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春になれば大学を卒業する。
大学になんて行きたくもなかったけど、タダ兄から言われたから。
“不細工”を不器にするように、言われたから。
相手に対して“不細工なのに”の前置きを作らせてみろと、そう言われたから。
だから、“不細工なのに”タダ兄と同じ日本で1番の大学に進学してみせた。
自分の為ではなくタダ兄の為なら変わらず今も喧嘩もするし、やることも格好も不良だけど、それでも日本で1番の大学に入れたことは周りの目をいくらか変えた。
昔よりは、俺のことを嫌な目で見る奴が減っていた。
汚い物を見るような目で見る奴が減っていた。
その事実に1人で声を出して笑い、ポケットに両手を入れながら歩く。
“不細工だけど”俺は強い。
それに“不細工なのに”勉強まで出来る。
自信を持って歩ける。
俺は自信を持って笑える。
どんなに不細工でも、俺は生きていける。
それに・・・
「オッ!可愛い子発見~!!」
実家の最寄り駅で降りると可愛い女の子がいた。
そんな可愛い子にも自信を持って声も掛けられる。
「これからどこ行くの~?
俺もちょっとついていこうかな~!」
「・・・竜じゃん、私だけど。」
完全に汚い目で俺のことを見られ、よく見てみると同じクラスにもなったことのある地元の女だった。
「うわっ!お前、俺を誘惑すんなよ!!
何でそんなにめかしこんでるんだよ!?」
「竜を誘惑するわけないでしょ!
これからデートなの!」
「やったか!?やったか!?
そいつともうやったか!?」
「そんなこと竜に言わないって!
まあ、したけど!」
女がクスクスと笑いながらそう言ってきた。
こんな会話も出来るくらいになった。
“不細工だけど”面白い奴になったらこんなことも出来るようになった。
「いいな~。俺もやってみたいな~。
“不細工だけど”やってみたいな~。」
「“女好きの竜”だけどね、そこは難しいか!」
「だってお前、俺とやれる?」
「私は彼氏もいるし無理だけど、誰か1人くらいはいるんじゃない?」
「誰かって誰だよ~。
すげー気持ち良いらしいし、楽しいらしいし、俺もやってみてーよ~。」
「あと、幸せも感じるよ!」
めかしこんだ女がそう言って、駅の中に入っていく。
「大丈夫だって、昔は怖かったけど今は竜って面白いし!
竜の良さを分かってくれる子が1人くらいいるって!」
そんな言葉を残して、可愛いくなった女は彼氏とのデートに向かっていった。
その女の後ろ姿を見ながらポケットの中に入れていた手を強く握り締める。
さっきからずっと強く握り締めていたその手は、ズキズキと痛みを感じ始めた。
自分の爪が食い込んでいるのだと分かる。
「そんな子誰もいねーよ・・・。
何人に声を掛けてきたと思ってるんだよ・・・。」
そう呟いてから商店街の家に向かって歩き出した。
今日も灰色の空が広がっていて、冷たすぎる風が吹いている。
「どうやったら“不細工だけど”結婚出来るんだよ・・・。」
幸せになることが出来ているタダ兄のことを思い浮かべながら、俺には無理そうだと諦めたくなる。
「死ぬまでに1回くらいはやりてーな~・・・。」
“不細工だけど”それくらいの望みは掛けても許されるかもしれない。
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