俺の顔を描いて

Bu-cha

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親父は生まれた時からいなかった。

俺が生まれる前に死んだらしい。

いたのは母ちゃんとばあちゃんだけだった。

じいちゃんは俺が生まれた後も生きていたらしいけど、気付いた時にはもう死んでいた。




父ちゃんとじいちゃんが死んだことによって金はあったらしく、母ちゃんは大きな腹で商店街の実家に戻りばあちゃんと2人で細々と駄菓子屋を続けていた。




「竜!!!また喧嘩したんだってね!?

いい加減にしなさいよ!!!」




小学校から帰ると母ちゃんから怒鳴られたけど、俺は両手で駄菓子を掴み取り商店街の出口へと走った。




いつ誰とした喧嘩なのかさっぱり分からないくらい、俺は喧嘩に明け暮れていた。




母ちゃんもばあちゃんも、他の大人達も幼馴染み達も学校の奴らも全員嫌いだった。




いや、2人だけは結構好きな奴がいた。




その2人だけは俺のことを嫌な目で見なかったから。




いつからか、気付いた頃には色んな奴らが俺のことを嫌な目で見るようになってきた。

それに気付いてからは、嫌な目で見てくる奴らをボコボコにしていった。




なんだかすげー汚い物を見るような目で俺のことを見てくるから。















「竜、どこ行くの?」




駄菓子を持って走っていると、向こうから歩いてきたタダ兄が聞いてきた。

中学校に上がったタダ兄。

制服姿のタダ兄は相変わらず不細工だった。

こんなに不細工な人間がいるのかと驚くくらいの不細工さだった。




でも、その目は優しくて。




信じられないくらいに、優しくて。




そんな目をしているタダ兄に笑い掛ける。




「珠緒(たまお)の所!!」




「タマゴか。」




絵の上手な珠緒はみんなから“タマゴ”と呼ばれていた。

“画家のタマゴ”だから“タマゴ”。




でも、俺だけは珠緒のことを珠緒と呼んでいた。




「気をつけてね、行ってらっしゃい。」




そんな優しい言葉まで俺に掛けてくれるタダ兄。




「行ってきます!!!」




そう叫んでからもっと速く走った。




俺のことを嫌な目で見ることはないもう1人の元へ。




珠緒の元へ。





「珠緒!!駄菓子かっぱらってきたぞ!!」




出来たばかりの綺麗な家の前に座り絵を描いている珠緒の隣に座り、家の駄菓子屋からかっぱらってきた駄菓子を珠緒に見せる。




それを珠緒はチラッと見てきて、怒った顔でまた絵を描き始めた。




「家の物でもお店から取る時はちゃんとお金払いなよ。」




「だから最初から言ってるだろ、かっぱらってきたって!!」




「もぉ~、またみんなに怒られるよ?」




「何しても良い顔されねーから別に良いんだよ。」




「良いことなんて何もしてないからでしょ。」




「そんなことねーだろ!!!」




「良いこと何したの?」




「お前のことを珠緒って呼んでる。」




俺がそう言うと、珠緒は驚いた顔で俺のことを見てきた。

真っ白でツルンッとした珠緒の顔。

輪郭は卵のようで、そこに薄く眉毛と目と鼻と口がある。




「私が“タマゴ”って呼ばれるのが嫌だって、気付いてたの?」




「なんだ、嫌だったのかよ!?」




「え・・・気付いてなかったのに珠緒って呼んでくれてたの?」




「そんなこと気付くかよ!!」




「じゃあ何で珠緒って呼んでたの?」




「珠緒って呼ぶと嬉しそうな顔してたから、珠緒って呼んでた。」




そう答えた俺に、珠緒はタダ兄とは比べ物にならないくらい満面の笑顔で笑った。

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