第13話:毎日は勘弁してくれ。

「じゃ〜行って来るから・・・」


「はい、いってらっしゃいのハグ・・・」

「はい、いってらっしゃいのチュー・・・」

「じゃ〜ね、早く帰ってきてね・・・三秒で帰ってきてね」


「十秒くれても無理だわ」


今のセシルの三秒ってのは、なにを根拠に三秒って言ってるんだろ?


「・・・って言うか俺を起す時、よだれだらけになるくらい顔じゅうブチュブチュ

しただろ?、あれはやめてくれないか?」


「あれくらいじゃ足りないの」


「とにかく・・・会社遅れるから行ってくるから・・・」

「幽霊のパセリさんと仲良くやってるんだよ」


「お仕事がんばってね」


「うん、じゃ〜ね」


「え?・・・未来ちゃん今、オナラした?」


「してないよ」


「いまブって言ったよ?」


「僕じゃないから・・・セシルだろ」

「私、おしっこもオナラもウンチもしないんだよ」


「じゃ〜誰だ?」


「パセリさんが、私だって・・・あはは」

「行ってらっしゃいって言っても聞こえないだろうから、その代わりだって」

「わざわざLINE送ることでもないし・・・だって」


「上の口からは言葉が聞こえないのに、下の口からなら音は出るんだ?」

「幽霊なのに?」


「オナラで返事できるよって、パセリさん器用」


「うそ〜・・・そんな器用なことできるんだ・・・みどりちゃん芸達者だな」


「生前から得意だったみたい」


「ああ、生きてる時から、ちょっと変わってたんだ・・・」

「それが原因で彼氏にフラれたとか?・・・」


「ちがうわ!!、って言ってる」

「忘れようとしてること思いださせやがって、呪い殺すぞって言ってるよ」


「お〜こわ〜」


「パセリさん、それは私が許さないからね」

「私の大事な未来ちゃんに手は出させないぞ!!」


「え?言ってみただけ?」

「ふふんふんふん・・・ほう・・・なるほど・・・」


「パセリさっんはね、閻魔さんの前でオナラでメロディーを披露して

ウケたんだって」

「でね閻魔さんが、面白いネエチャンだから望みがあるなら一つだけ叶えて

やるから言ってみろって言われて・・・

人間の世界に戻りたいって言ったら、よかろうって戻してくれたんだって」


「あ〜、で、この部屋に戻ってきたと・・・」


「でも体はとっくに火葬場で焼かれちゃってないから、しかたなく 幽霊のまま

ここにいるんだって・・・ 」

「閻魔さんの前で特技や芸を披露した人には恩赦があるんだって」


地獄八景亡者戯じごくばっけいもうじゃのたわむれみたいな話だな」


「なにそれ?」


「落語にそういう話があるんだよ」


「らくご?」


「あのな、サバの刺身を食べて食当たりで死んだ喜六ってやつがさ、冥土の旅路で

先に亡くなった伊勢屋のご隠居とか、芸者や舞妓・仲居や幇間を引き連れた

若旦那の一行に出会って、みんなで地獄をバカ騒ぎしながら巡るって話・・・。

まあ、はちゃめちゃな話だよな」


「その中でな、芸のある奴は閻魔さんの前で披露するってシーンが出てくるんだ」

「だから、みどりちゃん地獄八景まんまだなって思って・・・ 」


「伊勢屋のご隠居に告られたって言ってるよ、パセリさん」


「うそ言え、ご隠居は〜落語の中の人だってば・・・告られるわけないだろ

だろ・・・だいいち時代が違うし・・・」


「江戸時代の人も、あっちは誰も死んだ時のままで歳とらないんだよって

言ってる・・・パセリさんが・・・」


「ふ〜ん、面白そうだな・・・それなら死んだらどうなるんだろ、なんて

怖がる心配ないじゃん」


「行きたいなら、いつでも連れてってあげるってパセリさんが」


「遠慮しとくわ、まだセシルとエッチもしてないのに・・・」


「つうか・・・話に盛り上がってたら会社遅れるだろ・・・じゃ〜ねセシル」

「パセリさんも行ってくるから・・・」


「未来〜早く帰ってきてね・・・帰ったらしようね〜エッチ」


「そう言う大事なことを、あっさり言うな」


「待たせるからだよ」


「待たせたお覚えなんかないけどな・・・」


「だったら早くしようよ・・・じゃないと未来ちゃん明日、死んじゃうかも

しれないじゃん」

「毎日エッチでもオッケ〜だよ」


「おい、縁起でもないこと言うな・・・俺が死んだらパセリさんと仲良くするぞ・・・いいのか?」


「ヤダ・・・ヤダ、ヤダ、ヤダ、ヤダ、矢田亜希子・・・」

「そんなことしたら私も死んでやる」


「そうか?・・・三人で仲良く幽霊やるか?」

「どさくさに紛れて笑えないようなギャグなんか挟んで・・・」


「んなことより、毎日は勘弁してくれ・・・俺も嫌いじゃない方だけど毎日は

ちょっとな」

「カレーだって毎日食ってたら飽きるだろ?」


「私はカレーじゃないぞ〜」


こんなことしてたら僕は絶対会社、遅刻だよな・・・。


つづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る