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数日後
「タマゴ!校長先生の新しい家の絵、頼まれてるんでしょ?」
俺に喧嘩を売ってきた奴らを教室で投げ飛ばしていると、女達のそんな声が聞こえてきた。
校長は珠緒の絵が好きらしく、今まで色んな絵を頼んできては額縁に入れて家に飾っているらしい。
「うん、今は校長先生の家の部分を描いてて。
家の前に家族が並んでいる所にして欲しいらしくて、初めて人の絵を描くから最近人の絵を描く練習もしてるんだ。」
「すご~い!!!
今日タマゴが絵を描いてる所、見に行ってもいい!?」
「私も行きたい!!」
「俺も!!俺も行きたい!!!」
珠緒の周りに集まる数人の男と女がデカイ声でそう言った。
珠緒は学校の男からも女からも先生からも、商店街の人達からもやけに人気のある女だった。
だから珠緒の周りにはいつも人がいた。
でも、学校の外で絵を描く時だけは誰も側にいさせなかった。
何故か・・・俺が側にいることだけは何も言わないけど・・・。
そう思いながらも、珠緒の反応が怖いと思いながら珠緒を見た。
人だかりで珠緒の姿は見えないけど、それでも珠緒のいる所を見た。
「絵を描く時は竜に見て貰ってるから、ごめんね。」
「竜か・・・。
タマゴって何で竜なんかと仲良いの?」
「私の絵を初めて褒めてくれたのって竜だし、描いた絵にダメ出しもしてくれるから凄い参考にしてるんだよね。」
珠緒がそう言い終えた時、珠緒の周りにいた奴らが俺の方を一斉に向いてきた。
みんな汚い物を見るような目で俺のことを見てくる。
でも、そんな奴らの隙間から珠緒の顔が少しだけ見えて。
その顔は照れたような、恥ずかしがっているような、とにかく・・・なんだか可愛い顔で笑いながら俺のことを見てきた。
それには頭がムズムズと痒くなり、頭をかいた。
「じゃあさ、私の顔描いてよ!!」
「俺の顔も!!!」
「うん、分かった。」
珠緒がそう答えると、ワッと珠緒の周りにもっと人が集まっていった。
そんな光景は数日間続いていた。
*
数日後
「すご~い!!ソックリ!!」
「嬉しい!!!」
今日も珠緒の周りには人が集まっていて、数人が紙を手に持って嬉しそうに笑っている。
あまりにも嬉しそうな顔をしているので、俺は何気なくそっちに歩いていった。
学校ではいつも人が集まっているので俺からは近づかないけど、何気なく近づいてしまった。
そしたら、見えた。
紙を持っている奴らの顔が描かれている紙が、見えた。
顔から胸くらいまでが描かれている絵。
格好良く影まで出来ていて、それは実物よりもずっと綺麗に、格好良く見えた。
それが凄く格好良かったので、人だかりの向こうにいるはずの珠緒に声を掛けた。
「珠緒!!俺のことも描いて!!」
俺がそう声を掛けると一斉に人だかりが俺の方を向いてきた。
そしたらその間から、珠緒の嬉しそうな顔が見えた。
その顔を見ながら俺は言った。
「俺の顔も描いて!!!」
「うん、いいよ。
竜の絵はいつも描いてるから得意なの。」
そんなことを照れたような顔で言って、すぐに鉛筆で絵を描き始めた。
それを見たくて俺は珠緒の所まで真っ直ぐと歩く。
そして、机に向かって絵を描いている珠緒を見下ろす。
絵を描いている時の珠緒の姿は好きだった。
なんというか、とにかく凄く綺麗だった。
そう思いながら珠緒を見ていると、たった数分で珠緒が顔を上げた。
凄く嬉しそうな顔で俺を見上げてくる。
俺よりもずっと身長が高い珠緒。
お互いに立ったままだといつも見下ろされているけど、絵を描き終わった時だけは珠緒は俺を見上げる。
こんな風に、いつも嬉しそうな顔で俺を見上げてくる。
「出来た!」
そう言われ、その絵を楽しみにして見た。
いつものように、楽しみにして見た。
珠緒は絵が凄く上手だから。
初めてそれに気付いたのは、俺の家で駄菓子を描いた絵を見た時だった。
いつも見ていた見飽きたくらいだった駄菓子が、珠緒が描くと美味しそうに見えた。
絵の中にあるその駄菓子を両手で掴みたくなるくらい、輝いて見えた。
そんな昔のことを思い出しながら、俺は自然と笑いながら珠緒が描いた俺の絵を見た。
そしたら・・・
そしたら、いた・・・。
ブッサイクな“何か”が、いた・・・。
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