伸ばされた手まで武器にして上に登ってみろと。
だから、言ってみた。
失敗することなんて何も怖くないから。
ここで断られても何も怖くないから。
そう頭では思うのに泣きそうになる。
断られるのは分かっているから。
あの佐竹でも断られているのに、こんな不細工な俺に頷いてくれるはずがないから。
それでも言わずにはいられなかった。
そうやって育てられたから・・・。
俺は、鮫島せんぱいからそういう大人の男に育てられているから・・・。
泣くのを我慢しながら“のっぺらぼうのタマゴ”を見詰めていると・・・
こいつが・・・
こいつが、小さく頷いた・・・。
信じられないことに、あり得ないことに、小さくだけど頷いた・・・。
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