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それから“のっぺらほうのタマゴ”がマツイ化粧品に入社をしてきて、月日は流れた・・・。
「何で俺がお前なんかと出張に行かないといけねーんだよ!!
それも泊まりで!!!」
企画部の違う課にいるこの女。
俺とこの女が選ばれてしまい、この大嫌いな女と2人きりで出張することになった。
仕事も接待も終わり予約されていたホテルにこの女と並んで入り、隣の部屋に入ろうとしているこいつに悪態を付いた。
こいつは何も言わず別人のように美人になった顔で澄ました顔で笑っている。
その顔を見て今日も怒りが込み上げてくる。
約束していたのに・・・。
俺がこいつの顔面というキャンバスに色をつけると、そう約束していたのに・・・。
同じ土俵に上がってきた時、こいつは自分で顔面に色をつけてきやがった・・・。
商店街にある化粧品の店の嫁さんに、化粧を教えて貰ったと言って・・・。
俺と同じ土俵に上がれることになったから勝負はしないことにしたらしい・・・。
勝手に、そういうことにしたらしい・・・。
それでも偉くなりたいと思うのは、もしかしたらその時に勝負が出来るかもしれないから。
もしかしたらこの女も覚えていて、勝負が出来るかもしれないから。
この女が描いた絵と俺が色をつけるこいつの顔面、どちらが上手いかの決着がつけられるかもしれないから。
そう思いながらこいつの澄ました横顔を見る。
「佐竹、俺と出張で何か言ってただろ?」
佐竹とは人事部にいる俺の同期。
入社した時から女の子達に人気があり鮫島せんぱいや岩渕課長と同じくらい男前の男。
性格はあの2人よりもずっと穏やかで、そういうのが好きな女の子からは佐竹の方が人気だった。
そして、その佐竹とこいつは付き合っている。
佐竹がこいつのことを口説きまくったから。
その時の様子を思い返しながらムシャクシャとしてくる。
こいつは嬉しそうに、楽しそうに笑っていた。
別人みたいな顔面で別人みたいな女になって笑っていた。
「佐竹さん?
出張頑張ってとしか言われてないけど。」
その言葉を聞いて怒りが込み上げてくる。
「それはそうだろうな!!
あれだけ男前なら何の心配もないからな!!
俺みたいな不細工な奴とお前が2人で出張に行ったからって、何の心配もねーからな!!」
タダ兄から教えて貰った“不細工なのに”の前置き。
俺はそれが出来るようになっていた。
でも、この大嫌いな女の前でだけは出来なかった。
凄くムシャクシャとしてきて、出来なかった。
佐竹とこいつが並んでいる光景を思い出し、佐竹とこいつが2人で“何やら”をしている光景まで妄想し、俺は抑えきれない怒りが込み上げてくる。
「お前、佐竹に素顔見せたことあるのかよ!?」
「ないけど。」
「だよな!!素顔は“のっぺらぼうのタマゴ”だからな!!
そんな顔見たら佐竹の股間も萎れるに決まってるもんな!!
大変だなお前も!!
永遠に化粧しないといけないんだぞ!!
佐竹と結婚した後も永遠に化粧を落とせないんだぞ!!」
それだけ叫び俺はホテルの扉を開けた。
そしたら、その瞬間・・・
「そんな噂話信じてたの?
あんなの噂でしょ、バカバカしい。
私は断り続けてて佐竹さんと付き合ってなんかないから。」
冷静な声でそう言われ、隣の部屋に先に入っていった。
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