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呟いた俺に、周りの奴らの声が消えた。

珠緒は驚いた顔で俺のことを見上げてくる。




その顔をぶん殴ってやりたい気持ちにもなるけど、それよりも俺は口を開いた。

いつも口よりも先に手が出るのに、珠緒には口を開いた。




身体に出来た怪我はいつか治ってしまうから。

だから、一生治らないくらいの怪我をさせてやりたかった。




それくらいだった。




それくらいだった。




俺はそれくらい・・・




それくらい・・・




珠緒のことは嫌いではなかった・・・。




珠緒のことは嫌いではなかったのに・・・。




震えてきた口を動かしながら、俺は言った。




「どの絵も下手くそ、全然似てない。

実物と全然似てない。」




そう言ってから俺は右手を動かした。




でも、それはぶん殴る為ではない。




珠緒が握っている鉛筆を奪い取り、俺は不細工な俺の隣に卵のような形の丸を描いた。

そして、その丸にうっすらと6本の線を描いた。




眉毛と目と鼻と口を、うっすらとした線で描いた。




「これ、“お前”!!

俺の方が上手いだろ、“お前に”ソックリ!!

“のっぺらぼうのタマゴ”だからな、“お前”!!!」




珠緒は・・・この女は、凄く傷付いた顔をした。




それを見て、俺は泣きそうになった。




でも、一生治らない怪我をさせてやりたいと思った。




もう二度と俺の絵なんて描きたいと思わないように。




もう二度と俺の姿なんて見たいと思わないように。




もう二度とこの女の顔なんて見たくなかったから。




こんな女の顔なんて二度と見たくない。




そう思いながら、俺は不細工な俺とのっぺらぼうのタマゴが描かれた紙を破り捨てた。




「俺に二度とその顔見せるんじゃねーよ!!

俺は二度とお前の顔なんて見たくねー!!!!」




そう叫んでから、走り出した。




走り出した。




走り出したけど、学校を飛び出してからすぐに止まった。




不細工らしいから。




俺は走り方まで不細工らしいから。




“死んだお前のお父さんにソックリ”




“犬猿の仲”というので結婚をしたらしい父ちゃんと母ちゃん。




母ちゃんやばあちゃんだけではなく、商店街中の奴らからよく言われている言葉を思い出す。




「こんなに不細工で、どんな顔して生きていけばいいんだよ・・・。

どんな風に走ればいいんだよ・・・。」




小さな声で呟き、空を見上げた。




「こんなに不細工で、どうやって母ちゃんと結婚出来たんだよ・・・。」




見上げた空は灰色で。




どこまでも灰色で。




そんな灰色の空からは、白くて小さな粒が落ちてくるだけだった。










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