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俺が意味不明な女を睨み付けると、その女はビクビクとしながら岩渕課長の腕に右手を添え始めた。




「既婚者の男にそんな風に触るな、頭も心も空っぽすぎるだろ。

何が妻だよ、そんなことまで言いやがって頭おかしい女だな。」




こんな所にはいたくなくなり俺は立ち上がった。

それをこの女以外の3人が凄い笑いだして、頭がおかしい女だけはオロオロとしながら俺を見ている。




「あの・・・私、今お化粧していなくて・・・。

素顔はこんな感じで別人で・・・。

岩渕渡の妻です、本当に・・・。」




そんなことを言い出して、それには流石に驚く。

驚くしかないけど、どこをどう見ても別人だった。

見た目だけではなくて性格まで別人。

立ち振舞いや雰囲気まで全くの別人。

なんなら、岩渕課長までこの別人にデレデレとしていていつもの奥さんの時と全然違う。




俺は立ち上がり固まったまま、自称奥さんだというこの女を指差しながら聞く。




「本当に・・・岩渕課長の奥さん?」




「はい・・・。」




そう返事をされ、俺は笑っている3人を見てからもう1度奥さんを見てみる。

もう1度見てみたけどやっぱり別人で・・・




「えーーーーーーっ!?」




「お前うるせーよ、真理が起きる。」




岩渕課長が焦りながら言ってきて、俺は口を開けたまま頷きながらもう1度奥さんを見てみた。

そしたらやっぱり別人で、別人すぎて・・・




「えーーーーーーっ!?」




「お前っうるせーって!!」




岩渕課長の声は聞こえているけれど、俺は目の前にいる自称岩渕課長の奥さんから目を離せない。

両手で自分の頬を包み泣きそうな顔をしている。

そんな自称奥さんの顔を見ながら、開いたままの口からまた声が出て来た。




「えーーーーーーっ!?」




「お前、俺の奥さんをそれ以上虐めたら俺の全ての力を使ってクビにするからな!?」




岩渕課長の言葉に俺は口を開けたまま何度も頷き、ドカッと椅子に座り直した。

それからマジマジと岩渕課長の奥さんの素顔を観察する。




「凄いっすね、まるっきりの別人ですね!」




「うん、そうだと思う・・・。

私が私だって伝えるのすっかり忘れてた、ごめんね・・・。

お化粧すると武装が出来て、性格まで変えられるんだよね・・・。

なりたい自分になれるの・・・。」




「いやいや、俺も聞かないですみませんでした。

武装すごいっすね!!

岩渕課長が不倫してるのかと思いましたよ。」




「俺はどちらかというとスッピンの方が好きなんだよな、すげー可愛いだろ。」




岩渕課長はデレデレとした顔で奥さんとまたイチャイチャしだして、俺はそんな岩渕課長にも驚きながら聞いた。




「じゃあ何でまだ乾杯しないんっすか?

お猪口も6つありますし。」




「ああ、それは・・・」




岩渕課長の言葉の途中でリビングの扉がゆっくりと開いた。

そっちの方を自然と見てみると、いた・・・。




いた・・・。




何故か、何故か、俺の大嫌いな女・・・




“のっぺらぼうのタマゴ”がいた・・・。

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