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その不細工な“何か”は、他の奴らみたいな絵ではなくて。

ああいう格好良い絵ではなくて。




まるで3コマ漫画に描かれているような絵の描き方で。




不細工な顔をした男。




そんな不細工な男は不細工に笑った顔をしている。




それも顔だけが描かれているわけじゃない。




胸の所まで描かれているわけじゃない。




何故か全身描かれていて。




その身体は・・・




その身体は・・・




3頭身だった・・・。




その3頭身の不細工な男は走っていた。

不細工な顔をして不細工な笑顔で、両手には駄菓子を持って、不細工な格好で走っていた。




それには衝撃を受けて、何も言えなかった。

喧嘩で年上の奴らからどんなに殴られたり蹴られたりしても、何の衝撃も感じないのに。




大人達からどんなに怒鳴られても何の衝撃も感じないのに。




みんなからどんな目で見られても何の衝撃も感じないのに。




嬉しそうな顔で、照れたような顔で、真っ白なはずの顔を少し赤くして俺を見上げてくる珠緒の顔に視線を移す。




珠緒には俺のことがこんなに不細工な男に見えていたらしい。

他の奴らのことは実物よりもずっと綺麗に格好良く見えているのに、俺のことはこんなに不細工な男に見えていたらしい。




衝撃を受けた。




それに、凄く強い衝撃を受けた。




胸が痛すぎて、息も吸えないくらいの衝撃を受けた。




「すご~い!!似てる!!」




「竜だ!!」




「ソックリ!!!」




周りにいた奴らが大きく盛り上がり始め、それに驚きながらみんなを見渡す。

いつも俺のことを嫌な目で見てくる奴らが、珠緒が描いた俺の絵を見て楽しそうに笑っている。

みんな、凄い笑顔で笑っている。




やっと、分かった・・・。




今、やっと分かった・・・。




俺はこんなに不細工なのだと、やっと分かった・・・。




だからみんな、俺のことを嫌な目で見てきていた・・・。




だからみんな、俺のことを汚い物でも見るような目で見てきていた・・・。




だから・・・




だから・・・




タダ兄だけは、俺に優しい目をしてくれていた。

タダ兄も不細工な顔をしているから。

だから、同じように不細工な俺を不憫に思っていたのかもしれない。




それも、タダ兄はシュッとした身体をしているけど、俺は3頭身でもあるらしいから。

だから、タダ兄よりもずっと不細工だった。

俺の見た目全てが、不細工だった。




全身から力が抜けていく中、珠緒の顔を見詰め続ける。




何で珠緒は俺にこんな目を向けるのだろうと思いながら。




こんなに不細工なら、珠緒も他の奴らみたいな目を向けてくれていれば良かったのに。




そしたら、俺は珠緒のことも嫌いになれていたのに。




そしたら、こんなに衝撃を受けることもなかったのに。




いつも描いていたらしい。

俺のこの絵を、いつも描いていたらしい。

得意になるくらいに、いつも描いていたらしい。




“不細工な顔だな”と思っていたのだと分かった。

“不細工な笑顔だな”と思っていたのが分かった。

“不細工な身体だな”と思っていたのが分かった。

“不細工な走り方だな”と思っていたのが分かった。




そんな不細工でしかない俺は、かっぱらった駄菓子まで両手に持っている。




“不細工なことまでしてる”と思っていたのが分かった。




その目で俺を見ながら、いつもそんな風に見ていたと分かった。

不細工な俺を描くのは楽しかったらしい。

だからこんな顔で俺のことを見てきていたらしい。




「下手くそな絵。」

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