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そんなことをまた言うので、俺は大笑いした。
大笑いしてやった。
「画家にもならない奴の絵なんか見る価値もねーよ!!
どうせ下手くそな絵なんだろ!!」
「見てから言ってよ・・・。
見てもないのにそんなこと言って、上手かったら負けるみたいだから嫌なんでしょ。」
「そんなんじゃねーよ!!!
そんなんじゃねーよ!!」
2回同じ言葉を繰り返し、俺はこいつから視線を逸らした。
こいつの絵は絶対に下手くそなはずだから。
だから、あの日の俺の姿があんなに不細工だったはずだから。
きっと絵も下手くそだから、あんなに不細工な絵だったはず。
だって、俺だけ違った。
他の奴らの絵と俺だけ違った。
ただ不細工なだけじゃない。
俺だけ何故か三コマ漫画みたいな絵の描き方で、それも全身が3頭身で描かれていて、不細工な走り方にかっぱらった駄菓子まで両手に握らせて。
不細工な顔で不細工に笑っているその顔には影もついていなかった。
他の奴らには格好良く影までつけていたのに、俺にはそれがなかった。
こいつは不細工な姿は描けないくらい下手くそな奴で。
不細工な姿だとあんな不細工な絵しか掛けない奴で。
「お前は目まで悪い女なんだよ!!
だからあんなに下手くそな絵しか描けなかった!!
他の奴らだって全然似てなかった!!
みんなあんなに綺麗で格好良くなんてなかった!!」
なのに、俺だけあんな絵で。
不細工な俺だけあんな絵で。
見ないで欲しかった。
俺の不細工な姿なんて見ないで欲しかった。
あんな風にしか見えていないのだったら見ないで欲しかった。
あんな風にしか描けないのだったら見ないで欲しかった。
嫌いじゃなかったのに。
俺はこの女のことが結構好きだったのに。
この女の目だけは違うと思っていたのに。
他の奴ら全員が汚い物を見るように見てきた中、こいつの目だけは違うと信じていたのに。
ポケットの中で痛いくらい、そして震えてくるくらいの拳を握り締める。
「お前の顔なんて見たくないんだよ!!
俺はお前の顔なんて二度と見たくない!!」
そう怒鳴り付けると、目の前の女は怒った顔をした。
「須崎は可愛い女の子が好きだもんね。
いつも可愛い女の子を追いかけてるんもんね。」
「そうだよ!!!
俺は可愛い女の子が大好きなんだよ!!!
お前みたいなデカイ女よりも小柄で可愛い女の子が大好きなんだよ!!!
いつもいつも俺を見下ろしやがって!!!」
「自分の身長が伸びなかっただけなのに、私が悪いみたいに言わないでよ。」
「お前が悪い!!!
全部お前が悪い!!!
この世の中の悪いこと全てはお前が悪い!!!」
「そんな無茶苦茶な話までしてこないでよ。」
「とにかく全部お前が悪いんだよ!!
そんなんだから画家にもなれなかったんだよ!!!」
そう叫んだ後に、それは愉快になってきたので俺は笑った。
良いことを思い付いたので、笑った。
「画家の夢を諦めたお前の代わりに、顔面というキャンバスに俺が色をつけていってやるよ!!!」
「え・・・?」
「良いことをしてやるよ、俺だって!!
お前の下手くそな絵より俺の方が絶対に上手い!!!
見ただろ!?俺が描いたお前の顔!!!」
この女は何故か真剣な顔で俺のことを見詰め始めた。
「顔面というキャンバスに、俺が色をつけていってやる。
力仕事する予定だったけどな、デカイ化粧品会社に入ってやるよ!!」
「化粧品会社・・・?」
「そこで俺が“不細工だけど”偉くなる!!
それで画家の夢を諦めたお前の代わりに、顔面というキャンバスに俺が色をつけていってやる!!!
だから待ってろ、いいな!!!!」
こいつの“のっぺらぼうのタマゴ”みたいな顔に、俺が色をつけてやる。
この女の下手くそな絵よりも絶対に俺の方が上手く描けるから。
だからデカイ化粧品会社で“不細工だけど”偉くなって、その時にこいつの顔面に色をつけて負かせてやる。
そう思いながら興奮していたら、目の前の女が目から涙を流し始めた。
「うん、待ってる・・・。
じゃあその時に勝負しよう・・・。
私が今日見せようと思っていた絵とどっちが上手く出来たか、勝負しよう・・・。」
泣く程負けず嫌いな女が、俺にそんな勝負を持ちかけてきた。
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